2017年4月、運送業界を揺るがすニュースが発表されました。業界最大手のヤマト運輸が、Amazonの当日配送サービスから撤退したのです。その理由の一つとして、同社は「労働需給のひっ迫」、つまり労働力が追い付かないためとしています。同じく業界大手の佐川急便も、Amazonの配送サービスから撤退した歴史があります。ネット通販の普及に伴い、人手不足がより深刻になりつつある運送業界。副業の個人ドライバーは、この現状に一石を投じることができるのでしょうか。

当日配送を支えるドライバーたち

業界最大手のヤマト運輸の動向について、もう少し見てみましょう。同社の労働組合は2017年、会社側に対し、宅配便の荷受け量の抑制を求めました。ヤマト運輸グループは前年、グループの従業員を5200人増やしていますが、それでも配送量の増加に追いつかなかったのです。

 

というのも、2016年3月期、同社が取り扱った宅配便の個数は、約17億3000万個です。過去最高の数字でしたが、2017年3月期はこれを上回ったのです。Amazonはこのうち、15%を占めるとも言われています。

 

会社からすると、宅配数の増加は利益アップにつながり、喜ばしいことのように思えます。しかし、大口の取引ということで、単価は安くなります。しかも、「当日配送」「時間指定」といった手厚いサービスにも対応しないといけません。そのしわ寄せを受けるのは現場のドライバーです。お給料はあまり増えないのに、負担だけが大きくなっていき、事故や傷病、離職という悪循環に陥ってしまうのです。ヤマト運輸の労働組合の要請からは、「今の人員ではもうこれ以上運べない、もっと多くのドライバーを確保してほしい、それが無理なら受ける量を抑えてほしい」という現場の叫びが伝わってくるようです。

 

欲しいものをポチッとワンクリックすると、その数時間後には配達される。もし不在にしていたら、時間指定すればまた配達に来てくれる。今や当たり前になりつつあるそんなサービスは、ドライバーの方々の頑張りや忍耐によって成立していたのです。

若者が敬遠するドライバー業

そういった事態を受けて2017年、ヤマト運輸は配送料の値上げを発表しました。前年には佐川急便が、そして日本郵便も値上げを発表しています。運送業界全体が、サービス内容に見合った価格設定をすることで、ドライバーの環境改善に取り組もうとしているのです。

 

しかし、運送業界の人手不足は、まだまだ改善の兆しがありません。2015年に国土交通省が行った調査によると、運送業者の7割近くが、ドライバー不足を訴えているそうです。高齢化という問題もあります。総務省の発表では、運送業へ従事している187万人のうち、125万人が40歳以上の中高年です。15~29歳の若者は、たった19万人しかいません。そのため、ベテランドライバーたちが引退したら、運送業はそれこそ深刻な人手不足に陥ると懸念されています。

 

なぜ、運送業に若者がいないのでしょうか。神奈川県トラック協会が、高校生を対象に行った調査結果に、如実に表れています。高校生たちの多くは、ドライバーへのイメージを「長時間労働」「低賃金」「危険」と回答し、就業を希望しているのはわずか4%だったそうです。ドライバーの社会的イメージが、いかにネガティブなものかが伺えます。

 

実際、2013年度の中小型トラック運転手の年間所得は約385万円。全産業の469万円と比較すると、90万円近く低いことになります(厚労省の「賃金構造基本統計調査」)。2015年には、ヤマト運輸の下請け会社で働いていたドライバーら7名が、時間外労働、深夜労働、休日労働の割増賃金を求めて、東京地裁に申し立てを行いました。残業代は合計420万円になりますが、支払いはされていなかったそうです。高校生たちのイメージは、単なる先入観でなく、的を射たものだったのです。

