少子高齢化やテクノロジーの革新などを背景として、「働き方」の変革が進んでいると言われています。個人のスキルや特徴、志向性を活かした多様な働き方を実現するにはどのような仕組みが必要なのでしょうか?働き方の多様化が進むことによって、個人が自分の潜在価値を最大限に発揮し、キャリアを戦略的に構築していく機会が増えていくことが期待されます。
前回は、働き方が変わっていく中での個人の戦略的なキャリア設計の重要性や能力開発についてお話してきましたが、今回は働く機会を提供する法人側について見ていきましょう。厚生労働省による、「働き方の未来 2035:一人ひとりが輝くために」懇談会による報告書「働き方の未来 2035」(2016年8月)でも「自由な働き方の増加が企業組織も変える」とあるように、企業の枠を超えて働くことが増えることで、そもそもの企業の在り方などが問われることになるでしょう。
企業組織の変革、自由な働き方を提供する柔軟な組織体に
新しい働き方は個人のキャリアや考え方を変えていきますが、当然ながら、企業も変化していく必要があります。
これまで企業は、働く場所を提供し、その中で働いた時間を管理していました。こうした仕組みの中では、多くの個人にとって企業は人生の多くの時間を過ごす主要なコミュニティでした。今でもそうですが、多くの働く個人が自分をあらわすときに、「私は〇〇に所属しています」と会社名をまず最初に伝えることからも、会社という存在の大きさがわかります。
しかし、そのような状況も場所や時間に縛られない多様な働き方が推進されることで変化していくかもしれません。複数の企業で働いたり、リモートワークをすることで社内で過ごす時間は相対的に減っていき、社外のプロジェクトやネットワークにかかわっていくことが増えていくことで、雇用されている会社以外のコミュニティに接する機会も増えていきます。
そこで企業側に求められるのが、自由な働き方を提供すること。優秀な人材、ハイスキルな人材に自社を選択してもらうためには、自社を魅力化していかなくてはなりません。結果として、現在では考えられないほど柔軟な組織体となっていく可能性もあります。
ちなみに、働く空間である企業のオフィスも多様性を増しています。例えばリクルートでは、「とにかく組織変更や人の異動が多い会社なので、机を動かさず人だけが移っていく方式は、手間やコストを減らすうえで絶対に採用したいと思っていました」という言葉通り、仕切りなどが一切ないオープンなレイアウトになっています。(ノマドからクラウドソーシングまで:「働く」を創る企業のオフィス https://nomad-journal.jp/archives/602)
会社と個人の目標を完璧に一致させるのではなく、ある期間、一定条件のもとで両者の整合性を目指していく「アライアンス」の考え方
このような柔軟な組織体がさらに発展すると、未来の企業は、いわばプロジェクトの塊、集合体ともとらえられます。プロジェクト期間内はその企業に所属するが、プロジェクトが終了するとともに、別の企業に所属するという形で、人がプロジェクトベースで、柔軟に企業の内外を移動する形になっていくことが考えられます。その結果、企業組織の枠組み自体があいまいになって、「会社に所属している」という意識が薄くなり、その意味も変わっていくかもしれません。
また、このような働き方は、シリコンバレーではすでに一部実現されつつあります。リンクトインの創業者であるリード・ホフマンによる「アライアンス」(2015/7/10 リード・ホフマン;ベン・カスノーカ;クリス・イェ (著), 篠田 真貴子;倉田 幸信 (翻訳))では新しい雇用の枠組みが紹介されています。ここでのアライアンスとは、個人と会社の間にフラットで互恵的な信頼に基づくパートナーシップを築くもの。会社と個人の目標を完璧に一致させることではなく、ある期間に一定条件のもと、自然な形で両者をそろえる取り組みです。
なおここでは、企業は個人に対して、数年単位のプロジェクトを提供し、個人のやりたいこととすり合わせていくような形で、個人はプロジェクトが完了した場合は、個人の志向性に合わせて次のステップを選択していくことができます。
記事作成:川口 荘史
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。