独立したビジネスプロフェッショナルが多く活躍されている領域である人事。

複数の急成長ベンチャー企業で人事を担当、MBA取得の後に楽天に入社し、人事制度の全面刷新、子会社の事業再生、海外子会社の人事支援等の業務を歴任し、現在は複数の企業の人事ノマドとして活躍する新井規夫さんによる連載です。

第一回は、「グローバル人事」についてです。

近頃、人事を生業としている人々の間でホットなキーワードのひとつに、「グローバル人事」というものがあります。

なんとなくそれらしく聞こえますが、そもそもグローバルという単語の定義自体が非常に曖昧な事もあり、「グローバル人事」という言葉に対する定義・解釈も人により異なるように見受けられます。

そこで、分かっているようで実は分かっていない(かもしれない)、「グローバル人事の役割」について、新井さんに解説頂きます。

グローバル企業であることで追加的に発生する役割が「グローバル人事」の守備範囲

「グローバル人事の役割」とは、「グローバル企業における、グローバル企業である事に関連して発生する人事(部門)の役割」と言い換える事ができます。
通常の人事の役割・業務とは別に、その企業がグローバル企業であることで追加的に発生する役割が「グローバル人事」の守備範囲となります。

そもそも、「グローバル企業」とはどのような企業を指すのでしょうか。

「真のグローバル企業はかくあるべし!」という理想論で定義すると対象企業は絞られてしまいますが、ここでは広義で捉え、ミニマムな必要条件を想定します。

元々”global”という単語の語源が”globe”(地球)であることを勘案し、「少なくとも3ヶ国以上に事業展開しており、相互にビジネス上の影響を及ぼしている」のが、グローバル企業であると私は定義します。

単に親会社子会社の縦のやり取りだけ(それは親会社を中心とした国同士の、「インターナショナル」な関係です)でなく、例えばA国の子会社とB国の子会社が互いに影響を及ぼしあうという包括的な関係性です。

最低限必要な人事の役割と、大組織に必要となる人事の役割

一方で、グローバル人事に限定せず、人事(全体)の役割についても考えてみましょう。

人事部門が担う役割は幅広いですが、その属性を大きく区分すると、大まかに以下の4つに分けることができます。

 ① 戦略・企画
 ② コンサルティング
 ③ 管理・オペレーション
 ④ ビジネスパートナー

それぞれの役割が求められるタイミングは、企業の発展段階によって異なります。

まず、どんな小さな会社でも必ず存在する役割が、③の「管理・オペレーション」です。採用・給与計算・労務といったタスクの実行がこれに当たり、人事として果たすべき最低の役割となります。

組織の規模が大きくなると、これに①の「戦略・企画」の役割が加わります。
例えば予算に紐づけた要員計画の作成、評価制度や採用基準の導入等がこれに当たります。

さらに組織が拡大し、業務量が増えると、同じ担当者が①と③の両方をこなすことが難しくなります。
①と③で担当者や組織を明確に分けるがこの頃です。

会社がより成長し、複数の事業部や子会社を持つようになると、それぞれの事業部・会社ごとの人事担当者が③の役割を担う事になります。
そして、それぞれの組織の規模が大きくなれば、個々の組織レベルで戦略・企画と課題解決を担当する、④のビジネスパートナーの役割が必要となります。

ビジネスパートナーは各事業部・子会社において、事業の損益責任を持つ事業トップの右腕として組織・人事戦略の策定と課題解決の役割を担います。

その際に、本社サイドからビジネスパートナーを支援する役割が②のコンサルティングです。
社内外の情報・知見を集約し、採用・教育・評価などのベストプラクティスを④にノウハウとして提供するのです。

グローバル企業においては、(先ほどの定義の通り)事業部・子会社が自国内だけでなく海外にもまたがることになります。
これらの会社を支援するのが「グローバル人事の役割」となり、主に①②が該当します。

また、④についても、国外の事業部・子会社との横の連携・協力関係を活用して役割を果たしているのであれば、これも「グローバル人事」の範疇であると言えるでしょう。

「海外駐在員の世話係」ではない、グローバル人事の役割

とはいえ、現状の実態としては、このようにしっかりとグローバル人事の役割を定義付け、業務分担している企業はあまり無いのではないでしょうか。

よくありがちなパターンは、「人事本部」の中に、国内人事の各機能と並列で「グローバル人事部(的なもの)」が存在しているという組織構造です。
そしてその部署に求められる役割は単に「海外駐在員の世話係」程度であったりします。

そして、①②の担当者の役割範囲に海外の子会社(の支援)が含まれていない(業務分掌に明示されていない、実際に海外担当がアサインされず、責任体制が不明確)のです。

そのような体制では、グローバル人事の役割は十分に果たされているとは言えません
本来であれば、③④の機能・役割は本社も海外子会社も並列とし、①②の役割範囲は本社・子会社、国内・海外分け隔てなく対象とすべきです。

適切なグローバル人事機能により海外子会社と良好な関係を築く

特に上場企業では、経理関係に加えて人員数やコンプライアンス関係など、子会社に様々な情報提供の協力をしてもらう必要があります。

これらの作業は子会社にとっては自社の業績向上にメリットが無い、「やらされ仕事」に過ぎません。
親会社から一方的にタスクを押し付ける不平等な関係性は、子会社側に親会社に対する不信感、嫌悪感を募らせる原因となります。親会社側は、得てしてそのような状況に鈍感です。

そうではなく、「あの会社の子会社で良かった、親会社は私たちをいつもサポートしてくれて助かる」というメリットを感じてもらう関係性を築くことが、グローバル人事に求められる大きな役割なのです。

今回のコラムが読者の皆さまの組織における、より良い「グローバル人事」体制づくりにお役に立てることを願います。

専門家:新井 規夫(組織人事ストラテジスト)
新卒入社の大手ホテル業で給与・労務等人事の基礎を学び、急成長ベンチャー2社で管理部門全般(財務/経理/人事/総務)を担当。そこで感じた問題意識から慶應MBAに進む。在学中にCanadaのTop MBA, Richard Iveyに交換留学。2006年に楽天に入社し、人事評価・報酬制度の全面刷新(人材戦略室長)、買収した赤字通信子会社のPMI/事業再生(経営管理/人事部長)、二子玉川への本社移転PJ立ち上げ、CSR推進、Asia地域の人事統括(Singapore駐在)等を歴任。「ベンチャー・成長企業」「組織・人事・経営管理」をキーワードに、「成長の痛み」を未然に防ぎ、企業の健全な成長を加速させることを使命とし、2014年より独立し、複数企業の人事アドバイザリーとして活動中。

ノマドジャーナル編集部
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