飲食業界にて数々の事業再生を成功させてきた、正金氏による連載の第12回目。これまで、購買戦略、商品戦略、人事制度について見てきましたが、今回はいよいよ、店舗でのオペレーションについての話です。

店舗はお客さまと接する最前線でもあり、言われるまでもなく重視していることでしょう。しかし、せっかくコストをかけても間違った施策をしていては意味がありません。現在、売上や利益が上がっていないのであれば、カイゼン・改革が必要なことは明白です。ぜひ、以下の7つのポイントをご覧いただき、できるところから着手してみてください。

私は、今まで工場、物流、店舗の業務改革を実施して、大きな実績を上げてきました。その中でも、今回は店舗オペレーションについて叙述します。
大手企業や業歴の長い企業でも、店舗オペレーションに改革・カイゼンの余地がある企業を非常に多く見ます。

店舗に限らず、改革・カイゼンをする際に、「うちはこのやり方で長年やってきた」(だからこのやり方が正しいのだ)という言葉が、必ず出てきます。
ですが、私に言わせれば、「だから業績が悪化したまま」なのです。

では、改革・カイゼンを実行するにはどうしたらいいのか。常に、「まだやることがある。今は業績好調だが、まだまだ」という企業風土が不可欠です。これは、トヨタの精神で、従業員に浸透しています。それ故、私はトヨタが世界最強の企業だと思っています。

どういうことかと言うと、業績好調を続けていると、大半の企業は仕組み・業務を変えようとしなくなります。しかし、それが業績落下の第一歩です。常に市場や消費者の嗜好、競合企業の戦略は変化しています。ましてやこれだけ情報過多の時代では、そのスピードがかなり速くなっています。それなのに、「現在の仕組みが完成形、これ以上カイゼンの余地がない」と思っている企業は、必ず業績が急落しています。

私が、過去に在籍した企業もフードサービス業界で経常利益4位だったのに、2年で赤字に転落しました。また、在籍していた商社も、90年代前半は業界1位でしたが、10年もしない内に企業存亡の危機に陥り、希望退職を募る事態に陥ってしまいました。
トヨタの企業風土が定着していれば、先述の言葉は絶対に出てこず、外部環境がどのように変化しようが、対応して成長し続ける企業となります。

では、店舗オペレーションを改革・カイゼンできないのは、なぜでしょうか。大体は以下の理由によります。
1、店舗P/Lがない、または、重視していない
2、原価率、廃棄率、人件費(労働時間)等々の勘定科目の基準値が明確でない
3、店舗作業の「見える化」ができていない
4、店舗作業の標準化、平準化、簡素化ができていない
5、「効率化」の意識がないーサービス過剰
6、サービス残業等コスト削減のしすぎ
7、現場の知恵

それでは、各項目の詳細を見ていきましょう。(3、4についてはまとめて解説しています)

1. 店舗P/Lがない、または、重視していない

これがなければ、利益意識、コスト意識が生まれません。
その結果、原価、廃棄、労働時間は上がり放題になります。
店舗P/Lを重視させることで、店長に「会社経営」としての意識が明確になり、店長の職位が上がっていった場合に段々と必要度が高くなる「経営者意識」を身に付けさせる事ができます。

2. 原価率、廃棄率、人件費(労働時間)等々の勘定科目の基準値が明確でない

利益意識、コスト意識が強すぎると、「労働時間は少ない程良い、廃棄率は低い程良い」という考え方が蔓延し易くなります。その結果、マイナス負担を顧客に負わせることになり、売上高は必ず落ちます。
そこで、店舗売上高に準じてそれぞれの基準値を設定します。例えば、廃棄率は2.5~3.0%の間が適正と定めたとしますと、廃棄率が2.0%の場合、食材の分量を減らしているか、不良食材を使用している可能性があるので、そこをチェックし、必要に応じて是正させます。 

また労働時間についても、基準値より低い場合は、サービス残業や店長が本来業務を怠ってラインに入っている可能性が高い、というように考えます。
それらの基準値より多い場合は、当然チェック是正の対象となります。

3.店舗作業の「見える化」と標準化、平準化、簡素化ができていない

これらの基準値を設けるには店舗業務の「標準化」が必要ですし、多店舗展開するには「平準化」「簡素化」が必要となります。そのためにまずは、店舗業務の「見える化」をしなくてはなりません。

