タイには260万人の外国人労働者がいます。その多くは貧しい近隣諸国、ミャンマー、ビルマ、ベトナム、カンボジア、ラオスなどからの移民労働者です。このうち合法的に働いているのは半数ほどと推定されています。このような移民労働者の多くは、タイ人が従事したがらない危険な仕事、建設、農業、漁業などに携わっています。

タイの養鶏場労働者の例

昨年夏、タイの養鶏場で一日22時間シフトで働く移民労働者の状況が報道されました。ミャンマー出身のミントさん(50)は日に500羽の鶏を殺します。それらは食用に欧州諸国へ現地製品として送られたり、ペットフードになります。ピーク時には労働者は2万8千羽の鶏と同じ建物の床に眠らねばならず、鶏が病気になれば彼らの責任になります。

疲れすぎて働けなければ少ない報酬からさらに減給され、仕事を止めようにもパスポートを押収されているので、それもできません。週に一回監視付きのスーパーへの買い物が、外の世界を見る唯一の機会だそうです。

ミントさんとともに働く13人のミャンマー人男女労働者はほとんど毎日、午前7時から午後5時まで働き、再び午後7時から翌朝5時まで働かされました。残業費や病気休暇はありません。20~50歳のこのような労働者の報酬は、タイ人の最低賃金をはるかに下回り、床に寝ていても宿泊施設代を引かれたそうです。

6月に労働者の一人が、フェイスブックに投稿された移民労働者の権利ネットワーク(MWRN)の投稿を見つけたことが、このような状況から彼らが救出されるきっかけとなりました。

新しい就業規則の施行

6月23日、タイでは合法な許可のない外国人労働者に5年までの収監と60~2,935ドル(約6,800~33万5,000円)までの罰金、その雇用者に23,500ドル(約268万3,000円)までの罰金を命じる、就業規則が施行されました。それ以来3万人の移民労働者がタイから本国へ送り返され、政府が労働者の安全を確保するための措置を講じなければ、その数はこの先も増え続けるだろうと、タイの移民権利擁護団体である労働権促進ネットワークは予測しています。

タイの請負業者協会長のスワット・リプタパンロップ氏によると、この規制は建設業界から4~8万人の移民労働者の喪失を引き起こしたということです。

タイを離れることを余儀なくされた移民労働者の中には、報酬を支払われていない者もありますが、厳しい規則にパニックに陥った労働者達はこの国を離れています。これらの人々は、雇用なしには交通費も生活費も支払えない人たちです。仕事に戻るためには、合法的に働くために雇用代理店に仲介料を支払わねばならず、そのための借金に縛られてさらに労働から離れられなくなります。言葉の不自由な人への仲介料には割増金もつくそうです。

ミャンマーのミョー・アング労働相は、大量に帰国してくる労働者への措置を現在検討中としており、在タイ・カンボジア大使館は、タイ当局との話し合いを進める一方で、タイで働くカンボジア人労働者へ冷静に対処するよう呼びかけています。2014年にはクーデター後の軍事政権で20万人のカンボジア人労働者がタイから送り返された前例があります。

米国に基盤を持つ国際的人権NGOのヒューマンライツウォッチ、アジアディレクターのブラッド・アダムズ氏は、「長期の刑期と高額の罰金を科せられた未登録の移住労働者を脅かすことは、腐敗した役人や悪意ある雇用者が彼らを虐待するのを促進するだけだ」と語り、「タイが今必要としているのは、移民労働者の権利を守る法律だ」としています。

良好な日本との関係

このような問題を抱えたタイですが、外交を樹立して今年で130年になる日本との関係はきわめて良好です。日本企業からの投資の貢献もあり、これまでタイ経済は成長を続けてきたと言われています。現在このような投資をさらに促進するために、次世代の成長を担うことが期待される10産業が「新成長エンジン」という名で指定されています。

この10分野に含まれるのは、次世代の自動車産業、スマート電子機器産業、バイオ燃料とバイオケミカル産業、デジタル経済、将来のための食品、医療ハブ、航空宇宙産業、自動化機械や産業ロボット、農業・バイオテクノロジー、富裕者向けの医療健康旅行です。これらの産業への投資には、タイ政府による全面的なサポートが受けられるということです。

タイに投資すべき理由

タイへ投資すべき理由に挙げられるのは、地理的にアジアの約30億人、ASEAN諸国の約6億人の消費者へのアクセスに適した位置にこの国があること。2016年の世界銀行による「事業展開の容易さランキング」でタイは、東アジアの新興経済国の中で第2位、国連貿易開発会議の「アジアの有望経済国ランキング」でも2013~2015年に第4位となっていることなどです。

この国への投資を募る広告には、タイが12の国際空港をもち、首都の公共交通システム、都市間鉄道や高速道路のインフラを強める開発、海上輸送、空路でネットワークの拡大や輸送能力の増強をはかっていることも強調されています。重点産業に指定された10分野は、まさにASEAN地域の経済成長の推進力と見なされているのです。

まとめ

移民労働者なしにはやっていけない状況の中で、タイは外国資金を導入して産業開発を進めようと努力しています。開発に成功しても、労働力問題は依然として残ります。日本と違うのは、すでに大量に入り込んでいる外国人労働者を、この先どのように合法的に活用していくかということでしょう。

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)

ノマドジャーナル編集部
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