前回は筆者が事業再生担当として入社した再生中の企業。ファンドが連れてきた社長は施策の失敗により内部での信頼を失い、結果として社長の交代劇にまで発展しました。内部の工場長を次の社長に据え、ようやく「自分が社長になったつもりで行動する」立場になった筆者が実行したこととは何でしょうか?

「まず止血を」赤字の原因を探す

A社に新しくDさんを社長に据え、再生プロジェクトチームを組成し、ようやく本当の事業再生がスタートしました。何しろ10年も続く慢性的な赤字企業です。まず「止血」をしないと何も始まりません。

安易なコストカットと、生産部門へのしわ寄せ

今になって思うのは、この「赤字」というものが非常に奥深いものである、ということです。赤字を防ぐというと、コストカットが真っ先に思い浮かぶ人が大半だと思います。実際、このA社でもそういう認識が真っ先にありました。

というのは、工場に製品や部材の在庫が積み上げられているという一見して無駄が多く、一方で営業マンの生産性(1人あたり売上)については一部の黒字の競合より高いと言われていたからです。また、競合が盛んに行っているテレビCMは行っておらず、その他の販促も競合より目に見えて劣っていました。

だから本社では、赤字の犯人は生産部門であって、製造原価を含めた生産関係のコスト削減ができれば収益が改善すると思われていました。よく聞かれる声としては「うちの工場は努力が足りない」です。新任のD社長に反発する社員も多くいましたが、そのときの主な批判もこの点でした。

何故、生産性が高いのに赤字なのか?

「生産性が高いのに赤字」この点は重大だと思い、私は拾えるだけの情報を拾い、ヒアリングを数多く行って、事実関係を調べ上げていきました。

そうして、競合企業の営業マンの人数や販売数、売上などを調べていくと、実は本当にA社の営業生産性が高めであることが分かりました。

株式公開している老舗の大手競合企業が三社あったので適当なベンチマークになりました。その三社とも黒字企業だったのですが、ここにA社を加えた四社の中で、A社の営業生産性は何と二番目、これは驚愕の事実です。

生産性がトップの競合企業は営業利益率もトップ。そして生産性が三番手の競合企業も黒字。それなのに何故か生産性が二番手のA社が赤字。この事実は再生プロジェクトチーム内で共有したものの、社内ですぐに発表するわけにはいきませんでした。なぜなら新任のD社長は直前まで工場長であり、現在も工場長を兼任する生産部門のトップだからです。

D社長自身が赤字の「主犯」となってしまっては再生の旗振りができなくなります。ですので、冷静になって「何故、生産性が高いのに赤字なのか?」という次の疑問の解明に入っていきました。

赤字の犯人は何か?競合他社との比較でみえてきた事実

ベンチマーク先の競合三社は上場企業ですので、損益計算書(P/L)も参照できます。可能な限りP/Lの細かい項目まで比較し、営業所の数やショールームの数なども含めて総合的に分析していきました。すると、幾つも意外なことが分かってきました。

最初の大きな発見は、「営業マン1人当たりについて、売上から製造原価を差し引いた粗利の段階ではまだその四社中二番手」である、という点でした。この段階だと三番手との差が埋まってしまうのですが、それでも黒字の三番手や四番手より上にいるわけです。

主犯格扱いだった製造原価は、確かに赤字の一因でしたが、それだけではない、ということが分かったのです。更なる発見は、「営業マン1人当たりについて粗利からその他の変動費を差し引くと(いわゆる限界利益)、四社中の最下位に落ちる」ということでした。原価以外の変動費として大きなものは物流費で主に製品や部品の配送費や保管費です。この差は原価以上に大きなものがありました。この物流費が赤字の一つの原因だったようです。

更に発見が続きます。限界利益段階で四番手になるものの、二番手や三番手と大差がなかったのです。それなのにA社だけ赤字。多くの場合、限界利益の差以上に営業利益に差がでます。ですので、営業利益の差を調べるべく営業所に関連する固定費用(事務所家賃、人件費、ショールーム費用など)まで分解して比べると、やっと分かりました。営業所関連の固定費用に差があることでA社だけ赤字になっていたのです。

ついにA社のおかれている状態が分かりました。でも、何故A社の物流費が大きいのか、営業所関連の固定費が大きいのかは分かっていません。特に物流費については、生産部門の自助努力を遙かに上回る差に見えたのです。

