ターンアラウンド・ノマドによる事業再生ストーリー第2回は、経営コンサルティングから事業再生へと踏み出した筆者、事業再生専門家がみた「事業再生の現実」です。

筆者が初めて手掛けた再生に陥った企業の当時の雰囲気や、出資したファンドがつれてきた米国のMBA資格を持ち、外資系企業のCEOを務めた「プロ経営者」がどのように機能しているのか、生々しく語られています。

プロ経営者の実行した施策とは、そしてその結果はどうだったのでしょうか。

「事業再生の現場」:第1回 経営コンサルティングから事業再生へ【前編】はこちら

10年続いた赤字と3度の資金注入の罪

関わることに決めた再生企業は、私が幼いころから企業名を聞いたことのある老舗のシステムキッチンメーカー(A社とします)でした。

もともとは大手メーカーが子会社として保有していましたが、かなり経営に手を焼いたために親会社が投資ファンドに売却したのです。この投資ファンドの一号案件でした。

A社はキッチンメーカーとしては老舗で、かつてはトップメーカーの一つでした。

成長軌道にあって飛ぶ鳥を落とす勢いだったようです。
景気が良いときにはお客さんにも社員にもタクシーチケットを乱発し、とても費用がかかるTVコマーシャルも恒常的に打っていたとのことでした。

しかし、その後栄華は長くは続かず、転げ落ちるようにシェアを落としていきます

原因は後々にお話をしていきますが、10年ほどの間に売上は半減し、常に赤字。
当然、資金も足りなくなりますから親会社による資金注入が3回。
つまり、本当は3回潰れていたのです。

再生に陥った会社の雰囲気

我々が参画したのはこういう10年の後です。

状況は推して知るべしで、まず社内に活気がない。
赤字続きですから、かつては出ていたボーナスはもはや出ていません。給料も上がりません。かつ、売上が減り続けているので社員は将来を感じていません。前向きな姿勢の人がとても少ない。

百歩譲って前向きでないのは良いとしても、やや驚いたのは危機感も薄いことでした。
3回の資金注入、つまり3回死んでいるというのに、「何とかしないと」という意識が全体的に希薄なのです。むしろ、通常の会社より緩いぐらいです。

まさに三枝匡氏の書籍に書いてあるように、業績悪化と危機感は相関しない状態を目の当たりにしました

むしろ、3回の資金注入がこの緩さを招いたのかも知れません。
「業績悪化しても助けてもらえる。」「二度あることは三度あり、三度あることは四度ある」と思ってもなんら不思議ではありません。

既に辞めた社員も沢山おり、よくある話でやる気のある人や優秀な人から先に抜けていったようです。それまでにコンサルティングでそれなりの数の会社をみてきましたが、それらと比べても明らかに人材が枯渇していました。

営業と生産部門の悪い関係。不満があるのにぶつからないシャンシャンの会議

そして、営業部門と生産部門の仲が悪い

多少仲が悪いとかいがみ合うだけならメーカーにはよくある話です。その程度が酷く、お互いの信頼が殆ど無いと言えました。

営業側は生産側の納期を信じませんし、競合より原価が高いとか売れる製品を作ってくれないなどと文句ばかり言い、生産側は営業に売る力がないから言われた量を作っても余らせて在庫になるとか、営業の要望を反映して製品開発しても的が外れていて売れるようにならない、言われて急いで作ってもすぐに出荷しない、などとこちらも文句を並べます。

ところが毎月開催される生産と営業の調整会議では、お互いの意見をぶつけた真っ向勝負をするというわけでもなく、何となく議案を舐めてシャンシャンで終わる感じでした。

そして貧乏会社ですから、かけるべきところにお金がかけられません

例えば、この業界ではショールームが大事ですが、そのショールームの照明が弱く、暗い。でも、照明設備の増強は費用がかかるからやらない。床タイルの一部の色が違っていてパッチワークのようになっていても、全交換はしない。
そもそも競合に比べてショールームが狭いのですが、もちろん家賃の高いところに引っ越すようなことはできない。

ですが、そういう「武器」が整わないと戦えません。戦いに負けるから利益も生まれない。利益がないから武器は補強できず、社員のボーナスも出ずに士気も下がる。生産と営業の信頼度は更に下がって、ますます戦いに負ける。

この悪循環が10年間続いたのです。

プロ経営者?空回りする新社長と右往左往するファンド

そういうときにA社は投資ファンドに売却されました。この投資ファンドの初投資案件でした。
そして、投資ファンドが引き抜いてきた人が新社長(B社長とします)に就きました

私は元同僚のCさんと一緒に、このB社長との面談を通じてA社に入社し、経営企画室長として戦略策定や各種の施策の先導役となり、CさんはいわゆるCFO役の管理本部長になりました。

B社長は我々より一つ世代が上で、米国のMBA資格を持ち、外資系企業のCEOを務めたという、いわゆる「プロ経営者」として着任していました。B社長はもの凄い自信家でもあり、非常に強気に事業を推進していきます。
お目付役の投資ファンドは、自分たちで選んだB社長ですし、一号案件で勝手が分からないこともあり、B社長に任せきる状態でした。

