2017年、京都のタクシー会社「京都バスタクシー」が営業終了しました。同社は1966年に創業した老舗です。観光客や住民の足として、50年以上に渡って利用されてきましたが、ドライバーの不足や高齢化によって、その歴史に幕を下ろすこととなったのです。今回は、人手不足が顕著な業界の一つであるタクシー業界に着目し、その現状や副業がもたらす効果について見ていきましょう。

ニーズはあってもドライバーが足りない

社員寮完備、2種免許取得にかかる費用は全額会社負担、入社祝い金の支給、給与保証あり……これらは、あるタクシー会社の求人ページに並んでいる文言です。かなり厚待遇だと思いませんか? 一人でも多くのドライバーを獲得しようと、各社が争奪戦を繰り広げているのです。

 

しかし、どれだけ待遇を良くしても、ドライバーは集まりづらいのが現状です。先に挙げた「京都バスタクシー」では、53台の車両を保有していましたが、ドライバーが足りず、稼働率は6~7割にとどまっていたそうです(※日経新聞2017年8月24日)。高齢化も深刻な問題です。タクシードライバーの平均年齢は57.6歳(※物流Weekly2015年10月23日)と高く、引退する人が増え続ける一方なのです。

 

2015年、LINEが「LINEタクシー」というサービスをリリースしました。これは、地図上で乗車位置を入力するだけで、配車依頼ができるというもの。タクシーがどのくらいで到着するかも分かり、支払いも「LINE Pay」という決済サービスで行えます。2017年には都内の一部で、タクシーの初乗り運賃が値下げとなりました。こういったサービスや改定によって、私たちがタクシーをより気軽に使える土壌が整いつつあります。そんな中での人材不足は、まさに由々しき問題です。

夢を追う若者をタクシー会社が応援

そこで、タクシー各社は待遇だけでなく、主婦(夫)やシニアも活躍できるよう、労働環境の整備にも力を入れています。従来のドライバーは、隔日勤務(1日働いて1日休む、という勤務スタイル)がスタンダードでしたが、日中の短時間だけでもOKだったり、土日休みだったりと、柔軟にシフトを選べるようになっているのです。また、街中をずっと走り続ける体力がないドライバーは、駅前などで待機して、お客さんから配車依頼があり次第現地へ向かう、という働き方もできるようになっています。

 

こういった施策によって、ドライバーになりたい人の障壁は確実に下がっています。副業としてのタクシードライバーという選択肢が増えて、それが人材不足を緩和する一助にもなっているのです。

 

ユニークな取り組みをしている会社もあります。生田佳那さんというタレントをご存知ですか? この方は、タクシー会社の飛鳥交通に所属する、現役のタクシードライバーでもあります。あまりにも可愛らしいルックスが話題になり、テレビやグラビアでも多数活躍しています。

 

飛鳥交通では、「タクシードライバーとしてアルバイトしながら、夢を追う若者を応援する」というコンセプトの「ドリームプロジェクト」を運営しているのです。生田さんのほかにも、役者やお笑い芸人、アイドルやミュージシャンなど、さまざまな若者が所属しています。

 

この話題性のある施策によって、若いドライバー志望者が集まりますし、タクシードライバー全体のイメージアップにも繋がります。乗客からすると、スターの卵が運転するタクシーに乗れるかも、というワクワク感があります。夢を追う若者といえば、居酒屋やコンビニ、清掃などのバイトをするのが定番でしたが、今後はタクシードライバーもその一つに数えられるかもしれません。

日本でも進む個人タクシー解禁の動き

さて、前回の記事で、配車アプリUberの普及によって、米国では個人が気軽にドライバーをできるようになったことに触れました。個人が自家用車で稼ぐことは、日本では白タクとみなされるため、規制がかかっていますが、2016年5月から京都府丹後市に限定して解禁されています。

 

というのも、丹後市は人口約5500人の過疎地です。住民はお年寄りが多い一方、タクシー会社がなく、路線バスの本数も1日十数本程度。そこで、交通手段として、Uberに白羽の矢が立ったのです。同年5月には、安倍総理も個人によるタクシー解禁を支持する発言を行いました。

 

2020年には東京オリンピックという、大量の観光客が押し寄せるイベントも控えています。今後、過疎地や観光地を中心に、間違いなく規制緩和の流れは広まっていくでしょう。そしていつか、全面的に解禁となるかもしれません。すると、タクシー業界の人手不足はたちまち解消されるでしょう。いや、「でしょう」という他人事のような言い方はふさわしくありませんね。私やあなたも、個人ドライバーとして副業を行い、人手不足解消に貢献している可能性が十分にあるのですから。

これからどうなるタクシー&自動車産業

さて、「人手不足業界×副業」という観点では、ここまでで本題は終了です。しかしせっかくですので、Uberがもたらした業界への影響にも少し触れておきます。Uberの参入によって、大ダメージを受けたのはタクシー業界です。米国ではタクシー会社大手のイエローキャブをはじめ、破産申請をする会社が相次ぎました。それを受けて、各国のタクシー会社がUberのサービス提供停止を求め、集団提訴やデモを行ってきました。日本のタクシー業界も、Uberを黒船のごとく警戒し、白タク解禁や合法化へ猛反対する方針を明らかにしています。

 

しかし2016年には、トヨタ自動車がウーバーと資本・業務提携を発表しました。これは、将来的に車を所有する個人が減り、ライドシェア(相乗り)が一般化することを見込んでの動きと見られています。まさにこれから、世界中のタクシー産業、自動車産業、そして付随する自動車部品や駐車場、保険などの産業も大きく変わろうとしているのです。

 

5年後、終電を逃してしまったあなたは、どのような手段で家に帰るのでしょう。駅前や路上で流しのタクシーを待つ……という選択肢は、とっくになくなっているかもしれません。

ライター: 肥沼 和之

大学中退後、大手広告代理店へ入社。その後、フリーライターとしての活動を経て、2014年に株式会社月に吠えるを設立。編集プロダクションとして、主にビジネス系やノンフィクションの記事制作を行っている。
著書に「究極の愛について語るときに僕たちの語ること(青月社)」
フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。(実務教育出版)」