当連載では「地方×副業、リモートワーク」と題して、新しい働き方について考えてまいりました。副業やリモートワークといったワークスタイルを生かすことで、地方で実りある仕事ができるのではないか―――そんな希望を込めて、これまでお届けしてきました。
そして今回は、「地方、副業、リモートワーク」というそれぞれのテーマについて、インターネットメディアの記事を参照しつつ、さらに考えを深めてみたいと思います。
地方移住を成功させる要件
地方移住について考えるにあたって、今回はこの記事をご紹介したいと思います。
愛媛編:UIターン者に必要なのは「待つ」スキル――移住成功の「要件定義」 (1/3)
この記事は愛媛県を舞台として、ITエンジニアのUターン・Iターンについて述べています。筆者である薬師寺聖さんが、地方での仕事を成功させるコツを上手く整理してくれています。そのポイントを、いまからご紹介していきましょう。
マネー(お金)で心に余裕を持たせる
移住や職探しを行うとなると、それなりに時間がかかるのはもちろん、精神的にも不安を抱える面があるのは否めません。思うような仕事が見つかるか、新しい土地で上手くやっていけるか、心配事をあげたらキリがありません。
そうした不安の根本にあるのは「お金」です。「この先大丈夫だろうか?」「この移住は失敗だったんじゃないか」そんな心配の根っこにあるのは、経済的問題です。
逆にいうと、十分な貯金をしたうえで移住をすれば、心理的にあせったり、追い立てられたりすることもありません。
「新しい土地に慣れて、仕事を見つけるまで、数ヶ月くらいは費やしてもいいだろう」こうしたゆとりのもとでこそ、新天地での生活も上手くいきます。
紹介記事の筆者は、以下のように主張しています。
愛媛では、地産地消で食費が都会より安くなるから、生活費全般は抑えられる。水道代などは移住先の市町によって異なる。忘れてならないのは「保険料」と「税金」だ。
正社員を継続する「テレワーク移住」ではない場合は、前年度の収入を基準とした支出の可能性がある。最低でも1年分の生活資金は用意しておいた方がいいだろう
そう。地方に移住するということは、生活費の抑制効果にはある程度は期待が持てます。その一方で、首都圏では不要な車が地方では必要になることなどもありますから、新たに発生する費用も計算に入れる必要があります。とにかく、生活費のどの部分がカットできて、どの部分が増えそうか、全体像をシミュレーションしたうえで、コストを計算すべきでしょう。
ちなみに紹介記事の筆者・薬師寺さんは「最低でも1年分の生活資金は用意しておくべき」と指摘しています。たしかにそれだけの貯金があれば、あわてず騒がず、体勢を整えることができるでしょう。
逆にいえば、資金的に心もとない場合は、もう少し時期をおいて力を蓄えたほうがいいかもしれません。
「メンタル」を支える友人作り
薬師寺さんは、「メンタル面」を特に重視しつつ、持論を展開しています。おそらくは地方移住のことをよく知っている人なのでしょう。新しい土地で仕事を始めるというのは、それだけ心理的にも大きなプレッシャーがかかるものです。
地方移住と聞くと、美しい自然やアットホームな人間関係といった、いい面ばかりを想像する人もいます。しかし、知らない土地に移り住むというのは、そう甘いものではありません。その土地の気候や慣習になじむのも最初は大変ですし、新生活の中で仕事を探す苦労もあります。さらにはこれまで身近にいた友人知人と離れてしまい、人間関係をゼロから作っていかねばなりません。
つまり土地・仕事・人脈という3つのカギを手にしなくては、移住者は新生活のトビラを開くことができません。カギがそろうまでは、メンタル面でも苦しいかもしれません。
だからこそ薬師寺さんはまず、いちばん手っ取り早く入手できるカギを手にするようすすめています。
それは「人」というカギです。薬師寺さんは新天地でのファーストステップについて、このようにアドバイスしています。
見知らぬ土地で想定外の事態に見舞われたとき、親身になってくれる地元民がいると心強い。そこで、移住後速やかにイベントや交流会に参加することをお勧めする。愛媛県は日本初の異業種連合法人を生んだ場所だけあって、今では数多くの交流会がある。どこに参加するか迷ったら、同年代の参加者が多い会を選ぶとよい。
なるほどと思わされる話です。新しい土地に慣れようと思うなら、案内役となってくれる地元民との人脈が欠かせません。また、同世代を中心に気の合う友人関係を広げていけたら、メンタルの大きな支えにもなってくれるでしょう。
地方で働くなら、まずは早急に「人脈」というカギを手に入れるべきです。そうすれば、「土地への順応」や「仕事を得る」についても、自ずから道が開けていくはずです。
住居物件とインターネット環境
