フライヤー×サーキュレーションの「知見と経験の循環」企画第11弾。

経営者や有識者の方々がどのような「本」、どのような「人物」から影響を受けたのか「書籍」や「人」を介した知見・経験の循環についてのインタビューです。

今回登場するのは、安達俊久さん。伊藤忠商事株式会社に入社し、エプソン株式会社のプリンター輸出業務に従事。伊藤忠テクノサイエンス株式会社のECビジネス立ち上げなどを行い、2002年より伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社代表取締役社長として3本のファンドを運営。また、2011年から3年間、日本ベンチャーキャピタル協会会長を務め、現在は特別顧問の傍ら、複数社の顧問やアドバイザーをされています。

後編では、第四次起業ブームと言われる現在、成功する起業家にはどんな資質があるのか、そしてベンチャーキャピタリストに必要な資質について伺いました。

第四次起業ブーム到来。大成する起業家の共通項とは?

Q:この13年間で、VCの市場は大きく変動したと思いますが、実際はどんな変化があったのでしょうか?

安達 俊久さん(以下、安達):

まず、2000年頃から日米ITバブル崩壊により、VC業界がなだらかな下り坂となっていきました。2006年のライブドア事件を発端に、ITベンチャー全体に対して世間が冷たい目を向けるようになり、一時は、ITというだけで投資が避けられるような状況になってしまいました。その後追い打ちをかけるように、リーマンショックと東日本大震災が起こり、この時期はVCの暗黒時代でしたね。

Q:現在、第四次起業ブームと言われていますが、この流れは続きそうですか?

安達:

ブームというと一過性のニュアンスがあるため、私はあえてそう呼んでいません。ですが、この数年で、しっかりとしたベンチャーが増えてきたので、起業は今後も増えていくと思います。特にIT分野では、ITバブルの頃と比べて、明らかに優秀な人材が会社を興すケースが増えてきましたね。大手企業で経験を積んだ後に起業するケースも多いですし。

例えば、フリマアプリのメルカリで躍進している山田進太郎さんや、電動車いすなどのパーソナルモビリティを開発するWHILLの杉江理さんはガッツもあるし、非常に優秀ですね。

Q:優秀な経営者に共通する特徴は何ですか?

安達:

基本的に軸がぶれていない人ですね。そのうえで、最初のアイデアに固執しすぎず、日進月歩で変化する技術や環境に合わせて、方針を柔軟に変えられる人。実質15年間VC業界に身を置いて、3万人くらいの経営者に会ってきましたが、こういう人のほうが成功する確率が高いと思います。

例えば、ファッション通販サイトZOZOTOWNを運営する株式会社スタートトゥデイには、2002年頃から投資していますが、社長の前澤友作さんも強い信念を持っている方でした、最初はすごいノリの軽い人だと思いましたが(笑)。Eコマースという市場自体、伸びるなと思っていましたが、前澤さんには一番可能性を感じましたね。というのは、何度かこちらが返答を返しているうちに、どんどん事業計画の中身がよくなっていったからです。

成功している起業家はこちらの質問にも、予想を超えた回答をしてくるし、変わっている人が多い印象ですね(笑)裏を返せば、大企業が伸び悩んでいるのは、トップが常識的な回答しかできなくなっているからでしょう。

Q:逆にこういうタイプの起業家は、なかなか大成が難しいというのはありますか?

安達:

計算高く緻密なタイプの起業家は、会社を潰すリスクは低いけれど、なかなか大成しないケースが多いように見受けられます。こじんまり収まるというか。ベンチャーはここぞというタイミングで、一点突破でもいいから、どっとお金を使わないといけない。ですが、そのリスクを取ろうとしない会社は、急激に成長する可能性が低い。そのため、私たちの投資対象にはなりません。

逆に、緻密な経営をしそうと思われがちなコンサルティング会社出身であっても、社会問題を解決しようという気概を持った社長は大成します。

例えばA.T. カーニー出身で、ネット印刷のラクスルを立ち上げた松本恭攝さんは、コンサルタント時代に中小の印刷会社が低い稼働状況に困っている現状を目の当たりにし、その課題解決をしたい一心で起業しました。強い思いもあり、業界のことも熟知している。こういうタイプの起業家はいいですね。

Q:これまで日米のベンチャーを見てこられてきて、どんな違いがあるのでしょうか?

