ハイテク業界に男女の格差があることはよく知られています。ハイテクはもともと男性中心で出来上がった業界なので、未だに同じ技術を持っている男女がいたら、男性の方が採用されるという話もよく聞きます。どの国の統計を見ても、ハイテク産業に女性の占める割合はまだまだ低いと言えます。しかし問題はそれだけでしょうか。

女性のためのリモートワークジョブサイトPowerToFlyの創業者キャサリン・ザレスキさんは、ハイテク企業が女性、特に母親たちに家庭を育てながらキャリアを追求するためのフレキシビリティを十分に与えていないことが原因だと分析しています。

男女間の格差の研究では、「職場のフレキシビリティの欠如」は何も新しいことではありません。米国のシンクタンク、Pew Research Center調査では、子供がいるためにキャリアの追求が困難と感じている女性は51%いるのに対して、男性はわずか16%。家庭のために労働時間を減らした女性は42%なのに対して、男性は28%でした。

リモートワークは男女の格差を縮めるか

バリ島に電子メールのオーガナイズツールのスタートアップMailbirdを立ち上げたアンドレア・ルビエさんは、起業以来、世界中から優秀なタレントを採用して、この会社を育ててきました。彼女自身も熱心なリモートワークの擁護者です。女性にとって自宅で働けることは、単に通勤時間の短縮になるだけでなく、ハイテク産業にある男女の格差を最終的には縮めることになると彼女は信じています。

米国ウィスコンシン・ミルウォーキー大学研究では、調査に参加した女性の3分の1が、企業にフレキシビリティが無かったために、キャリア中途でハイテク業界を離れています。この結果からも、ハイテク業界が優秀なタレント獲得のために、リモートワークの許可などより柔軟性を高めることが必要なことがわかります。しかし現在、世界にはそれでもハイテク業界で女性が活躍している国があります。

女性がハイテクで活躍するイスラエル

中東のイスラエルは「スタートアップ国家」として知られています。イスラエルでは多くの女性がテクノロジー企業のトップの座についており、それはほかの業界にも影響を与えています。現在イスラエルの5大銀行のうち3行のCEOも女性です。ここでイスラエルで開発される革新的な技術の原動力となっている女性起業家を数人ご紹介してみましょう。

キーラ・ラディンスキ博士は、彼女の持つ未来の予知能力で、世界中の新聞にも紹介されています。15歳で大学に入り、26歳で博士号を取得。その後2つのスタートアップを起こしました。そのうちの一つSalesPredict はeBayに4千万ドルで売却されています。

現在30歳の彼女は、eBayイスラエルのチーフサイエンティストであるとともに、国内の技術研究の最高峰テクニオン研究所の研究員として、社会の動乱を含めた未来の予測をしています。彼女がSalesPredictのために開発したソフトウェアは、複雑なアルゴリズムを使って企業が有望なリードを見つけるのを手助けしています。このような未来を予測する能力は、現在の過剰なデータ社会がまさしく必要としているものです。

マキシン・ファスバーグさんは、2007年からintelイスラエルの社長として、この巨大チップメーカーを管理してきました。2012年には「ハイテクで最もパワフルな10人の女性」の一人としてCNNに認定されています。

intelはイスラエル最大の多国籍ハイテク企業で、国内6か所に約1万人の従業員が働き、イスラエル政府の統計では、この1社で国の輸出の9%を占めています。40年前、intelは米国外初の研究開発センターをイスラエルに置きました。イスラエルに進出以来、同社は画期的なコンピュータプロセッサのシリーズを開発、それまでのハードウェアを超えて進化してきました。

intelは彼女のリーダーシップの下、イスラエルのスタートアップ企業Mobileyeと自動車メーカーのBMWとの協力で無人車の開発に取り組んできましたが、2017年3月にMobileyeを破格の150億ドルで買収しています。

オルナ・ベリー博士は、サイエンティストで、ハイテク起業家です。90年代には、イスラエル最初の女性チーフサイエンティストとして働きました。2000年にはパートナーとしてベンチャーキャピタルGemini Israel に参加し、Microsoft Xbox Kinect用のセンサーと3Dキャプチャ技術を作ったスタートアップのPrimeSense を率いました。2013年にPrimeSenseはApple Inc.に3億6000万ドルで買収されています。

イスラエルの取締役に女性が占める割合は20%ですが、ベリーさんは豊富な技術と科学の知識で、これまで複数の上級幹部に任命されています。

スタートアップの「鉄の女」と呼ばれるミハル・ツール博士は、イスラエルスタートアップのエコシステムの中で最もパワフルな女性の一人と考えられています。彼女は、2005年に1億4500万ドルでRSA Securityに売却された、オンラインセキュリティ企業 Cyotaの共同創設者です。

彼女は現在オープンソースの動画プラットフォームKalturaの社長兼共同創設者で、カスタマイズされたビデオなどの機能でウェブサイトを強化しています。その顧客にはHBOABC、ターナー、ワーナーブラザーズパラマウントなどの大企業が含まれます。このスタートアップは最近、ゴールドマン・サックスから5000万ドルを調達し、総投資額1億6500万ドルとなりました。

ナーヴァ・スウェルスキ・ソフェルさんは、25年間のキャリアの中で、弁護士、起業家、ベンチャーキャピタリスト、上級幹部だけでなく、技術革新と技術商業化の専門家を勤めてきました。

現在彼女は、IDCBeyondのビジョンや新しい世代の起業家を訓練するIDCプログラムのマネージングディレクターとして働いています。このプログラムは、持続可能性、バイオ医学、技術とグローバル化など、21世紀の主要な問題に対処することに焦点を当てたものです。彼女は「2017年には男性と女性、背景、年齢、国籍の多様性にフォーカスした、バランスのとれたグループを持ちたい」と抱負を語っています。彼女はまた、イノベーションに関する国連の世界知的所有権機関(WIPO)の顧問でもあり、複数組織の理事会メンバーでもあります。

現在イスラエルのハイテク産業に占める女性の割合はわずかに35.5%。それでも女性開発者が20%、管理職が11%のシリコンバレーよりは、男女間格差は小さいと言えます。国際経営開発研究所が行った「職場における男女平等を推進している先進国」調査で、イスラエルは59カ国中21位にランクしています。

このような先駆者たちの活躍を見ると、これからのハイテクでの女性の活躍がますます楽しみになりますね。

参考記事:

https://www.forbes.com/sites/andrealoubier/2017/03/13/how-working-remotely-is-helping-women-close-the-gender-gap-in-tech/#767743fc4ea7

http://nocamels.com/2016/08/inspiring-women-israel-technology-startups/

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)

ノマドジャーナル編集部
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