「いらっしゃいませ」「これください」「ありがとうございました」
思い返してみてください。一日の中で、私たちはどれだけこのような言葉のやり取りをしているでしょう。コンビニやデパート、飲食店やホテル、美容院やマッサージ店などの店員である“販売・サービス職”は、私たちの生活と密接にかかわっています。しかし現在、この職業は深刻な人手不足に陥っています。その原因と、副業がもたらす影響を見ていきましょう。
人手不足の原因の一つは「爆買い」
販売・サービス職は、私たちの生活に身近である一方、比較的気軽に始められる仕事でもあります。学生時代にアルバイトをした方も少なくないのではないでしょうか。しかし近年、人手不足が顕著になっています。厚労省によると、2016年の販売・サービス業の有効求人倍率は2.89倍。全職種の平均である1.22倍と比較すると、その深刻さは一目瞭然です。
では、なぜ販売・サービス業は人手不足なのでしょうか。
要因の一つは「インバウンド需要」です。近年、日本に訪れる外国人の数が急増しています。そして都市部や観光地を中心に、買い物や飲食、宿泊などで大きな消費をしています。昨今、「爆買い」が話題になりましたが、あの現象もその一環ですね。訪日客が増加した結果、対応をするための人手が足りなくなっているのです。ちなみに2015年は、約2000万人(日本政府観光局のデータ)の外国人が訪日しました。政府は2020年までに、4000万人へ増やすことを掲げており、これから訪日客はさらに増加する見通しです。それまでに、いかに人材不足を解消するかが課題となっています。
二つ目の要因が、大型商業施設の相次ぐ開業です。2016年以降だけを見てもバスタ新宿(新宿)や東京プラザ銀座(銀座)、トライセブン六本木(六本木)など、ラッシュと言える勢いでオープンしています。また郊外では、インバウンド需要もあって、アウトレットモールが活況です。それに伴い、ショップスタッフの獲得も急務となっているのです。
人手不足に伴い、人件費も高騰しています。首都圏における2017年の、販売・サービス業の平均時給は1010円(リクルートジョブズ調べ)です。2016年と比較すると、21円も高くなっています。しかし、依然として人が集まりづらいのが現状です。
社員のため24時間営業を廃止に
では人材確保のために、各社はどのような施策を行っているのでしょう。最も大きなのは労働環境の改善です。ファミリーレストランのロイヤルホストやガストは、24時間営業を見直すことを発表しました。立ち食いそばチェーンの小諸そばは、営業時間を短縮しました。顧客サービスを追求すると、その反面、社員やスタッフの負担は大きくなってしまいます。働く人々がワークライフバランスを大事にし、仕事もプライベートも充実できるよう、各社が環境改善に踏み切ったのです。
「限定正社員」という制度は、成長戦略の一環として国が推奨している施策です。例えば転勤のない「エリア限定社員」。家庭の事情や各々のライフプランを考慮し、転勤したくないという社員が希望するエリアで働ける制度です。ユニクロでは、「地域正社員」としてこの制度を導入しています。
また、一般的に労働時間が長く、休日も少ない、柔軟な働き方もできないという、販売・サービス職のイメージを変える取り組みも増えています。例えば産休・育休や時短制度の導入、有給休暇の取得推進、残業の削減など。ライフスタイルは人によってさまざまです。すべての人が活躍でき、ワークライフバランスも大事にできる働き方の支援は、人を採用したり、離職を防いだりするために何より重要なことが見えてきます。
テクノロジーが店員に代わる日
ちなみに人手不足解消のため、テクノロジーの活用も少しずつ進んでいます。コンビニ大手ローソンは、2018年度春をめどに、首都圏の数店舗限定で、無人レジの実証実験をすることを発表しました。商品にICタグを取り付けることで、レジが自動で金額を読み取り、袋詰めまで行うという試みです。アパレルチェーンGUでも、同様の自動精算システムを、約20店舗で実験的に設置しています。またマクドナルドやすかいらーくといったレストランでも、店員に代わってロボットの導入を始めています。
しかし、完全なる自動化には莫大な設備コストがかかります。また、いずれも試験段階のため、人間と同じクオリティで接客できるまでには、今後長きに渡ってトライ&エラーを重ねていく必要もあるでしょう。テクノロジーが人手不足を解消してくれるまでには、まだまだ時間がかかりそうです。
販売・サービス職の副業先の選び方
そこで、カギとなるのが副業です。前述のとおり、アルバイトとして従事する一般的な販売・サービス職は、比較的障壁の低い仕事です。特別な経験・スキルも問われないことが多いので、会社員が副業として始めるにはうってつけでしょう。
ではどのように副業先を選べばいいのか。
まず、「家の近くで探す」があります。近所であれば、通勤・退勤の負担がありません。業種や仕事内容や時給よりも、近所で働くことを優先したい方にオススメです。
「単発・短期で働く」という選択肢もあります。エン・ジャパンの調査によると、副業希望者の41%が、副業選びの基準を「短期・単発であること」と回答しています。本業の繁忙期・閑散期の波がなかなか読めず、決まった時間や曜日に副業をするのが難しい……という方が多いからなのかもしれません。確かに短期・単発であれば、期間が終了すればそれで終わりですから、気持ち的に楽ですよね。
販売・サービス職では、短期に対応した案件も多数あります。そのため、さまざまな業種・職種にチャレンジできる面白さもあります。例えば家電が好きな人は、家電量販店の販売員など。ほかにも、遊園地で着ぐるみを着てショーに出たり、アイドルのコンサート会場で運営サポートをしたり、リゾートバイトに行ったりと、実に幅広いジャンルがあるので、きっと興味をひかれるような案件を見つけられるでしょう。中には高時給・日給のものもあるので、「副業で稼ぎたい」という方も満足するような案件に出会えるのではないでしょうか。
どういった目的で副業を選ぶか
勤務地や期間やお金よりも、「人生経験を積みたい」という人には、バーやスナックなどの酒場がお勧めです。実に多様なお客さんが訪れるので、コミュニケーション力が磨かれますし、会話を通じて自分の知らない世界の情報も入ってきます。人脈も増えるでしょう。何を隠そう、筆者は新宿ゴールデン街でバーを経営しているのですが、その目的はお金ではなく、人生経験を得ることが最大の目的です。
繰り返しますが、販売・サービス業は比較的始めやすい副業です。短期ならなおさら障壁は下がるでしょう。会社員の人が、副業に興味がある、空いた時間をつぶしたい、という軽い気持ちでスタートするのにも最適かもしれません。その中で、「現在よりもう少し収入を欲しい」「面白い仕事を経験してみたい」「人生経験を積みたい」など、希望に合わせて副業先を選ぶことで、より意味深いものになります。受け入れる業界としても、抜本的な人手不足の解消にはならなくとも、新しい労働力は貴重なはずです。企業の副業解禁が進む中、販売・サービス業界を選ぶ人の数は、これから確実に増えていくでしょう。
ライター: 肥沼 和之
大学中退後、大手広告代理店へ入社。その後、フリーライターとしての活動を経て、2014年に株式会社月に吠えるを設立。編集プロダクションとして、主にビジネス系やノンフィクションの記事制作を行っている。
著書に「究極の愛について語るときに僕たちの語ること(青月社)」
「フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。(実務教育出版)」