筆者が事業再生担当として入社した再生中の企業。ファンドが連れてきた社長は施策の失敗により内部での信頼を失い、結果として社長の交代劇にまで発展しました。内部の工場長を次の社長に据え、赤字の原因を特定した筆者が経営改善のために実行した施策とはどういったものでしょうか?

赤字の原因によっては、「よくある」経営改善施策は的外れに

分析の結果、赤字の原因が分かりました。要点は二つに集約されます。①価格の割に嵩張る低価格帯商品が高い売上比率を占めるため、物流費が構造的に大きくなること。②拠点あたり(ショールームあたり)の営業マンが少ないために、営業マンあたりの固定費が大きくなること。この①と②のために、せっかく営業マンあたり売上で業界二位なのに営業赤字に陥っていたわけです。

この原因からすると、「よくある」経営改善の手段は的外れとなります。よく挙がる手段としては、例えば、値引きによる拡販、広告宣伝の強化などはもちろんですが、営業マンの活動量アップ、生産コスト削減や従来の延長線上の物流費の削減などです。当然ながらこれらも手がけた方が良い施策とは言えますが、根本的な手とは全く言えなくなります。また、すでにA社はこれらのことを多かれ少なかれ頑張ってやってきていました。そして、その結果といえば焼け石に水で終わっています。

低価格品への依存からの脱却が簡単ではない理由

既に上げた通り、①構造的に物流費が収益圧迫要因になっていること、②拠点当たりの営業マンあたりの固定費が大きいこと、の2点への対策をしないと赤字は止まりません。対策とは、①については、低価格でない商品、すなわち中価格帯か高価格帯の商品へのシフトであり、②については拠点あたりの営業マンの増員です。

ただ、これらの施策はどちらも高難度です。まず低価格品依存の脱却が簡単ではないのは、価格帯が上がるほどに流通の川下に下りていく必要があるからです。販売商品をシフトさせるなら、顧客企業もシフトさせなくてはならないのです。一般的な住設機器の商流は、メーカー→代理店→販売店→工務店→消費者、という多段階になっており、他の商材と同様、近年は川下の力が強まっていました。特に高額品ほど川下有利となります。考えてみれば当たり前で、高額品は末端の消費者の方々がこだわって選ぶため、メーカーも川下に近付かないと売れないのです。

一方で低額品に対しては消費者のこだわりが減ります(アパートの流し台が低額品の典型例です)。こだわらない場合、川下側は川上側が勧めたものを選ぶ傾向が強まります。A社の低額品比率が高いのは、川上を重視した販売体制から抜けきれていなかったことが原因でもありました。つまり、顧客を代理店中心から、工務店中心に切り替えていかないと価格帯はシフトしないのです。

これは簡単そうに聞こえると思いますが、非常に大変なことでした。これまでの慣れたお客様から不慣れなお客様に販売していくのだけでも苦労するのに、工務店に選んでいただくためには建設現場に足繁く通ったり、場合によっては建設現場で手伝ったりして信頼していただく必要があります。何よりも、代理店はとりあえず商品を買い上げてくれますが、工務店の場合は工事前から関わって、工事が進む中でやっと納品ができるため、いわゆる受注のリードタイムが一気に長くなるのです。今月の売上に追われる営業マンや営業所に川下シフトを課すのは簡単ではありません。

そうして、収益改善策は「低価格商品依存からの脱却」に絞られた

拠点あたりの営業マンを増やす②の対策は、その時点ではほぼ不可能でした。赤字の中で営業マンを追加で正社員採用するのは無理があります。そうすると思いつくのは営業拠点の統廃合です。売上の小さい拠点を閉じ、大きい拠点に営業マンを異動させ、拠点あたり営業マンを増やすのです。

