世界的なオンライン小売業大手Amazonのオーストラリア進出が、現地の3千億ドル産業の小売業を揺るがしています。Amazonのオーストラリア市場への進出は、昨年から取りざたされてきました。同社は今年9月に開店予定の地元の倉庫を使って、オーストラリアの顧客へこれまでにない迅速な商品配送サービスを展開しようとしています。

Amazon がオーストラリアへもたらす流通改革

Amazonは手始めに、IT、マーケティング、販売、HRに100人以上の求人広告を出しました。「私たちは配信サービスを強化し、このビジネスを次のレベルへ導くシステムを設計開発するソフトウェアエンジニアを求めています。」

もう1つの広告は「Amazon Freshでは、牛乳からエレクトロニクスまで幅広い選択肢の中から、午前10時までにご注文いただいた品物を、同日の夕食時までにお届けします」と謳っています。

オンラインで購入した商品が海外から配送されてくるまで、数週間も待つことに慣れているオーストラリア人にとって、Amazonの計画している地元倉庫からのスピード配送は、商品販売の流れを革新的に変えるものになることは明らかです。

Amazonは、店舗をオンライン発注と統合したこれまでにない方法で、オーストラリアの900億ドルの食料品産業に新しい食料品の買い物体験を創り出そうとしています。

シアトル本社の近くにあるハイテクAmazon Goのコンビニエンスストアは、この先世界規模で展開するであろう同社の計画モデルのプロトタイプであると信じられています。

消費者を魅了するサービスと、廃業に追い込まれる小売店

月額14.99ドル(約1,690円)でAmazonプライム会員が利用することのできる新鮮で安価な食料品配達サービスは、すでに米国の消費者を十分魅了しています。

これはオーストラリアの消費者にとっても利益になることばかりのようですが、実はこのAmazonの改革には重大な欠点があるのです。

今年初め、米国メリーランド州最大の都市ボルチモアで行われた同社の「18ヶ月以内に米国で10万人を雇用する」という発表とは裏腹に、ボルチモアの郊外ではショッピングセンターの解体作業が進められていました。

新しい産業が興り、古いものに取り代わっていく必然的なプロセスを、経済学者のジョセフ・シャンピター氏はcreative destruction(創造的破壊)と呼び、これは長期的には経済に悪いことではないと説明しています。Amazonに雇用される予定の10万人の中には、低賃金の倉庫労働者だけではなく、高給のエンジニアやソフトウェア開発者も含まれているのです。

しかし破壊される側からすれば、これは突然襲ってきたハリケーンに飲み込まれるようなもの。実際に伝統的な商業の多くが廃業に追い込まれ、人々が職を失っています。Amazonによって仕事が一つ作り出されるたびに、より多くの伝統的な小売業が廃業に追い込まれているのです。

米国では、この数ヶ月間に数千人のスタッフがデパートから一時解雇されたのに対して、オーストラリアの小売業者がこれまで受けた被害は限られたものでした。しかしそれもこのAmazonの上陸で、大きく揺さぶられることになりそうです。

自治体研究所支持グループのステイシー・ミッチェル氏は、Amazonの倉庫労働者の多くが短期契約業者で、業界平均を下回る賃金で働いていることを挙げ、Amazonの米国雇用市場への悪影響を批判しています。

「Amazonは小包配送業に低賃金で不安定な労働モデルを広げ、UPS(米国の国際貨物航空会社)と米国郵政公社の約100万人の労働組合員である、中級労働者の雇用を脅かしています。」Amazonはすでに倉庫でロボットを使用し、無人納品ドローンも開発済み。これらが労働者に取って代わられる日も予想されるというのです。

どこまでも戦う意向の豪小売り業者

一部のアナリストは、Amazonがオーストラリア上陸後の5年間に30億ドル(豪市場全体の約1%)の売り上げを獲得する可能性があると分析しています。従業員の増員に備えてAmazonの現地施設が拡大される中、オーストラリアの小売業者たちはこの事態にどう対応すべきか、頭を悩ませています。

Amazonがその株式を保有したいと望んでいる、エレクトロニクス、家具、寝具販売の豪州ベース多国籍小売業ハーベイ・ノーマンの創業者ゲリー・ハーベイ氏は、「アメリカや世界各地でAmazonが多くの小売業者を失業に追い込んできたことは間違いない。我々は、アメリカの小売業者がしなかったような戦いをする」と意気込みます。

スーパーマーケットチェーンWoolworthsの元CEOロジャー・コルベット氏も、Amazonが低賃金労働をオーストラリアに複製することや、農村部へのスピード配達の実現に手を焼いていることを挙げ、「Amazonはオーストラリア市場に影響を与えるだろうが、すでに非常に競争の激しい市場に参入しようとしていることを知るべきだ」と語っています。

もっと行われなければならないこと

J.P.モーガンのチーフエコノミスト、マイケル・フェロリ氏は、今や生産性と同義語となったAmazonを、水が半分まで注がれたコップに例えています。このような創造的破壊は、コップに入った水の部分を見つめれば、たしかに経済成長の益になるものと言えるのです。

どちらにしても一つ間違いなく言えるのは、この先仕事を奪われるであろう労働者のために、職業再訓練の機会や賃金保障プログラムを早急に作り出すことが、どの国の政府にとっても必須の課題となるということでしょう。

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)

ノマドジャーナル編集部
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