B社長の打ちたてた柱は幾つかに分類されました。

一つは、彼流のマーケティング手法の持ち込み、もう一つはだぶついた在庫の削減、さらにそれらを推進するための大幅な人事の刷新でした。

これらの柱自体は間違っていなかったと思います。
ですが、お分かりのとおり発想だけなら誰にもできることで、これらが今ダメな原因をどう捉えて、どのような手を打つかの中身が肝要です。B社長は、この中身が伴わないのに押し出しだけは強烈でした。

マーケティング施策を実行。「消費者の声をきく」のは正しいが・・

まずマーケティングについては、確かにA社のそれは現代的ではありませんでしたから、B社長は「私はマーケティングのプロ」ということで周囲に有無を言わさず新製品を開発し、TVコマーシャルを基軸にしたプロモーションを展開します。

新製品については「消費者の声を聞く」というよくある方法をとり、簡単なインタビューで得た情報から開発を進めます。消費者の声は勿論正しいのですが、普通に聞けばあれもこれも欲しいとなり、当然要望は膨れ上がります。

結果、確かにデザインも品質も従来とは一線を画す製品に仕上がりますが、原価ももの凄く上がり、値引きと低価格品販売に慣れてしまった営業組織には考えられない「高級品」となったわけです。

また、競合に比べて売上規模で劣り、粗利率/限界利益率/営業利益率の全てで劣るにも関わらず、多額の広告宣伝費をかけました。
少し会計知識のある方ならお分かりいただけると思いますが、資金繰りがギリギリの中で2ヶ月分の限界利益額を広告宣伝に投下したのです。

「在庫を減らせ」削減自体は重要だが?

そして在庫削減についても、生産側に「在庫が多い。減らせ。」と強気に指示するだけでした。在庫は生産だけの問題、と決めつけていました。

実際、工場内に完成品も仕掛かり品も在庫されているのが目についていたのですが、在庫の膨らみの原因はケースバイケースです。
その原因をB社長が追及することはありませんでした。

しかし、在庫の削減自体はA社にとっては非常に重要でした。
資金が逼迫していたからです。貴重な資金が完成品と仕掛品の在庫に置き換わっているわけで、それはA社の売上規模に比較すると多額であり、削減は資金繰りの上で非常に重要でした。

そんな中、乾坤一擲の新製品投入を行ったわけです。

画期的新製品の投入。大々的な広告宣伝の成果は

自信満々のB社長は、「画期的新製品にタレントを使った広告宣伝を行っているのだから爆発的に売れる」と主張して、従来では考えられない販売目標を立て、営業にも生産にも指示を出しました。

当時のA社の看板商品である中級品があったのですが、その販売量の何倍もの数字を、かなりの高級品である新製品の販売目標に設定したのです。

私もCFO役のCさんも、その無茶な販売目標を下げるように説得を試みましたが、着任したばかりの我々では自信に溢れるB社長の制御はできませんでした。

発売を前にして、社内は混乱し、不信感が渦巻いていました。

途方もない数字を課された営業に対してB社長は「売れて当然」という態度ですから、営業としては売れなかったどうされるのだろうという不安が増します。
一方で営業は、「高いだけのこんな商品が売れるわけない」と思っています。

生産としては、当然、その販売目標に見合うだけの材料調達や生産スケジュールの調整に追われます。

「在庫を減らせ」と言われる中で新しい部品を調達し、従来品の生産を継続しながら新製品の生産をしなくてはいけないわけです。そして極めてタイトなスケジュールでの新製品リリースですから、開発陣も相当なプレッシャーがかかりました。品質の不具合や瑕疵があろうものなら、販売不振の犯人にされかねません。

そして、A社の身の丈に合わない大々的な広告宣伝とともに、新製品がリリースされましたが結果は惨憺たるものでした。

販売目標の1割にも満たないような状況。社内は歪みます。益々在庫が膨らみ、営業は毎日尻を叩かれますが全く売れない。

「こんなはずはない」とB社長は躍起になります。その表情には焦燥感と悲壮感が漂うようになりました。

資金繰りを気にする投資ファンドは、どうして良いか困り果て、右往左往するばかりでした。

こうした大混乱が我々の着任後数ヶ月の出来事であり、更なる資金の枯渇と壊れた社内の雰囲気の中、我々の本当の業務がスタートしました。

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専門家:坂本 純一郎

事業再生専門家。大手総合化学メーカーに新卒入社、IT系コンサルティングファーム、戦略系コンサルティングファームでコンサルタント職を経験。その後、建材業を皮切りに、大手小売業、フランチャイズ展開企業などPEファンド出資先の経営企画本部長、営業部長、人材開発本部、執行役員等を歴任し、合計10年の事業再生経験を積み重ねた。
現在は独立し、事業会社のコンサルティングや事業推進サポートを行っている。

ノマドジャーナル編集部
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