飲食業界にて数々の事業再生を成功させてきた、正金氏による連載の第10回目。今回からは2回に渡り人事戦略について解説いただきます。どの業界でも人材不足が叫ばれていますが、特に飲食店の場合は、ブラック企業というイメージが世間的に広まっており苦戦を強いられている企業が多いのではないでしょうか。

また、みなさんもご存知の通り、フードサービス業では、パート・アルバイトを含め多くの人を使います。それだけに、本来は熟慮された人事戦略が必要となりますが、大半の企業ではそれほど重要視されてきませんでした。その結果、良い人材が集まり難くかつ離職率の高い職場ができあがってしまったのです。
さらには、別稿で記述したような経緯で、ある程度の規模になると、それをマネジメントできる人材及び業績が停滞した時に打破できる人材が不足しています。

では、どのように人材戦略を考えればいいのでしょうか。前編では、中途採用や外部の専門家など、自社の外側にいる人材を活用するメリットと注意点について、説明いたします。

1.早期に外部から人材登用をする、または外部人材を活用することのメリット

単純に考えればいい話です。自社で不足している人材があれば、外部人材を活用すればよいだけです。自社の人材で十分だと思っている経営者も多いですが、客観的にみてどうでしょうか。また、歴史を紐解けば、武田信玄、豊臣秀吉、徳川家康、劉邦、曹操、劉備玄徳等勢力範囲を劇的に拡大できた偉人の多くは、外部からの人材登用、活用に積極的でしたし、それらの人々がいなければ不可能でした。劉備玄徳の例が最も解り易いでしょう。有名な関羽、張飛、趙雲(これらは店舗束ねる営業部長)だけでは継続的な僅かな領土すら持てなかったのに、諸葛孔明(経営戦略担当役員)を外部から登用したことで、アッという間に蜀漢を建国できました。

どうしても一つの組織だけで育てば、視野が狭くなり、自社の手法が全てになりがちです。
たとえ順調に経営が進んでいても、「自分たちのやり方がベストではない」という思考を忘れないことが大事です。

2.どのような人材を外部から登用するか

外部人材を選ぶ際の基準を以下に列挙しました。採用の際のチェックリストや評価基準、または育成の際の指標として、活用してみてください。

①部分最適や自己評価より、全体最適を優先できる

往々にして中途採用者は、「結果」を出そうと自己評価を優先しがちです。

②吸収力(新しい事を吸収し自分のものにできる)がある

どの会社でも必ず良い点があるし、各々の会社で除外してはいけない部分はあるので、そこを見つけ吸収できること。

③既存の手法、人をリスペストする(良い点を認める)

0から立ち上げて、曲りなりにも企業として成立しているのだから、必ず消費者に受入れられた良い点があります。そこを尊重できるかどうか。

④コミュニケーション力(納得力)

多くの人は、新しい意見に先ず拒絶から入るので、そのような反応を当り前と思って、根気強く納得させられるか。

⑤相手の目線に立てる(なぜ、そのような手法・行動かを理解する)

悪い手法・行動には、必ずそれなりの理由があります。その理由を頭ごなしに否定するのではなく、まずは理解しようとすることが必要です。

⑥「問題の真因」を発見し、解決する能力

目先の数値を「お化粧」するだけならば、既存の社員で十分。「問題の真因」から解決する人でなければ、中途採用する必要なし。

⑦自分のスキル、ノウハウを企業の成熟度に応じて調整できる

たとえば、10のことをやろうとしても、企業の成熟度によっては3くらいしかできないことは多々あります。それなのに、いきなり10のことをやらせようとすると1くらいしかできず、返って組織がグチャグチャになり業績はマイナスになります。

⑧その企業に合致した新しい「仕組み」を自ら創出できる

企業の問題点を自ら解決でき、しかも組織に定着させられること。

3.外部人材を登用のする際、よくある間違い

どの会社でも、それぞれの選考基準があると思いますし、それ自体は問題ありません。ここでは、「こういう基準で判断するのはNG」という点を、お伝えします。

①どの会社、どの職位にいたかで、採用する

重要なのは、何をやってきたかです。
非常に重要な部分ですが、往々にして間違われる部分です。
すでに出来上がった仕組みの中で業績を上げてきても、会社が変わると対応できず、業績を上げられない人をよく見掛けます。これらの人の多くは、ただ流れに乗っていただけか、企業内政治力があるだけの人です。

私は2社で中途採用を担当していたのですが、「〇〇の会社に10年以上いたからノウハウや仕組みが身に付いているだろう」と思ったら、ほとんど身に付いていない人を何人もみてきており、とても驚いたのを覚えています。

②スキルより順応性を重視する

外部から登用する、ということは、端的に言えば従来の手法を変更する部分がある、ということです。当然、波風が立ちますし、むしろ立てなければなりません。企業の手法にすべて順応する、ということでは外部から登用した意味がないのです。
ある程度の順応性は必要ですが、その人のスキル、ノウハウが企業にとって必要か否かを重視すべきです。

4.中途採用者を登用した時の受入れ企業の留意点

中途採用しながら、有意な人材を殺してしまうケースをしばしば見ます。
よくあるのが、自社と発想・知識・ノウハウが違うと、それらを否定してしまうことです。また、「うちの会社はこうやってきたから」と業績低迷、衰退の元凶である既存の「枠」に嵌めたがることです。それならば、外部から人を採る意味がなくなります。

もちろん、企業側だけでなく中途採用者の方も、先ずは真っ白な取組み姿勢で、企業のあり方を見る、学ぶ姿勢が必要となります。間違った手法だとしても、理由があってそうやっているのですから、中途採用者の義務としては、「なぜそうなったか」の真因を解き明かすことです。

【専門家】正金 一将
大学卒業後、大手総合商社系事業会社でキャリアをスタート。
2003年に大手回転寿司チェーンへ転職し、
取締役に就任した1年目に22億円の経常利益増加を達成。
その後、大手外資系飲料メーカー、大手持ち帰り弁当フランチャイズ、大手寿司販売店など
飲食業界の事業再生請負人として目覚ましい改善実績を上げる。
2015年より顧問、コンサルタントとして活躍。会社設立予定。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。