「農家での生活をしてみたいけれど、いきなり定住するのはどうも……」「短い間だけ田舎体験ができたら、きっと楽しいだろうな」。そういう思いが、一つの新しいビジネスになりました。
それが”地域の暮らしを旅する”予約サイト=TABICA(https://tabica.jp/)です。一般社団法人シェアリングエコノミー協会の中心的な役割にある株式会社ガイアックスが社内で公募した新事業がきっかけとなって、2015年にスタートしました。
民泊ならぬ「民旅(みんたび)」、つまり一般の人が案内人となって体験内容を企画し、ゲストを迎えて暮らしを共有してもらうという新しい観光ビジネスです。今回は、TABICAで広報を担当している株式会社ベンチャー広報の脇屋木夏さんに、サービス企画推進の立場からのお話を伺いました。※記事内容は2017年6月8日の取材をもとにしています
“発”地型ではなく”着”地型観光?
筆者:
まずは、TABICAについてお聞かせください。
脇屋木夏さん(以下、脇屋):
大きな特徴としては、地元の人が案内人となって、ゲストに暮らしを体験してもらうことを目的とした観光であるということです。あくまでも案内人の人柄や生活を体験することに重点を置いているので、参加人数も5人から15人程度の少人数にしています。
筆者:
なるほど。
脇屋:
そのため、今までのような都市で集まってバスで移動して帰ってくる、いわゆる「発地型観光」(発地型:観光客=マーケット側が主体となる観光)とは違い、現地集合の「着地型観光」(受け入れ側が主体となる観光)にしました。発地型だと、ツアーを作ってバスを手配してという手間がかかります。でも着地型なら、現地集合・現地解散でき、さまざまな交通手段で参加することができます。なお、宿泊先のホテルなども組み込まれていないので、もし宿泊する場合には、ご自身で手配していただくことになります。
筆者:
どんな体験ができるのでしょうか。
脇屋:
都会暮らしのゲストが興味を感じてくださるのが、田舎体験です。農家での野菜やお米の収穫、自分も調理に参加しての味わい体験、籠や竹笛づくりなどいろんな企画があります。川でうなぎを獲って、蒲焼も作って食べられる企画などは結構人気がありますね。また、都心での街歩きも増えていて、歴史や文化といった切り口で現地の専門家に説明してもらいながら体験する企画や、築地の隠れた名店巡り、占いをテーマにしたワークショップなども人気が高いです。
サービスがスタートして半年で月間参加者数は約20倍に!
筆者:
世間での認知度はどうですか。
脇屋:
地元の人と触れ合うことで日常を体験できるというのは、今までになかった価値として観光客側、案内人側双方に興味深く受け取られているようです。新聞や、テレビ各局の番組でも取り上げられていることもあって、2016年4月からの半年で、月間の参加者数が約20倍に増加しました。会員数も、年内(2017年)には1万人を超える予測です。
年齢層でもっとも多いのは40代の女性で、いい意味で旅慣れた、本物を見抜く目を持ったゲストによる評価やTABICA保険があることで、比較的安心して参加していただいているのではないかと思っています。
筆者:
そうなると、案内人になるには企画力も必要なのではないでしょうか?
脇屋:
企画力は必要ですが、必ずしもというわけではありません。案内人に登録する段階で、TABICA側からどんな体験を開催したいのかをヒアリングさせていただき、一緒に体験をお作りしています。集客の点も、TABICAのサイトでご紹介させていただいたり、SNSやメディア露出などでサポートさせていただきますので、案内人の方の負担はとても少ないです。
人とのコミュニケーションが好きな方であればどなたでも案内人になることができますTABICAとしては体験作成や集客をお手伝いすることで、案内人の方がより多くのゲストとつながってほしいと思っております
シェアリングシティなどとタイアップで地方活性
筆者:
地域活性につながるという側面もあると思うのですが。
脇屋:
実は今、各地でシェアリングシティ宣言をする自治体が増えていて、シェアリングエコノミー協会としても”共有することで活性化する都市モデル”の構築に取り組んでいるところです。
地域活性というテーマは、もともとシェアリングエコノミーを考えるうえで切り離せないもので、TABICAも2月に多久市、3月に島原市とタイアップして、体験・イベントの案内人を募っています。このように、今行政と一緒になって研修やナレッジ共有を行い、案内人というもう一つの仕事を持つ人を育てていくことにも注力していきたいですね。ちなみに案内人での収入は月に40万円以上になる人もいらっしゃいますので、副業としても十分に機能すると考えています。
筆者:
ホームページを見ると、海外での体験もできるのですね。
脇屋:
海外関係としては、タイのTake Me Tourとの提携で、タイの田舎を体験する旅にも出かけられるようになっています。これからも、田舎そのもの、そしてそこで暮らしている人の魅力の発見につながるような企画を、さらに発信していきたいですね。
まとめ
地域の暮らしを共有することで、ゲストは貴重な体験を得ることができ、案内人は収入を増やし、都市と地方を結ぶつながりができていく。こういうメリットは、SNS時代ならではの産物と言えるでしょう。体験中の写真はすぐにネット上に紹介され、リアルタイムの感動が見えるし、記録として蓄積されていきます。旅の目的も、単に観光地を訪問するのではなく、体験して感動を共有するものへと変わりつつあるようです。この流れで行けば、体験型の旅の人気はさらに高まっていくように思えてなりません。こういう形のシェアリングビジネスが、地域のコミュニティを活性化させ、高齢化社会にふさわしいサービスの在り方を模索するきっかけになることを期待したいと思います。
取材・記事制作/ナカツカサ ミチユキ
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