みなさんは、「パラレルキャリア」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。parallelは、「パラレルワールド」などで使われるように、「平行の」「並行する」という意味です。

 

パラレルキャリアとは、本業を持ちつつ、それと並行して第二のキャリアを築くことです。それは副業や複業に限らず、ボランティア活動であったり、学校に通ったりすることも含まれます。

 

パラレルキャリアは「仕事(本業)だけに囚われない豊かなキャリアのかたち」のひとつとして、いまの日本に必要な考え方といえるでしょう。

第二のキャリアを積むパラレルキャリア

あなたは、現在の仕事とはちがった場所でのキャリアを持っていますか? ここでいうキャリアは「職歴」といった意味ではなく、「ちがう分野での活動」というニュアンスです。

 

多くの人はこの質問に、NOと答えるのではないでしょうか。

 

日本では多くの人が大学を卒業すると同時に仕事をはじめ、ある程度までは年次が上がるごとに自動的にキャリアアップしていきます。社内の資格を取ったりセミナーに通ったりする方もいらっしゃるでしょうが、あくまで本業のための投資、という認識でしょう。

 

それに対し、現在注目されているパラレルキャリアは、「第二のキャリアの構築」を目的としています。

 

ボランティア活動やワークショップへの参加、資格取得はもちろん、趣味の分野でプロを目指したり起業をしてみたりと、営利・非営利に関係なく「もうひとつの活躍場所」を作ることが、パラレルキャリアです。

 

パラレルキャリアには、ふたつの側面があります。ひとつめは、本業では得られないスキルを磨いたり知識を得たりするという、キャリアアップの側面。もうひとつは、やりがいや生きがいを感じる、ワーク・ライフ・バランスの充実という側面です。

 

仕事面でもプライベート面でも充実度を上げることができるパラレルキャリアは、世界中で注目されています。

ヨーロッパではキャリアアップの手段

ヨーロッパをはじめ欧米諸国では、パラレルキャリアは一般的です。たとえばわたしが住んでいるドイツでは、働きながら大学へ通うためのコースや、継続職業教育(働きながら専門学校などに通って資格をとること)などの環境が整っています。

 

ボランティア活動や市民クラブの活動も盛んで、「仕事しかしていない人」の方が、むしろ少数派といえるかもしれません。社会自体が「人生を充実させる」ことに重きを置いており、「仕事以外の居場所を持つことが良い」という考えが根付いているからです。

 

ですがどちらかといえば、ヨーロッパの「パラレルキャリア」は、キャリアアップ目的の側面が強いといえます。

 

ヨーロッパでは日本のように、会社がキャリア形成をしてくれるわけではありません。キャリアアップしたければ、自らのスキルを磨き、より良い条件のポストに応募することが一般的です。

 

パラレルキャリアと称するスキルアップに余念がないのは、「会社内の仕事だけで満足していてはキャリアアップができない」という現実的な事情があるのです。そのため、パラレルキャリアは、ヨーロッパでは社会的に認知されています。

 

「それがスキルアップ、ライフクオリティの向上に繋がるのなら」と、会社や家族なども、基本的には好意的に受け入れます。

日本に必要な「自分でキャリアを築く力」

少し前の日本では終身雇用制度が一般的で、会社が定年まで、場合によっては定年後までのライフプランを立ててくれていました。そこには会社以外の居場所は必要ないですし、スキルアップする環境は会社が整えてくれていました。だから日本には、パラレルキャリアは必要なかったのです。

 

ですが終身雇用制度が実質崩壊し、以前ほど企業からの丁寧な社内教育は望めず、生涯にわたって安定した立場が絶対的に約束されているわけない、という環境になりました。そこで必要になるのは、自分でキャリアを築く力です。

 

自分に必要な知識を身につけたり、挑戦したい分野に飛び込んだり、好きなことを極めたり。会社任せではなく、自分で「どうなりたいか」「なにをすべきか」を考え、行動に移していかなくてはならないのです。

 

そして、その手段がパラレルキャリアなのです。

 

それでもやはり、「会社に尽くすべき」「本業以外に手を出すべきではない」といった考えが根強いのも事実です。パラレルキャリアをしていることで、周囲から反感を買う可能性も高いかもしれません。それが、日本でまだパラレルキャリアが一般化していない理由でしょう。

 

たしかに、複業や起業となると、会社勤めしている方にとってはむずかしいかもしれません。ですがたとえば、語学の勉強をしたり、趣味の野球で市民大会に出たり、ボランティアで子どもたちに勉強を教えたり、と、非営利活動ならば問題ないでしょう。

 

非営利活動は一見仕事に関係ないように思えますが、自分の人生を見つめなおす、いいきっかけになるはずです。資格を取得したり通信大学で学んだりすれば、転職にも有利でしょう。

 

営利活動が認められているなら、本業とはちがった分野で活動してみるのもおすすめです。本業を失ったとき、転職したくなったときのリスクヘッジとなります。

 

「仕事」を中心に生きている人が多い日本だからこそ必要なパラレルキャリア。自らの生き方を自らが決めるきっかけとして、この考えはもっと広まってほしいですね。

 

取材・記事制作/雨宮 紫苑