東日本大震災の復興、アベノミクスによる公共工事の増加、東京オリンピックに伴う施設整備など、特需に沸いている建設業界。一方で、慢性的な人手不足が続いています。仕事はあるのに人材がいない、という状況なのです。なぜ人が集まらないのか、その要因の一つである建設業界の構造を解説していきます。また中小の建設会社が生き残るため、「副業」に進出した事例も紹介します。

格差が大きい建設業界

建設業界の人手不足の要因の一つ。それは重層下請け構造です。大規模な工事案件を大手ゼネコンが受注し、下請け業者に発注するのが、建設業界の一般的な仕組みです。そのため、3次請けや4次請けなど、下に行けば行くほど利益は低くなります。

また国はこれまで、予算削減のために、公共工事の単価を下げてきました。そのしわ寄せも、末端業者が受けることになります。明らかに適切とは言えない条件であっても、立場の弱い業者は受けざるを得ません。断ると、仕事自体がなくなってしまうのですから。結果的に現場作業員の賃金も安くなり、悪条件に耐え切れず辞めてしまう。新たな採用もできず、事業自体を続けられない業者が増えているのです。

ここで建設業界の格差を見ていきましょう。建設業界の平均年収は418万円(厚労省「賃金構造基本統計調査」)です。しかし、大手ゼネコンに限れば672万円と、かなりの厚待遇であることが分かります。大手ゼネコンを除くと、平均年収はさらに下がるわけですから、立場の違いによってどれくらい待遇が違うか、伺い知れるでしょう。

建設業界が人手不足の理由

この状況を受けて政府は、公共工事の単価を2013年から上げました。2016年度には、2013年度と比較して35%も上昇するなど、待遇改善の兆しが見えています。しかし人手不足の要因は、ほかにもあります。労働時間の長さや、出勤日数の多さです。

2016年、建設業界の年間労働時間の2056時間は、全産業と比較すると336時間も長くなっています(厚労省「毎月勤労統計調査」)。3K(キツい、汚い、危険)のイメージもいまだに付きまといます。これらは顕著に数字に表れています。2017年8月、「建築・土木・測量技術者」の求人倍率は5.68倍、「建設・採掘の職業」は4.22倍。全職業の1.28倍と比較すると、その深刻さが一目瞭然です。

特に目を引くのは、20~30代の若い労働者が減っていることです。建設業を支えている労働者は、30%以上が55歳以上。この層が一斉に引退をする5~10年後、人手不足の深刻さはさらに増すでしょう。大手ゼネコンはともかく、採用力や待遇面で劣る中小の建設業者は、今後どのように生き残るべきなのでしょうか。

新事業に進出した中小企業たち

生き残るための施策の一つが、会社としての「副業」です。重層構造の中で、弱い立場の中小企業が、価格競争で体力を削るのではなく、新たな道を見つけた事例を厚労省「建設業から新分野への進出事例」より抜粋して紹介していきます。

【ケース1】鉄道関連の塗装からマンションのリニューアル事業へ

鉄道関連の塗装工事を行っているA社は、マンションのリニューアル事業に進出した。

理由は、本業の売上げ増加が見込めなかったから。新事業は具体的に、区分所有マンションの外壁や床、屋上防水など、共有部分の修繕。本業の延長戦にある工種のため、参入障壁は低かったという。また、これまでは下請けだったのが、元請けの割合が増え、利益率が向上した。今度は共有部分だけでなく、専有部分や内給排水電気設備などにも領域を広げていく予定。

【ケース2】総合建設から介護事業へ

総合建設会社B社。新たに進出したのは、介護用住宅改修と、福祉用具の販売・レンタル事業。

高齢者や障がい者が快適に生活するため、介護保険を利用して住宅の改修をする際、ケアマネージャーが理由書を作成する必要がある。だがほとんどのケアマネージャーは、家屋の構造に詳しくないため、建設業としての経験やスキルが発揮されている。

【ケース3】総合建設から木材加工業へ

青森県にある総合建設会社C社は、建設業以外に地域で雇用がないことを問題視。新たな産業をつくるため、地域に多く生息する「青森ヒバ」の木を原料とした商品開発に乗り出した。

具体的には、ヒバ材を加工する際に出るおがくずを用いた芳香剤や、ヒバ油を使った化粧品など。工場も作り、地域の雇用の受け皿となっている。

【ケース4】土木・建築から設汚泥のリサイクル事業へ

土木・建築工事業者Dは、工事の際に発生する建設汚泥のリサイクル事業に参入した。

建設汚泥に石灰を混ぜて処理し、現場での処分や埋め戻し材としてリサイクル。また、植栽や農業用に使えるよう開発してきた。地域活性化を推進するNPO法人にも参加し、「汚泥リサイクルプラントを作る製造業」「汚泥を改良土にして農地改良する建設業」「改良された農地で有機農業を行う農業」が三位一体となって、汚泥を再利用できる仕組み化を行った。

【ケース5】共同で地質汚染調査・浄化事業へ

北海道にある地域密着型のゼネコン7社が共同し、地質汚染調査・浄化事業を始めた。

公共事業が縮小していく中、これまでの仕組みに依存したままでは、事業が立ち行かなくなると判断したのがきっかけ。各社の経営資源やノウハウを結集し、主にガソリンスタンドを対象に、「ガソリンスタンド健康診断システム」を提案している。

業界の重層構造の中で、中小企業が生き抜くためには

ここで紹介した5つのケースは、業界の重層構造の中で、中小企業が生き抜くために創意工夫してきた事例です。利益率が決して高くなく、価格競争にも巻き込まれがち。社会や経済状況の変化にも左右されることが多い中、どのように生きていくか。すべてのビジネスパーソンにも通じるヒントがあるのではないでしょうか。

ライター: 肥沼 和之

大学中退後、大手広告代理店へ入社。その後、フリーライターとしての活動を経て、2014年に株式会社月に吠えるを設立。編集プロダクションとして、主にビジネス系やノンフィクションの記事制作を行っている。
著書に「究極の愛について語るときに僕たちの語ること(青月社)」
フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。(実務教育出版)」