「プロボノ」という言葉を、耳にしたことがある方は多いでしょう。スキルや経験・知識を生かして、社会課題の解決に取り組むボランティア活動のことです。総務省は2017年、プロボノをさらに促進すべく、2018年度の概算要求に4億6000万円を盛り込みました。
実はこのプロボノが、人手不足を解消する一つのカギとして注目されているのです。プロボノを活用することでどのような効果・影響が生まれるのか、詳しく見ていきましょう。
地方でのプロボノの活躍事例
有効求人倍率が1.52倍(2017年9月現在)を記録するなど、記録的な人手不足が続く日本。特に深刻なのが地方です。少子高齢化に伴う人手不足や後継者不足で、廃業する企業は増える一方。このままでは、さらに都市部との格差が進むでしょう。そこで政府が着目したのがプロボノの活用です。
総務省は2009年から「地域おこし協力隊」を展開しています。地域おこし協力隊とは、有志のプロボノである「協力隊員」が都市部から過疎地へ移住し、1~3年間の間、地域活性化の支援を行うというもの。2016年には、約900の自治体に4000名の隊員が移住しています。
さて、プロボノがボランティアと違うのは、ただ労働力を提供するだけでなく、「スキルや経験を生かす」ということ。具体的にはITや医療福祉、マーケティング、法律や会計、デザイン、翻訳・通訳などの専門的なものから、事業開発、プロジェクトリーダー、営業、サービス・接客業など幅広い経験・スキルを持つプロボノがいます。
隊員は男性が63%、女性が37%(2017年3月末に任期を終えた隊員2230人)。年代は20~30代が75%超です。隊員たちが就業した事業所は、観光関連(旅行・宿泊など)が最多で、地域おこしや街づくり、農林漁業、医療福祉が続きます。
また活動期間終了後も、隊員の6割強がその地域に定住しています。起業した人も多く、カフェやレストランなど飲食サービス業、小売り業、ゲストハウスや民宿など宿泊業、街づくり支援、観光などさまざまな事業が生まれています。
週末だけプロボノをする新たなスタイル
しかし隊員になるには、決して低くないハードルがあります。まず移住が前提なので、住民票を過疎地に移すこととなります。また隊員になると、報償費が支給されますが、収入が大幅に減ってしまうこともあります。特に、都市部でバリバリ活躍していたビジネスパーソンであれば、その落差は顕著かもしれません。
そこで総務省が立案した施策は、「観光よりは深くかかわりたい、けれど移住まではできない」という方を対象にした「地域おこし未来塾」です。平日は都市部で働き、週末だけ過疎地で活動するというもので、協力隊と比べると気軽に参加できるのが特徴です。そして、無理なく長期的に地域と関わってもらうことで、密度の濃いつながりを生み出し、将来的な移住を推進するのです。総務省では2018年度、未来塾の隊員を数百名と、受け入れを希望する自治体20~30か所を公募するとしています。人手不足という課題を、プロボノの活用で解決していく取組みと言えるでしょう。
さまざまな知見・スキルを持った人材が活躍してくれるのですから、受け入れる地域からすると、心強いことこの上ありません。では、プロボノとして参加する人には、どのようなメリットがあるのでしょうか?
プロボノがビジネスパーソンにもたらすメリット
まずは「社会貢献」です。自分の働きが地域社会の課題解決につながり、感謝もされるのですから、やりがいや達成感は大きいでしょう。企業や業界によっては、上司の評価がすべて、というところがいまだにあります。すると成果を出すより、上司の顔色を窺い、気に入られることを目的に仕事を進める必要があります。そんな環境で、やりがいを感じられるでしょうか?
プロボノが取り組むのは、まさに課題解決という本質。成果を出すことは、地域住民のより良い暮らしを作ることと直結します。住民から笑顔で「ありがとう」と言われると、昇給や昇進、報奨といった評価とは違う、純粋に人の役に立てたことへの喜びを覚えるでしょう。
人脈やネットワークも広がります。それによって、視野が広がったり、柔軟な発想が生まれたりします。普段、同じ会社や業界の人としか交流がないと、その世界の常識が正しいものだと思い込んでしまいます。しかし、実は非効率だったり、時代に即していなかったりすることも。違う業界・業種の人と協業し、新たな価値観を知ることで、既存の仕組みに風穴を開け、イノベーションを生み出せるようになるかもしれません。
また、自分のビジネスパーソンとしての市場価値を知ることにもなります。一つの会社に所属しているだけでは、本当に正しい評価をされているのか分かりません。しかし自分が思っているより、ずっと市場価値が高かったとしたら、今後のキャリアの選択肢や可能性が大きく広がるでしょう。
このように、プロボノという副業にはさまざまなメリットがあります。社会課題の解決と自己成長の両方を実現する、これからの時代の働き方として、さらに広まっていくに違いありません。
ライター: 肥沼 和之
大学中退後、大手広告代理店へ入社。その後、フリーライターとしての活動を経て、2014年に株式会社月に吠えるを設立。編集プロダクションとして、主にビジネス系やノンフィクションの記事制作を行っている。
著書に「究極の愛について語るときに僕たちの語ること(青月社)」
「フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。(実務教育出版)」