「野菜をたくさん食べなさい」「野菜も残したらダメよ」

子供の頃、誰もが親から言われましたよね。大人になった今、皆様はいかがでしょう? 忙しいからと言って、ジャンクフードやコンビニ弁当ばかり食べていると、栄養が偏り、メタボなど生活習慣病の原因にもなってしまいます。農林水産省が推奨するように、ぜひ一日350gの野菜を摂取しましょう……と書くと、健康の啓もう記事のようですが、実は違います。現代人の野菜不足と同じくらい深刻な、野菜を作る人たち―農家の人手不足の現状を紹介していきます。

農業従事者の平均年齢は超高齢

66.8歳。これは、農業に従事している方の平均年齢です。高齢化が進む中でも、著しく高い数字です。輪をかけて問題なのは、後継者がいないこと。年を取って続けられず、廃業するケースも増加の一途をたどっています。そのため、農業人口は年々減り続けて、現行方式で統計を取り始めた1995年以来、初めて200万人を回りました(※農林水産省「農業構造動態調査2016」)。1年以上作付けがされず、今後される予定もない「耕作放棄地」も増える一方です。

 

「農耕作業員」の有効求人倍率は、2016年度に1.63倍にまで上昇しました。作物の収穫時など、繁忙期に短期アルバイトを雇いたくても、なかなか集まりづらい状況です。必然的に、野菜・果物の輸入量も増えていきます。2015年、日本の自給率は39%です。政府は2025年までに、45%に上げることを掲げていますが、実際には下がる一方。まさに、日本の農業は危機に直面しているのです。

 

なぜ、若者は農業を敬遠するのでしょうか。理由として、まず「重労働」「泥だらけになる」といったマイナスイメージがあります。かつての3K(キツい、汚い、危険)を連想させるのでしょう。また、安定収入を得られるのか、という不安もあります。農業は自然の影響を直に受ける産業です。台風や大雨、日照り、害虫などさまざまな要因で、作物が打撃を受け、収入が大幅に減ってしまうこともあるのです。

ホームレスやニートが農業を救う?

人手不足を解消すべく、さまざまな企業や団体が取り組みを行っています。株式会社エイブリッジは、農業に特化した求人サービスを展開しています。勤務期間は、収穫時など繁忙期のみの短期が原則。そのため、農家は必要最小限のコストで人材を確保でき、求職者は短期間でしっかり稼ぐことができるのです。実際に働いてみて、合うようだったら正社員として働くことも可能です。

 

「農福連携」も注目されています。最近では、障がい者の雇用機会を、農業分野で生み出す取り組みが始まっています。これまで障がい者雇用の大きな受け皿となっていた工場が、コストカットを求めて続々と海外へ移転していきました。そういった事態を受け、新たな雇用の場を探していた福祉側と、人材不足に悩む農家側が連携することになったのです。この取り組みは自治体も積極的に後押しを行っており、2017年7月には「農福連携全国都道府県ネットワーク」が発足しました。今後は地域をまたいで、さまざまな事例や情報が共有され、さらに加速していくでしょう。

 

「ホームレス農園」という農福連携もあります。これはNPO法人「農スクール」による、ホームレスやニートの社会復帰を、農業機会の提供を通じて支援するという活動。働きたくても仕事がないホームレスと、人手がいない農家を結び付ければ、双方の課題解決になる。そんな思いで2008年から行っています。これまで72人の研修生を受け入れ、31人が就農・就労するなど、着実に成果を生み出しています。

人気アイドルの影響で広まる農業人気

さて、そんな中、副業で農業を行う人々が増えています。農業人口自体は減っているものの、実は新しく農業を始める人は2014年から増加しています。2013年には5万800人だった新規就農者は、2015年には6万5000人になるなど、緩やかながら良い兆しを見せています。

 

その理由として、まずメディアによる農業へのイメージの変化が挙げられます。TOKIOが出演する人気番組「鉄腕DASH」では、メンバーたちが自ら農業を行い、田舎暮らしの素晴らしさを広く発信しています。人気アイドルたちが農業に取り組み、意外な才能を発揮するといった意外性も、人々の心をつかんだのでしょう。いきなり会社を辞め、農業を始めるのはリスキーですが、市民農園などの一角をレンタルする「週末農業」なら、誰でも気軽に始めることができます。副業だと割り切れば、収支のことも気にせず、楽しさを優先できるメリットもあります。インターネットの普及により、個人で作物を販売するルートを持ちやすくなっているのも、参入障壁を下げている要因です。

 

さらに一歩進んだライフスタイルもあります。塩見直紀さんが提唱する「半農半X」です。これは、必要最小限の食料を農業でまかない、後は好きなことをして暮らすというもの。収入自体は下がっても、「ブラック企業」「社畜」といった縛りから解放されて、心の豊かさを追求したスローライフ・エコライフと言えます。

 

農業を始める人が増えるとはいえ、副業や趣味の範囲、あるいは自給のためであれば、根本的な人手不足の解消には繋がりづらいかもしれません。けれど、まずは気軽に農業体験をできる機会の増加こそが、将来的に日本の農業を支える人材を育てていくのでしょう。政府が推進する、ITを活用した「スマート農業」も今後さらに普及していきます。日本の農業が変革し、進化していく中で、改めて農業の大事さや魅力を見つめなおすことを、我々は行っていく必要があるのでしょう。

ライター: 肥沼 和之

大学中退後、大手広告代理店へ入社。その後、フリーライターとしての活動を経て、2014年に株式会社月に吠えるを設立。編集プロダクションとして、主にビジネス系やノンフィクションの記事制作を行っている。
著書に「究極の愛について語るときに僕たちの語ること(青月社)」
フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。(実務教育出版)」