営業拠点の統廃合は、理論上は簡単でした。しかし、各拠点の地元で生活を長く続けてきた社員を一度にたくさん異動させなくてはなりませんし、手当や引っ越し費用も払いにくい厳しい財務状態。かつ、地元のお客様もいらっしゃるので、アフターフォローや継続的なメンテナンスは残ります。一時的に大きな費用がかかるため投資ファンドはとても許してくれず、当面は諦めました。
そうして、収益改善策は「低価格商品依存からの脱却」に絞られました。

少ない武器の徹底活用。中価格品を「川下営業」する

低価格品依存の脱却と言っても、売るものが無ければ話になりません。とはいっても高価格品は無理でした。実際、前任のB社長が多額の商品開発費と広告宣伝費を投じた高級品は殆ど売れませんでした。多額の広告宣伝費といっても、A社にとっては多額でしたが業界の中では高い水準とはいえないものでしたし、これまで低価格品を扱っていたA社のショールームはとても高級品に対応したものではなかったので当然です。

そんなわけで高価格品は話になりませんでしたが、弱り切ったA社にも残っていた数少ない武器があったのです。それは、中価格品でした。老舗であるA社には「昔とった杵柄」が中価格品に存在していたのです。その競争力のある中価格品とは、品質が高く、独自性があり、発売から年数は経っていても競合トップの商品に引けをとらない商品です。ただ、それらの商品は、以前の記事でも「競合が10倍売っている」、とお伝えした通り、良い商品なのに売れていませんでした。

その理由は明白でした。商流が川上から川下に移行している時代に乗り遅れたため、こだわりのある消費者に響くはずの当商品の良さが伝えられていなかったのです。それでも、多くの営業マンは川下に営業するよりも、手っ取り早く売れることから、川上のお客様に低価格品を売ることに注力していました。逆に考えると、この中価格品を「川下営業」できればもっと売れる可能性があったのです。

投資ファンドも抵抗。目先の売上減少を覚悟した中長期的な売上改善施策の実行

ただし、この「川下営業シフト」には条件がありました。目先、三ヶ月程度の売上減少を見込まなくてはならないのです。中価格品を選んでいただくためには、工務店やリフォーム店のような川下のお客様に良い商品があることを知っていただき、一戸建てやリフォームの計画段階で、工務店から消費者に勧めてもらう必要があります。建設計画時に営業をするのですから、納品(売上計上)までに三ヶ月の間が空くのです。これは今月や来月の売上を重視する営業組織には馴染みにくいし、投資ファンドも抵抗を示しました。三ヶ月後に必ず売上(正確には利益)が増えてくれれば納得もしてくれるでしょうけど、そんなことはやってみないと分かりません。その施策こそが、中長期的な売上改善をもたらすと信じ、それをD社長や管理本部長のCさんとともに、懸命になって説得をしていきました。

更に、戦意喪失気味の現場の営業マンにも手立てが必要と感じていました。長年、ボーナスが出ておらず、低い年収で働かされているという意識があり、A社には先が無いとまで感じている営業マンも多かったわけです。小手先の施策かも知れないと思いながら、決めたのは当商品の販売ごとに現金を給付するインセンティブです。決して高額ではありませんでしたが、売れば売るほど実入りが増えますし、長らく小遣いにも苦労していた営業マンには相応の効果はあると考えました。

そうして、価格帯別の商品比率が入れ替わった場合の収益予想も立て、目標予算を検討するなど、プランニングは着々と進めていきました。
ただ、一方で赤字は止まっておらず、資金繰りの悪化も着々と進行していたのです。

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専門家:坂本 純一郎

事業再生専門家。大手総合化学メーカーに新卒入社、IT系コンサルティングファーム、戦略系コンサルティングファームでコンサルタント職を経験。その後、建材業を皮切りに、大手小売業、フランチャイズ展開企業などPEファンド出資先の経営企画本部長、営業部長、人材開発本部、執行役員等を歴任し、合計10年の事業再生経験を積み重ねた。
現在は独立し、事業会社のコンサルティングや事業推進サポートを行っている。

ノマドジャーナル編集部
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