実は多くの経営者が頭を悩ませている「個別労務」問題

日頃より、組織や人事のあり方についてベンチャー・成長企業の経営者様たちにさまざまな相談を頂き、お答えすることを生業としている組織人事ストラテジストこと私です。その中で実感するのは、経営者の脳内に占めるマインドシェアのうち、少なくない部分が「人事」に関する問題であることです。その中でも、特に面倒で頭が痛いと感じているのは、いわゆる「個別労務」の問題です。

パフォーマンスを発揮できていない社員への対処方法

 「個別労務」という言葉はそれほど一般的ではありませんが、「能力や適性、または疾病等の健康上の理由などのさまざまな理由で、会社が期待するパフォーマンスを発揮できていない従業員や、何らかのトラブルに関係した従業員に対し、イレギュラーに発生する個別対応」と、この記事の中では定義いたします。これらの事象への対応は、経営者と人事担当者にとって、頭の痛いネガティブな「悩みの種」です。

このような「個別労務」事案に対し、会社はどうすれば良いでしょうか。私は以下の2つの観点で考えています。「未然に防ぐ対策」と「発生後の事後対応」です。

低パフォーマンス社員を未然に防ぐには。採用時の品質管理が重要

まずは、入口である採用の時点でいかにリスクを減らし、トラブルを予防するかです。ここで参考になるのが、製造業における品質管理の考え方です。工場の製造ラインでは「いかに不良品を上位の行程で食い止め、下位工程に流さないか」が重視されます。例えばトヨタなどでは、異常に気づいたら工員がすぐ自らラインを止める、「アンドン」の仕組みを取り入れています。上流工程から不良品が多く流れると、下流工程における負荷が上がりますし、途中の工程で掛けた工数も無駄になります。下流で不良品を弾くより、いち早く不良品を発見し、ラインを止めて下流に流さないことで、不良品に対して余計な工数を掛けないという発想です。

これは人事においても同様です。上流工程≒採用の段階で、採用数確保、数合わせ優先して質に目をつぶると、不良品≒期待を大きく下回る従業員が少なからず発生して下流工程=労務担当者の負荷が増えるというのは理解できると思います。上流サイドである採用時にしっかりと品質管理を行い、下流に不良品を流さない努力が非常に大事になります。

残念ながら、「(自社にとっての)不良品」を採用の時点で完璧に防ぐことはできませんが、いくらかの努力によってその確率を減らすことは可能です。具体的な施策として、以下、いくつか挙げてみます。

中途採用での適性検査。適切な「足切り」を

私がまずお勧めするのは、応募者に対する「適性検査の実施」です。新卒採用では適性検査の使用は一般的ですが、中途採用でもこれを用いるのです。中途採用の場合、書類選考→面接というプロセスが一般的ですが、このプロセスに適性検査を入れます。目的は、候補者の「足切り」です。検査結果の特定の要素に対して、一定以下であれば不採用とします。例えば、プレッシャーが高い業務(例:クレーム対応)にストレス耐性が低い人を採用しないといったことです。面接ではごまかせても、適性検査ではある程度傾向は現れます。なお、使用するツールは実績のあるものを使うことをお勧めします。相応の費用は掛かりますが、人材紹介料と比較すればその1%にもなりませんし、その後のリスクを減らす保険料と考えれば、十分にリーズナブルです。また、入社後のタレントマネジメントにも活用できるので、一石二鳥です。

国内企業では一般化していない「リファレンスチェック」の活用

また、多くの日本企業ではあまり使われていないようですが、リファレンスチェックを行うのも有効です。応募者に何名か推薦者を挙げてもらい、その人に直接ヒヤリングをするのです。まっとうで志望意欲の高い応募者であれば断る理由はないはずです。これを嫌がる応募者もいますが、隠したい人には隠したい理由があるとみなし、「足切り」の対象とします。

