2016年年初に実施された、サーキュレーション、三幸エステートの新春セミナー「2016年の経済予測」は大盛況のうちに幕を閉じました。今回は、その中でも元エン・ジャパン経営企画室長で今は独立してビジネスノマドとして多くの企業のアドバイザーとして動かれている竹居氏による「2016年の人材マーケット予測」についての講演の内容を掲載します。中長期的なトレンドについて取り上げた前編に続いて、後編では2016年のトレンドについて触れていきます。
(前編はこちら)
2016年度の基本トレンド
さて、今後の人材マーケットのトレンドをお話しさせていただきましたが、2016年はどうなるのでしょうか?変遷期でもある2016年は以下のような点がポイントになっていくでしょう。
- 人材売り手市場は継続
- 外部人材の活用
- 女性・高齢者・外国人の活用
- グローバルな人員配置・制度、多様な働き方
- IT・ロボット・AIの活用による省力化
女性や高齢者の活用、それに付随する制度の設計、さらに技術の活用による効率化は、2016年も進んでいくことになるでしょう。これらの点については、短期的な視点のみならず、長期的な視点でも戦略を設計していくことが重要です。さてここでは、人材売り手市場、外部人材の活用という点についてお話ししていきます。
人材売り手市場は継続
何回も申し上げていますが、2016年も変わらず人材を採用することが難しいでしょう。昨年あたりから、労働力不足を解消するための正社員化ということが起こっています。これは、非正規社員を正社員として安定確保し、更に教育や研修を進め、一人当たりの仕事の価値をあげていこうという意図が背景にあります。少ない従業員数でも今までと変わらない、またはそれ以上の価値を出していくために、一人一人の従業員の仕事の効率や価値をあげていこうということです。
外部人材の活用
一方で、高付加価値の仕事ができるプロフェッショナル人材やシニア層を外部人材として活用する動きがあります。これは、むしろ正社員化とは逆行する動きです。
今までは、営業というと正社員がやることが通例ですが、今ではアポイントメントをとるなどの細分化された業務の営業代行も浸透しています。これは、営業に特化し成果をあげられる人材が、その能力を複数の企業に対して出していく流れです。
企業にとっては、正社員化して教育をするより少ないコストで高い成果を得られるメリットがあります。
外部人材の活用と正社員化はどちらがいいという白黒つくものではなく、企業の強み、人的リソース、時間軸などに応じて、使い分けていくものです。人材確保は単に人を雇うという手段だけではなく、外部リソース活用も含めて広い選択肢のなかから判断しなくてはならず、人事部門にはより高度な戦略設計が求められていきます。
人材マーケットの変化に応じて直面する課題は、人事部門は過去にないレベルで、より戦略的で高度な判断が求められますが、それに対応できるかという事です。判断に必要な情報、知識も飛躍的に広がり、今や経営の行末に最も大きな影響を及ぼす重要部門と言えます。
会社の方針や事業特性に応じた人材ポートフォリオから、採用、育成、リテンション、グローバル化対応、制度、女性・シニア・外国人の活用、育児や介護との両立などなど、本当に多くのテーマを解決していかねばなりません。
採用の課題
人事部門の仕事が高度化していると申し上げましたが、採用1つとっても非常に難易度が上がっています。一般的な求人広告や人材紹介の会社に依存し、待ちの姿勢では採用競争に太刀打ちできません。
では、採用をする際、具体的にどのようなことに注意しなくてはいけないのか。5つの観点からお話ししたいと思います。
1.採用ブランディング
新商品を設計する際、ブランディングをされると思いますが、それは採用に関しても同じです。どのようなターゲットに関心を持ってもらいたいのか、そのようなターゲットはどのくらい市場にいるのか、これらの点について戦略を練る必要が有ります。
2.採用の対象、雇用形態
現場が忙しくなってくると、さらに正社員を採用してほしいと現場から要望がきます。採用担当者はそこで一度冷静にならなくてはいけません。本当にその採用は必要でしょうか? 業務フローを改善すれば補充しなくてよいかもしれません。または、正社員でなくてはいけないのでしょうか? 若手男性でなくては本当に駄目なのでしょうか? あらゆる観点から、採用するべきかどうか判断しなくてはいけません。
3.採用手法
今は様々な採用手法や候補者へリーチする方法があります。例えば、外部メディアを活用したスカウトサービスはほんの一例です。それだけでなく、企業が採用専門の自社メディアを開設したり、SNSから直接候補者と繋がるのも一つの手法でしょう。人材データベースに採用担当者が直接アクセスすることができるサービスもあるようです。仕事で接点をもつ人達と繋がりを維持し、転職潜在層を掘り起こしていくことも可能です。新しい採用手法を考案しながら、そのなかでより良い手法を選んでいく必要があります。
4.採用プロセス設計
