フィンテック(Fintech = finance + technology)とは「ICT(情報通信技術)を駆使した革新的な金融商品・サービスの潮流」などの意味で使われる言葉。アジアのシンガポールは低迷経済を復活させるために、金融技術やフィンテック・ハブとしての地位の確立を急いでいます。

シンガポールの取り組み

昨年夏、シンガポール金融管理局(MAS)は両替、送金、支払いシステムの簡素化を法律に盛り込みました。両替、送金、支払いシステムは多くの国で問題になっており、これを是正したことはシンガポールの先進さの現われと言えます。

MASのディレクター、ラヴィ・メノン氏は自らの使命を「消費者に最大の快適さを与える、支払い技術の革新を後押しする社会を実現することだ」と強調します。このビジョンの基にあるのは、英国の金融行動監視機構(FCA)のものとよく似たサンドボックス(ウイルスを分析してセキュリティ対策をする手法のこと)。このサンドボックスは、新たに創り出された金融商品や技術サービスのすべてにアクセスでき、それらを事前にテストすることができます。

シンガポールは、国家資金の投入、規制の軽減、スタートアップが制御された環境で金融商品をテストできるようにした仕組みで、アジアのフィンテックのホットスポットとして、すでに香港をしのいでいると言われます。
UberAirbnbなどが技術とオンラインのソーシャルネットワーキングを活用して、伝統的なタクシーやホテルサービスを妨害しているように、フィンテック企業も伝統的な銀行や金融サービス業界に揺さぶりをかけ始めているのです。

規制とコラボレーションの必要性

MASは昨年スイスの金融市場監督庁(FINMA)と、そして今年3月にはフランスの2つの規制当局ACPRAMFとの協力体制を築きました。シンガポールは日本やアブダビ、その他の国の金融規制当局とも契約を結んでいるそうです。

コラボレーションでは、今年3月初め、blockchainというスマートコンタクト技術を持つシンガポールのフィンテック・スタートアップINVICTUS社IBMと提携した例があります。

シンガポールをフィンテックに駆り立てているもの

シンガポールがフィンテックに積極的にならざるをえない背景には、いくつかの事情があります。その一つは、インドネシアの税金恩赦(未申告資産を届け出ることで、税金の減免を受けられる制度)のために、アジアの富裕層向けにオフショア・プライベートバンキング業務を拡大しようとしているシンガポールから、数十億ドルの未申告資金が流出していること。

もう一つは、昨年話題になったマレーシアの数十億ドル規模のマネーローダリングスキャンダル(マレーシア国営総合開発会社1MDBが政治家や富豪のマネーロンダリング経路になったとして、米国、シンガポールでも大きな話題になった事件)からの脅威にさらされていることです。
さらに、シンガポールの伝統的な出荷および製造業の成長駆動機構が、世界的な景気の減速や商品価格と需要の低下で低迷していることも挙げられます。

BREXIT の後押し?

フィンテックのホットスポットとして浮上しつつあるシンガポールは、約6万の英国フィンテック企業の注目の的でもあります。このトレンドは、英国の欧州連合脱退(BREXIT)に関する国民投票でさらに加速されそうです。

フィンテックコンサルタントtrybの共同創設者マルクス・グニルク氏は「我々はアジアへ移動することに関心を寄せている英国ベースの企業の登録をすでに始めている」と語っています。
BREXITとともに、英国ではフィンテックに新たな規制などの障壁ができることが予想されています。
「BREXITは長期的に、起業家にとってヨーロッパを魅力のない場所にするだろう」とピア・ツー・ピアの送金会社TransferWiseのCEOタヴェート・ヒンティクス氏は分析します。

オランダを拠点に世界148か国にネットワークを持つサービスファームKPMGの報告書は、フィンテックの好機を掴むためシンガポールが積極的に取り組んでいることを挙げ、trybは、シンガポールの210のフィンテック企業のほとんどが過去2年間に創業したものだと伝えています。これはアジアでは最も速い成長率です。

移民規制が障害となる可能性も

しかしこのような動きへの障害もあります。その一つはシンガポールの移民法です。外国人労働者の数を抑制し、シンガポールを優先させる措置は、技術改革に才能不足を引き起こしかねないと関係者は考えています。
銀行規制が創り出すリスク回避の文化も、フィンテックスタートアップの試行錯誤のアプローチに相反するものです。

努力は実を結び始めている

それでもこの国の努力は、実を結び始めています。投資家調査の分析を提供するプラットフォーム・スタートアップのSmartKarma社は、本社を香港ではなくシンガポールに設置することにしました。同社のCEOラガフ・カプール氏は「技術革新をサポートすることに関して、シンガポールほど進歩的な政府を持つ国はない」と語っています。

米大手債券の格付け機関Moody’sの「世界的な金融危機以降、シンガポールの経済成長ペースは遅い」という予想を受け、シンガポール政府は新産業と繋がりを持つための努力を怠りません。ショートパンツにビーチサンダル姿のあるフィンテック起業家は、規制当局とWhatsAppで連絡を保ち、週一度は会っていると言います。
香港の規制の厳しさとは対照的に、シンガポールでは承認を求めずに、決済システムや電子財布を操作することができます。MASのメノン氏は「スタートアップが大きく成長して、伝統的な金融システムを脅かすようになった時にだけ規制すればよい」と説明しています。

「規制」、「コラボレーション」、「技術革新」。これらはフィンテック成功のための重要要素ですが、シンガポールにはこれらすべてがそろっています。現在フィンテックのダークホースであるシンガポールが、世界的なフィンテックセンターとして浮上してくる日は、そう遠くないのではないでしょうか。

記事制作/シャヴィット・コハヴ (Shavit Kokhav)

ノマドジャーナル編集部
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