「質で妥協しない」という採用方針

さらには、採用方針も重要です。まずは「質で妥協しない」と固く心に誓いましょう。そもそも人手が足りないから募集をしているので、目の前にそこそこの応募者がいれば、「まあいいか」と基準を下げ、妥協をして採用したくなります。しかし、そのような場合、その人は欠員ポジションの「穴埋め」以上の存在になることはあまり期待できず、数年後には社内で適職が見つからなくなる「滞留人材」となりがちです。「欠員補充」という目先のことだけでなく、その人が将来的にも会社に貢献できる人材であるかどうか、しっかりと見極めた上で採否の判断をすべきです。

また、「応募者の職歴、学歴、資格等のスペックで取らない」ように気を付けましょう。高学歴の人や、有名企業出身の人の応募に対して経営者や採用担当者が舞い上がり、選考の目が曇ってしまいませんか?しかし、高学歴や有名企業出身者に優秀な人が多いのは事実でしょうが、その中にも一定の割合で「そうでない人」は必ず含まれます。目の前の人がどちらなのか、その人自身をフラットに見極めましょう。

「フリーライダー」発生の可能性を減らすために

未然に防ぐための「対策」は、他にもあります。例えば、職場コミュニケーションの活性化、過剰な残業の防止、産業医の活用などの「職場環境の充実」のための施策が挙げられます。また、「規程等の整備」も行うべきです。例えば、人事評価に応じ、貢献度に相応な報酬水準に変更できるように減給も可能な給与規程としたり、私傷病が原因の休職は無給とする(私傷病の場合、通常は別途健康保険から「傷病手当金」を貰えます)など、「ノーワーク・ノーペイ」の原則を徹底することにより、いわゆる「フリーライダー」発生の可能性を減らすことができます。

「現場まかせ」にはしないで積極的に介入を

そこまで対策をしても、完全に「個別労務」案件を防ぐことはできません。もし発生したら、会社は毅然と対応すべきです。「個別労務」案件は、当事者である本人の問題に限らず、周囲のモチベーションも悪影響を与え、結果として組織全体の生産性低下の要因となりますので、見過ごすわけにはいきません。

よくないのは、対応を「現場まかせ」にすることです。そもそも、現場のリーダーには「個別労務」案件に対応するために十分な知識や経験が不足している場合がほとんどですし、そのような事態に対して積極的に関わりたいという人はほぼいません。結果、「見て見ぬふり」「放置」「無関心」となり、状況を悪化させがちです。

一方、現場サイドで中途半端に不適切な対応を行った結果(「お前なんか辞めてしまえ!」といった発言は非常に危険です)、労使間のトラブル・係争となってしまうと取り返しが付きません。会社が多額のお金を支払う羽目になるリスクをしっかりと認識して下さい。

この手のトラブルに対しては、当人(個別労務対象者)にいろいろと知恵を付ける外部者もおりますので、会社はくれぐれも付け込まれるスキを作らないようにしなければいけません。弁護士や社労士といった外部専門家の助力も仰ぎながら、経営者・人事担当者もしっかりと専門知識を身につけて、現場リーダーとも連携して積極的に「個別労務」案件に介入できるような体制を日頃から準備しておくようにしましょう。適切な「個別労務」対策・対応が、いざという時に会社を救うのです。

専門家:新井 規夫(組織人事ストラテジスト)
新卒入社の大手ホテル業で給与・労務等人事の基礎を学び、急成長ベンチャー2社で管理部門全般(財務/経理/人事/総務)を担当。そこで感じた問題意識から慶應MBAに進む。在学中にCanadaのTop MBA, Richard Iveyに交換留学。2006年に楽天に入社し、人事評価・報酬制度の全面刷新(人材戦略室長)、買収した赤字通信子会社のPMI/事業再生(経営管理/人事部長)、二子玉川への本社移転PJ立ち上げ、CSR推進、Asia地域の人事統括(Singapore駐在)等を歴任。「ベンチャー・成長企業」「組織・人事・経営管理」をキーワードに、「成長の痛み」を未然に防ぎ、企業の健全な成長を加速させることを使命とし、2014年より独立し、複数企業の人事アドバイザリーとして活動中。

ノマドジャーナル編集部
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