人手不足の解消に政府も乗り出した

こういった現状を政府も問題視し、運送業界の人手不足を改善しようと、2017年3月から改正道路交通法をスタートさせました。これは、「普通免許」「中型免許」「大型免許」という従来の区分に、「準中型免許」が加わるというもの。5トン以上、11トン未満の車を運転できる「中型免許」は、普通免許を取得してから2年以上経っている必要があります。しかし「準中型免許」は、普通免許がなくても取得でき、3.5トン~7.5トンの車を運転できるのです。ただでさえ車離れが進んでいる若者たちが、ドライバーになる障壁を下げることで、若手ドライバーの増加を狙ったものです。

 

国土交通省は、「トラガール促進プロジェクト」、つまりトラックドライバーとして活躍する女性の応援を行うプロジェクトを立ち上げ、さまざまな施策を打ち出しています。具体的には、助成金を活用して女性用トイレ、更衣室、シャワー室の設置などの環境整備を推進。また、産休・育休や時短勤務の導入など、ライフイベントを迎えた女性も活躍できる制度の導入や、周囲の理解を啓もうしていくというもの。ドライバーは男がするもの……という昔の認識では、とても成立しない現状があるのです。

副業として始めやすい配送ドライバー

さて、では副業に視点を移してみましょう。実はドライバーは、副業としての歴史は長く、始めやすい職業でもあるのです。試しに、「ドライバー 副業」で検索してみると、たくさんの情報がヒットします。自分の車を利用して、一つの荷物を配達するたびに幾ら支給、という業務委託ドライバーを募集する事業主。副業でドライバーをしたい方向けの派遣会社など。登録しているのは、本業で別の運送会社に勤務している方や、免許を活用してお小遣いを稼ぎたい方が多いようです。

 

実は副業ドライバーの活用は、事業主にとってもメリットがあります。正社員としての契約ではないので、決まった給料を支払う必要がありません。働きに応じて歩合を支給するので、リスクが少ないのです。年末や春先など、繁忙期にはたくさんの人手が必要になるけれど、閑散期には人員を最小限に抑えたい……そんな事業所には最適と言えるでしょう。

 

しかし、上記はネット通販が現在のように広まる前の話。平成18年には29.39億個だった宅配便の荷物数は、平成28年には40.19億個にまで増加(国土交通省)しています。とにかく人手不足の今、正社員であろうと、業務委託であろうと、派遣社員であろうと、とにかくドライバーを確保したい事業所が増えているようです。

 

副業で業務委託ドライバーの経験があるAさんの元には、繁忙期が近づくと、契約していた大手運送会社からのオファーがひっきりなしにあるそうです。というのも、Aさんは配送業の経験があり、業務委託時代は平均的なドライバーを上回る活躍をしていたとか。現在は別の業界で働いており、本業が忙しいために断ると、賃金や待遇など、どんどん良い条件を提示されるようになったそうです。超・売り手市場であることが伝わってくるエピソードです。

 

しかし人手不足の中でも、業務委託や派遣社員のドライバーを、一切使わない方針の事業所も一定数あるようです。配送業は、お客様から預かった大事な荷物をお届けする仕事です。場合によっては、会社の車を貸すこともありますし、交通事故や、荷物の紛失・破損といったリスクも付きまといます。その場合、誰が弁償するのか、責任の所在はどこなのかといった法律の所在が不明確であるし、そもそもどこの誰か分からない人に任せたくない、と思う経営者が多いそうです。

 

 

今後も人手不足が続くであろう運送業界。サービスや価格の見直しがドライバーの負担を減らし、健全な労働環境を構築するのでしょうか。そして、若者や女性にも選ばれる職業になるのでしょうか。国や企業の取り組みは、まだまだ始まったばかりです。

ライター: 肥沼 和之

大学中退後、大手広告代理店へ入社。その後、フリーライターとしての活動を経て、2014年に株式会社月に吠えるを設立。編集プロダクションとして、主にビジネス系やノンフィクションの記事制作を行っている。
著書に「究極の愛について語るときに僕たちの語ること(青月社)」
フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。(実務教育出版)」