私が店舗や物流センター、工場を管轄していた時に、よく使った手法は、「10秒分解」です。これは、ある企業でいきなり中京事業部長として、店舗統括責任者についた時のことです。商社出身の自分は店舗運営が全く判らず、でも労働時間は異常に長い。マネジャーや店長に言っても「こうだから、この労働時間は必要です」と言われれば、皆の方が外食ではベテランですから、何も言い返せませんでした。

そこで、ストップウォッチを持って細分化した作業の時間を計り、自分で店舗業務を組み立て直ししてみました。すると、労働時間を40%削減できる結果となりました。
しかし、マネジャー、店長達にその結果を言っても「机上の空論」で片付けられるのがオチなので、皆を3日間ホテルに缶詰にし、1時間毎の必要作業を分単位で書かせました。すると、私が作成した作業時間表とほとんど変わらなかったのです。
「だったら、できるよね」ということで、その後2ヶ月以内に全店舗の労働時間を40%削減することができました。

4. 「効率化」の意識がないーサービス過剰

上記の基準値を設け、遵守させることで防げます。しかし、ここで注意を要するのは「お客様の声」です。顧客から直接意見を言われると、たった一人の特殊な意見だとしても多くの人の意見のように人は錯覚しがちです。顧客の一人に言われた事が必ずしも大多数の顧客に最適とは限りません。しかしながら、一人に直接言われた意見を全て大切にしようとしてしまうケースをしばしば見ます。一見、お客様を大切にしているように見えますが、その結果コスト増大で利益が出ないどころか、会社が赤字に陥ってしまうケースもあります。また、大多数のお客様にとっては不都合な場合もあります。

「お客様の声」は、衛生的な事項等直ぐに対応しなければならない項目を会社として明記しておき、その点については店舗で直ぐに店長判断で対応し、それ以外の項目は会社として検討する、というような取り決めをしておくことが必要です。

5. サービス残業等コスト削減のしすぎ

労働時間の削減のしすぎ、廃棄率の低すぎ、原価率の低すぎを褒める経営者をしばしば見ますが、結果、顧客をどんどん逃がし、必ず売上高の低下を招きます。これは、先述した各項目の基準値を設けることで防ぐことができます。

6. 現場の知恵

今までお伝えしてきた作業をすることで、現場の業務が安定化したとしても、企業も店舗も常に、「カイゼン・改革」の意識を持たなければなりません。
標準化すると、「現場」の面白みが現象し、「カイゼン・改革」の意識が薄れていきます。また、「現場」で顧客と接しているからこそ生まれるアイディアも多々あります。それらを促進し、「現場の知恵」を拾っていく「仕組み」の構築が必須です。

私は、今まで店舗、物流センター、工場等を統括していましたが、標準化をする一方で、この「現場の知恵」を重視してきました。その結果、どの企業でも1〜2年で劇的な「結果」を上げることができました。

ここでまた、ひとつの例をご紹介しましょう。
ある大手飲料企業では、人事考課に「現場の知恵=工夫」を取り入れるような「仕組み」を構築しました。こうすることで、組織に「カイゼン・改革」の風土が根付きました。
具体的には、ある大手飲料企業で、物流本部全員のPCに「カイゼン」というアイコンを作り、そこに掲載したものでないと評価しない、としたのです。
さらには、「良いアイディア・ノウハウ」は他人に教えたくない、という人間心理があるので、「他人にマネされたら、評価が50%アップ」として、人事考課に反映させました。
その結果、皆が積極的に、「現場の知恵」をPCデータベースに掲載するようになったのです。

上述のような仕組みを作ることで、店舗等現場の人間に「経営感覚」「カイゼン・改革意識」が身に付き、業績が上がっていきます。

【専門家】正金 一将
大学卒業後、大手総合商社系事業会社でキャリアをスタート。
2003年に大手回転寿司チェーンへ転職し、
取締役に就任した1年目に22億円の経常利益増加を達成。
その後、大手外資系飲料メーカー、大手持ち帰り弁当フランチャイズ、大手寿司販売店など
飲食業界の事業再生請負人として目覚ましい改善実績を上げる。
2015年より顧問、コンサルタントとして活躍。会社設立予定。
ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。