高い物流費の原因

更に解明は続き、新たにA社の特徴が二つ浮き彫りになります。一つは、競合よりも低価格品の比率が高いこと、もう一つは、営業所あたりの売上が小さい(=営業所あたりの営業マンが少ない)、ということです。高い物流費の最大の犯人は、この低価格品比率の高さでした。商品がキッチンですから配送物としては非常に嵩張り、トラックの荷室を占領し、そもそも物流費は高め。

低価格品の粗利率は中高価格品のそれと大差ないので、キッチン一つあたりの粗利額は下がります。そこから物流費を差し引くことになりますが、体積は同程度なので物流費は低価格品でも中高価格品でも同程度です。結果、キッチン一つあたりの乏しい粗利から高い物流費が差し引かれ、極めて小さい「キッチン一つあたりの限界利益額」となってしまうのです。これでは生産部門が配送業者とどんなにハードな交渉をしても焼け石に水です。

営業固定費が高いのではなく、拠点あたりの営業マンが少なかった

もう一つ、営業所あたりの営業マンが少ないという点もA社の特徴でした。少ない人数で高い営業所やショールームを支えているので、営業マン1人当たりにすると家賃もスタッフ人件費も競合に比べて大きくなる、ということです。簡単なことですが、収益に極めて強く影響します。何しろ最も効率の良い競合が20人で1箇所を運営しているのに対しA社は7人ぐらいですから、単純に言うと1人が3倍を稼がないと追いつきません。なぜ、A社のショールームに営業マンが少なかったかについては後述しますが、A社のショールームは狭く、立地も悪く、見栄えもしません。ですから売上は増えず、一つあたりのショールームに十分な営業マンを配置できないままになっていたのです。

何故こうなったのか? 赤字の構造の解明

赤字の原因を究明すると、競合よりも低価格品の比率が高い、そして営業所あたりの売上が小さい、という2点がわかりました。何でこのような状況になってしまったのか、次の疑問はそこでした。

ここには歴史的な経緯があります。A社は老舗企業であり、業界全体が伸びる時期にトップレベルにいました。こういう時代は「需要<供給」です。作れば売れますので、商流の上流にいる代理店を主にしたチャネル政策が主軸になります。こうしてA社は代理店ともに成長したのです。しかし、この業界も徐々に成長が鈍化してきます。このように「需要>供給」となると、他の商材と同じように商流の下流にいる消費者や小売へのチャネル政策が主軸になります。A社はこれに乗り遅れました。というのは、もともと代理店政策で栄華を極めていたからです。

そして、キッチンも簡易なものから高級志向になり、中高価格品が増えてきます。こういった商品ほど下流密着が必要です。なぜなら消費者の拘りや個別事情を汲み取らなくてはならないからです。ですがA社にはそれができません。代理店を通して販売し易いのは仕様が簡単な低価格商品です。こうしてA社は低価格商品への依存度が高まっていったのです。

でも、物流費が嵩む構造なんて営業側は分かりませんから、低価格品を大量に売って売上を作る営業マンがエース扱いされます。1人あたりの限界利益が小さい、下手をすると限界赤字かも知れないですが、こうした営業マンを一つのロールモデルとして扱っていました。

こういう代理店依存、低価格商品依存が強まり、時代の主流である「下流への中高価格品の丁寧な販売」ができないA社の売上は低下し始めます。売上が落ちた営業所では、営業マンの補充をすることが殆どなくなります。目先をみると人件費が営業所のP/Lを圧迫するからです。でも、営業所の人数が減ると1人あたりの営業所やショールームの負担額は増えます。ですから、赤字は悪化します。ますます営業マン補充は困難になります。こうして悪循環に入っていったわけです。

こうして、「赤字の構造」はおおむね把握できました。ここから、どのようにして赤字を解消していくかを考える段階に入っていきました。

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専門家:坂本 純一郎

事業再生専門家。大手総合化学メーカーに新卒入社、IT系コンサルティングファーム、戦略系コンサルティングファームでコンサルタント職を経験。その後、建材業を皮切りに、大手小売業、フランチャイズ展開企業などPEファンド出資先の経営企画本部長、営業部長、人材開発本部、執行役員等を歴任し、合計10年の事業再生経験を積み重ねた。
現在は独立し、事業会社のコンサルティングや事業推進サポートを行っている。

ノマドジャーナル編集部
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