個人の価値観の多様化や安倍内閣の後押しもあり、フリーランスや副業など、働き方の選択肢が増えてきています。こうした中で、人材についても「シェアリング」するという発想が生まれてきました。
そこで今回は、企業と人材を新しい切り口でマッチングする、ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役の黒田真行氏にお話を伺いました。
※記事内容は2017年3月30日の取材をもとにしています
これまで光の当たらなかった、35歳以上の人材マッチングサービスを展開
筆者:
長年温めてこられたという事業アイデアについて、お聞かせください。
黒田真行氏(以下、黒田):
弊社が運営している「Career Release 40」は、35歳以上のいわゆるアラフオー世代を中心とした「職歴打診」型転職サポートサービスです。2015年10月に行われた”第97回かわさき起業家オーディション・ビジネスアイデア市場”にプランをだしたところ優勝をいただいて、それで事業として展開することを決めたというわけです。
その当時、すでに会社を設立していたのですが、30年勤めてきた退職金をつぎ込んで、1年かけて職務経歴やスキルを独自のアルゴリズムで解析し、16億のパターンの中からマッチング項目をつくり上げました。オープンまで一気に駆け上がって、おかげさまで2年間で登録者が3万人を超えるまでになりました。
筆者:
どのあたりが評価されているとお考えでしょうか。
黒田:
社内で昇格することもできず、家族がいるなどの制約があって新しいキャリアにチャレンジすることも難しい、というベテランクラスの方々が増えてきてます。しかし求人サイトでは、35歳までという年齢制限をしている企業が多いのが現実です。そこで、社会人経験10年以上の方をターゲットとした私たちのサイトへの注目が集まっているのだと思います。
また、採用する企業の側にも、今までのような人材採用の在り方では、本当に欲しい人材とのマッチングが困難だという不満も存在しています。この両者のニーズを満たそうとするのが私たちの「職歴打診」型転職サポートサービスなのです。
注目したのは、顕在化していないニーズ・出会い
筆者:
職歴打診というのはどういったサービスなのでしょうか。
黒田:
リクルートでは編集という立場で求職者の支援をしてきましたが、企業における人事の窓口には35歳までという壁が存在しているのを感じていました。しかし、欲しい人材に年齢は関係ないはずですよね?そこで、年齢を出さずに職歴を打診しようと考えたのです。
たとえば、ある会社の社長が新しい事業の立ち上げようとする場合、持っている経験やスキルなど、欲しい人材のイメージがピンポイントであります。そこで社長に直接、登録者の職歴を送ります。
ちなみにマッチングに関しては、16億のパターンの中からAIでマッチングした登録者の情報をセレクトしています。そのため同じ”工場”でも、新潟の食品工場の社長に送る20人と、大阪の八尾市にある機械部品工場の社長に送る20人は、まったく違う内容になります。
つまり、今までの転職サポートサービスでは顕在化していた人材ニーズ、いわば結婚したい者同士をマッチングしてきましたが、わたしたちはそこで見落とされているロストマッチ、あらかじめ出てこない出会いに着目したわけです。
筆者:
となると、人事を通さない方が、社長や事業部などが欲しい人材にたどり着きやすいということになるのでしょうか。
黒田:
一例をあげますと、ベトナムに新しい店舗を作りたいというアイデアを温めている最中の社長がいて、「こういう人がいたら実際に着手してもいい」というふうにイメージしている。そこに「こんな経歴の人がいますが、一度会ってみますか」と、社長に直接アプローチをするのがこの「職歴打診」サービスです。もちろん最終的には、面接することで採用が決まります。人を見て社長の気持ちが固まっていくのであって、スペックだけでは決まりません。
こうした効果が登録企業数にも反映されていて、サービス開始当時には3万社だったのが、今年は10万社にまで増えると予想しています。目標としては3年以内に50万社と取引ができるまでになりたいと思っています。
人材をシェアするサービスが、個人の働き方の多様化を後押しする
筆者:
人材シェアという観点で考えた場合、働き方に変化は出てくるのでしょうか。
黒田:
たとえばエッセンス株式会社では、大手企業の幹部候補を成長ベンチャーへ他社留学できる「ナナサン」というサービスを行っています。これは自社に70%の軸足に置きながら、30%は他社で修羅場体験して自己成長するのをサポートするというものです。
また、株式会社ITパートナーズという会社では、エンジニア、デザイナーといったIT領域のプロに限定して、週2日からの常駐案件の紹介を行い、フリーランスの自立をサポートしています。ほかにも、パラフト株式会社では、「TRY OUT」という紹介予定業務委託サービスを行って、3か月のトライアルで納得のいく業務委託へスライドしていくマッチングにも着手しています。
このように複数の会社で人材をシェアするプラットフォームサービスのほか、リクルートキャリアの”仕事をしたまま、気になる他社のディスカッションに参加できる”「サンカク」や、株式会社ポテパンのエンジニア向け転職サービス付きエンジニアスクールなど、単発に近い形でのディスカッションへの参加から、掛け持ち、技術者の独立まで、さまざまな働き方を選べる土台、仕組みづくりがどんどん進んできています。こうした人材シェアのサポートサービスはこれからも増えていくと思います。
まとめ
クラウドと人工知能の発達によって、人材のマッチングサービスも数年前までとは比べものにならないほどの変化が起こっているようです。また、今までは年齢的に企業からは敬遠されがちだったアラフォー世代以上の人材獲得も活発になって、戦力の掘り起こしに拍車がかかりそうです。世の中にある能力や経験を、複数の会社でシェアするという考え方は、人材の能力発揮とやりがいをつなぐきっかけを提供するかもしれません。働き方改革が、単なる過剰な労働につながるのではなく、健康で幸福な生活確保につながっていくことを期待したいと思います。
取材・記事制作/ナカツカサ ミチユキ
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