安達:

一般的に、シリコンバレーの起業家のほうが見ている世界が大きい傾向にありますね。今はORACLE(オラクル)に買収されましたが、Javaの開発で一躍有名になったサン・マイクロシステムズのスコット・マクネリーは、言っていることのスケールが違いました。見ている目線が高く、思い切った手を打ち出すため、一気に成長する可能性も高い。

一方、日本の大半のベンチャーは、マーケティングにしてもまだまだ慎重です。大企業の新規事業にいたっては、失敗を恐れると言うより、これまで築き上げたものを失うのが怖いというのが大きいでしょう。

ですが、マネックス証券の松本大さんのように、大局的に物事を見ることに長け、若い起業家にも自分の経験を惜しみなく伝えるような影響力のある経営者もいます。彼は50代ですが、30代でも突出した経営者が増えてきてほしいですね。

Q:今後のVC業界の動向はどのように見ていますか?

安達:

2012年からこの業界が右肩上がりで上場数も増えてきているためか、志の高い独立系のVCが増えてきています。大企業の子会社のVCだと、親会社のしっかりした基盤やリソースを使えるメリットがあります。その半面、投資の世界は継続性が大事にもかかわらず、ローテーションで人が異動するなど、親会社の制約に左右されるというデメリットがあります。だから10年、20年と責任を持ってやれる独立系のVCが増えていくのは、良い動向なんです。

この数年における日米の年間投資額の比率は、1,500億円:4兆円、つまり1:27もの開きがあります。VC業界の人材はもっと深刻な状況です。日本ではプロのベンチャーキャピタリストが100人程度で、個人のエンジェル投資家が50名程度。一方、アメリカはプロが1万人規模でいて、エンジェル投資家が約3万人もいます。そのうえ、アメリカではイグジットした起業経験者が投資やアドバイスをする側にまわることが多い。

こうした状況を反映するかのように、日本の開業率は4~5%程度にとどまり、欧米の10%台とは大差がついている。次世代の起業家を育てるために、日本の開業率を10%に引き上げるという政府目標が掲げられていますが、まずは起業家を支えるベンチャーキャピタリストを2倍、3倍に育てないといけない。日本は、起業家を育てるエコシステムができる入り口にいるといったところでしょう。

ベンチャーキャピタルの世界は総合格闘技

Q:ベンチャーキャピタリストにとって重要な資質は何ですか?

安達:

VCの世界って、実は総合格闘技みたいなんです。市場や先端技術の知識はもちろん、様々な経営者と一対一で話して、投資に値する会社かどうか見極める力、ダメなときにはダメと言う胆力も求められます。さらには、株主や証券会社、監査法人などの利害関係者ともうまく調整しないといけない。実にあらゆる技が要求されます。

また、経営者は孤独なので、一人で考えるより経営のヒントを何らかの形で求めていることが多い。そこで別の見方をベンチャーキャピタリストが提供できるかどうかも重要だと思いますね。

Q:現在は、複数社で顧問やアドバイザーをされておられますが、伊藤忠商事にいらしたときと比べて、働き方や中身にどんな変化がありましたか?

安達:

完全にフリーになったのは2015年8月からですが、現在、顧問を5社、社外役員を3社務めています(2016年1月時点)。一度しかお会いしたことがない経営者や投資家からも、相談にのってほしいと連絡をもらいます。VC業界にいたときに、約3万人もの経営者と会い、日本ベンチャーキャピタル協会の会長を務めていた頃に名前を知っていただけていたことが活きていますね。

具体的には、資金調達の助言がほしいというのが多いです。投資家がどんな発想で投資を決めているかといった相談です。私の役割は、事業内容や経営者の人物などを見て、自分のネットワークの中から、合いそうなベンチャーキャピタリストを紹介すること。あの人はこの事業領域ではもういくつか投資をやってしまったのであまり興味がないだろうな、とかそのキャピタリストの専門領域と事業内容の組み合わせを見ます。また、ベンチャーキャピタリストも人間ですから、起業家との相性、合う・合わないがあるわけです。

実は、IoT(モノのインターネット)に特化したファンドの立ち上げに向けて動いています。ベンチャーキャピタリスト第2幕の幕開けです。IoTの中でもまだまだ未知の分野に絞り、既存の産業を変えていくつもりでやっていきたいと考えています。

前編はこちら

取材・インタビュア/松尾 美里
撮影/加藤 静

本の要約サイト フライヤーのインタビューはこちらから!

3万人ものベンチャー経営者と会われてきた安達さんは、
どんな信念を持ってベンチャーキャピタリストとしての道を歩まれたのでしょう?
そして、どのように投資眼を磨いてこられたのでしょうか?
プリンシプルを貫く安達さんの「見極め力」に迫ります。

フライヤー

ノマドジャーナル編集部
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