地方移住には、住居選びも重要です。特にリモートワークで住居を仕事場と兼ねる場合、その良し悪しが業務のパフォーマンスをも大きく左右します。その点、地方は安価な物件が多いのはメリットでしょう。
また住居が仕事場になる場合、インターネット環境も不可欠です。おおむねどの地方も、大手プロバイダーやケーブルテレビがネット環境の提供者となっていますが、それぞれの料金とパフォーマンスを十分に考える必要があるでしょう(いくら安くても接続環境が悪ければ、業務に支障をきたします)。
衣食住は人間の生活の基本であり、ここもまた地方に移り住むうえで大きなポイントになります。
地方移住のスタート地点では、誰だってコストはかけたくありません。極端な話、地方の郊外であれば「農家の納屋」のような場所でも、住もうと思えば住めます。かといって、ただ住めればいいというものでもありません。特に住居が仕事場にもなる場合は、インターネット環境も重要になります。
自治体の支援制度を生かせ
地方移住者は、やり方次第では自治体の支援を得られるケースがあることは、案外知られていないことでしょう。どの地域も人口減少と経済の縮小に悩んでいるため、ひとりでも多くの人に来てもらいたいのが実情です。そのため、移住者や起業家に対して支援を行っている自治体もあるのです。
たとえば愛媛県のケースについて、薬師寺さんはこのように記しています。
愛媛の各市町は、移住支援策を打ち出している。目的に合う制度があれば活用しよう。例えば新居浜市は、創業支援ネットワーク「にいはま創業コンシェルジュ」を立ち上げて、創業からフォローアップまで総合的に支援している。また、「公益財団法人 えひめ産業振興財団」は、移住者向け経営スクールをはじめとする各種支援を行っている。
地方移住や地方での起業については、あくまで「自分の問題」と考えてしまいがちです。しかし実のところ、それは(地域によっては)自治体の熱烈なニーズとマッチするかもしれないわけです。よって上手くいけば、自分の思い通りに移住・起業をしつつ、自治体の手厚い支援を受けることも可能になります。
さらに薬師寺さんは、自治体の支援を受ける上での心構えを、こう説いています。
移住希望者は、移住先に対し、『ITでどのような貢献ができるか』を考えてほしい。自治体側が『(移住してもらうために)してあげる』、移住者側が『してもらえるなら(移住してもいい)』という関係では、どちらも幸せにはなれない。助成の『過保護』に甘んじず、創業を後押しする『おもてなし』を受け入れて、人口の数字ではなく、人財となってこそ、地域共創の仲間になれる。
薬師寺さんの話はITエンジニア向けに書かれた部分もありますが、これは職種を問わず共通する内容でしょう。いくら地域が手厚い支援をしてくれても、そこにあぐらをかいていてはいけません。リモートワークで離れた企業の仕事を請けるにしろ、起業して移住先の市場を相手にするにしろ、「自分の技量で市場のニーズにどう応えていくか」が、根本的なテーマとなります。
仕事を得るための3つのスキル
移住先で仕事を得ていくため、薬師寺さんは3つのポイントを挙げています。
見知らぬ土地に移住しても、「考えること(企画力)」「書くこと(発信力)」「待つこと(タイミング)」、この3つのスキルがあれば道は開ける。テレワークでは、WebサイトやSNSで企画を自ら発信することが最大の営業になる。愛媛から全国へ、世界へ、発信すればいい。
当たり前のことですが、「自ら魅力的な企画を考える」「幅広く発信していく」こういった取り組みなくして、仕事は上手くいきません。特にフリーの立場で仕事を得ていく場合、相手(企業や仕事先)に知ってもらわなくては何も始まりません。受身の姿勢では、決して仕事を得ることができないのです。
さらに薬師寺さんは、「待つこと」の重要性を以下のように述べます。
ビジネスチャンスの到来を辛抱強く待ち、取引先やチームメンバーのペースを尊重して待つ姿勢が必要だ。拙速な言動はチャンスを壊し、脊髄反射の一言は人間関係を壊すと心得よう。愛媛のゆったりした風土から、待つことを学ぼう。
仕事は積極性が重要である反面、「機が熟する」のを待たねばならない時もあります。たとえば仕事先の企業に過度な押し売りをしては、パートナーとしての適性を疑われてしまうことにもなります。あるいは仲間と起業を考えるにしても、相手の準備が整ってもいないのにゴリ押ししては、話そのものが流れてしまうことだってあります。
何をするにも「機が熟しているか」を判断することが重要であり、「動くべきか、待つべきか」と適切に判断することが、成功への近道となります。
以上、薬師寺さんの話から見てきたように、地方移住を成功させるには、「資金、メンタル、住環境、支援制度、仕事の展開」など、いくつかのポイントがあります。地方での仕事を考える場合、まずこれらのことを頭に入れた上で、じっくりシミュレーションしてみることが必要でしょう。
記事制作/欧州 力(おうしゅう りき)