候補者にリーチしてから内定を出すまでのプロセスは採用の実績に実は影響を与えます。例えば、内定を出すのが遅い企業に対して候補者は、「自分にそこまで関心がない」と感じてしまうこともあるでしょう。また、面接官の順序によっては、その候補者の企業に対する評価や、企業のその候補者の評価も変わってしまうかもしれません。さらに内定承諾を渋る候補者に対して、どういったクロージングをしていくのかも考えなくてはいけないでしょう。
5.採用KPI目標
営業では、例えばコンタクト数、商談数、見積り提出件数、獲得件数などのプロセス数字に着目すると思いますが、これは自社採用でも一緒です。一定数の人材を採用したいのであれば、リーチする母数を十分に確保する必要があります。その後のプロセスごとに数字目標を設定し、達成するための方策を考える。これは採用でも非常に重要なことです。
育成戦略:次代を見据えた人材育成とは
採用戦略についてみてきましたが、採用された従業員をどのように育成していかなくてはいけないのでしょうか?これも短期的な戦略と長期的な戦略に基づいて研修を設計する必要が有ります。短期的に効果をもたらす研修などは色々ありますが、
ここでは長期的な育成方法とはどのようなものかということをお話しさせていただきたいです。
この図は企業で働く人達の時間が何に投入されているか、この時間配分を長期的にどのようにシフトさせていくべきかの模式図です。
今後の人材育成のトレンドとは、ロボット技術などが進歩するなか、仕事の価値を上げていかなくてはいけないということです。ロボットではできない仕事をさらに高いレベルでこなしていく人材に育てていく必要があります。では、ロボットができない仕事とはなんでしょうか?これを「非定型業務」と呼ばせてください。非定型業務とは次の4つの要素が含まれる仕事です。
非定型業務
- 創造的業務(構想、企画、提案)
- 感性を発揮する業務
- 人を巻き込み導く業務
- 問題発見、問題改善業務
これらの4つが非定型業務と呼ばれるものですが、これらはロボットによって代替されにくいものです。
創造的業務とは、提案や企画などのことです。お客様のニーズを捉えた新たな提案や新規事業を担当することも創造的業務といえるでしょう。
感性を発揮する業務とは、コピーライター、販売(接客)職なども含まれるでしょう。ただのモノ売りではなく、自分の感性を発揮して相手の感性に訴えかけ、共感を得る能力が求められます。
人を巻き込む能力とは、リーダーシップをとる上で必須の能力といえます。ビジョンや思いを伝え、人の気持ちに変化を起こし、人を巻き込んで、ゴールに向かってチームを導くことはロボットにはできない仕事です。
最後に問題発見、問題改善の業務です。実はこの能力は、上の3つに比べると教育次第では誰でも身に付けられるものです。創造的業務は社内でも限られた人しか従事することができませんが、問題発見、そしてその改善はあらゆる業務で普段から実践できることです。これは特別な能力を必要とせず、誰でも磨けば習得できます。前例踏襲でなく、常に改善の気持ちをもって、課題を発見していく力はこれからの時代に必須の能力ではないでしょうか。
これらは技術が進化し、労働人口が減少していく時代の育成課題です。社内の教育・育成はこれらの4つの要素を意識して人材が長期的に活躍できるような育成ステップやプログラムを設計する必要があるわけです。
最後に
現代は変化が激しい時代だと言われています。これをピンチと捉えるのではなく、チャンスと捉えなくてはいけません。時代の潮流を読み、戦略をもって時代に立ち向かうことができれば、競合よりも一歩前に行くことができる筈です。
記事作成/サーキュレーションインターン生 高橋崚真(タカハシ リョウマ)
撮影/加藤 静
株式会社SUSUME代表取締役
n1994年一橋大学社会学部卒業後、新日本製鐵㈱(現新日鉄住金)に入社
n1998年デロイトトーマツコンサルティング(現アビームコンサルティング)に転職。戦略コンサルタントとして大手企業やベンチャー企業向けの戦略立案、市場調査、経営管理、業務改善などのコンサルティングに携わる
n2001年映像ITベンチャー「㈱キャドセンター」に転職。経営企画室長として経営戦略、新規事業立上げ、上場準備、資金調達、業務改善など多岐に亘る業務をマネジメントし、会社の成長期を支える
n2004年人材サービスのエン・ジャパン㈱に転職。経営企画室長として、多数のM&A、新規事業立上げ、子会社管理、経営計画、IR、業務改善などを推進。
2011年から中国上海の人材紹介会社でCOO更にCEOとして事業を拡大
n2015年に帰国後、株式会社SUSUMEを設立。
これまでのビジネス経験と人材紹介コンサルタントの経験をもとに、経営コンサルティング、ビジネストレーニング、キャリアコーチなどを行っている
米国CCE,Inc.認定GCDF-Japan キャリアカウンセラー
中国政府公認中国語試験HSK6級
キャリアブログ連載中
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。