中間管理職であるマネージャーという役職はなぜ必要なのでしょうか?マネージャーの役割とは何なのでしょうか?
実は、マネージャーの役割こそが、ベンチャー企業が成長を続け、大企業となれるか、ありふれた中小企業に終わるかの分かれ道なのです。
それでは、マネージャーの最も重要な仕事とはなんでしょうか、考えてみたことはありますか?
今回は、企業の成長に欠かせない、「マネージャーの役割」について解説します。
マネージャーがなぜ必要か?
創業したての企業は、当初は創業経営者である社長自身が会社の業務すべてについて意思決定し、部下に細かく指示を出すスタイルを採るのが一般的でしょう。
ところが業容が拡大して従業員が数十名規模に増加すると、社長自らが従業員1人ひとりを細かく観察し、直接指示を出し、進捗と結果を管理することは困難になります。そして社長への権限・責任の集中が次第に業務執行のボトルネックとなり、企業の成長を阻害するようになります。
この状況を乗り越えて会社がさらに成長するためには、組織の「パラダイムシフト」が必要になります。会社全体の効率・生産性を高めるため、これまでの社長の役割を肩代わりする「社長の分身」を何人か作って権限を委譲し、その人たちが組織を分割して管理をするのです。
そして、この「分身」が中間管理職としてのマネージャーとなります。組織の階層は、「社長と(ヒラの)従業員」の2階層から、「社長とマネージャーと(ヒラの)従業員」の3階層に増え、社長はマネージャーたち(のみ)を直接見ることになります。会社の規模がさらに大きくなれば、階層数はさらに増えていきます。
管理できる最適な部下の数は何人?「スパン・オブ・コントロール」
では、1人のマネージャーが管理できる最適な部下の数は何名なのでしょうか。
1人の管理者が管理可能な部下の数には限度があるという、「スパン・オブ・コントロール」という考え方が経営学にはあります。元々は軍隊において部隊を編成する際の概念で、(さまざま研究によれば)概ね管理可能な人数は最大でも10名程度とされているようです。
なお、豊富な世界史の知識でも有名なライフネット生命のCEOの出口治朗氏も、かつて世界最強であった中世のモンゴル帝国の部下管理の単位は「10名」であり、この階層を増やすことによって1万人の部隊を容易に統率できたという例を示されています。
また、多くの場合は、マネージャーの管理する部下とは「1つのチーム」のことですから、最も生産性の高い管理人数の最適値は、同じ目標に向かって協力をする「チーム」構成の最適値でもあるはずです。これについても、Amazon.comのジェフ・ベゾス氏が、最適なチームの規模は、食事がピザ2枚で足りる(注:アメリカのサイズです)人数であるという「2枚のピザ理論」(人数でいえば、5~8名程度でしょうか)を提唱していますので、概ねその程度が適正数と考えてよさそうです。
なお、営業チームや工場の製造要員のように、シングルタスクでメンバーの業務内容が同じである場合には比較的多めの人数でOKですが、逆にスタッフ部門等で1人ひとりの専門性や業務内容が異なる場合にはマネージャーの負担がより大きくなり、管理できる適正人数はより少なめになります。
社長のジレンマ。なぜ「組織の成長に伴う権限委譲」が困難なのか
ところが、多くの企業では、上記のような「組織の成長に伴う権限委譲」が容易に行われません。というのも、上記のような「パラダイムシフト」の必要性に社長が気付かなかったり、たとえ気付いても従来通りのやり方(社長にとっては成功体験です)を否定することを嫌い、変化に抵抗するからです。
何でも自分で決めたい社長(自分の思い通りにやりたい人がそもそも起業するのです)にとって、「権限委譲」は辛い決断です。これまで思い通りに(時には思い付きで)部下を動かしていたのに、階層が間に1枚挟まることで、そのようには行かなくなります。マネージャーに意思決定を任せること自体への不安や、これまでに経験が無い、慣れていないやり方への違和感もあるでしょう。そして、その不安感・違和感を手っ取り早く解決するために、「(社長がすべて決める)従来通りのやり方」に戻したり、表面上はマネージャーを置きながらも実際の権限は手放さなかったりということが起こりがちです。
「権限移譲」が、成長か中小企業かの分かれ道
しかし、ここで「パラダイムシフト」に踏み込めるかは、ベンチャー企業が成長を続け、大企業となれるか、ありふれた中小企業に終わるかの分かれ道となります。権限移譲を行った当初は一時的に組織が不安定な状況になるのは必然ですし、任命されたマネージャーが必要な経験を積み、社長が望む成果を出せるまでには時間も必要です。しかし、この不安定な時期(階段でいえば踊り場ですね)を通過しなければ、企業は次のステージに登ることができないのです。
このように腹を括った上で、権限移譲をする社長自身がマネージャーの役割を理解し、正確に自身が任命したマネージャーたちにそれを伝えなければいけません。それが経営者として発揮すべき社長のリーダーシップです。
定量的・短期的なものに限られない、マネージャーに求められる貢献とは
では、マネージャーに求められる役割とは何でしょうか。「結果を出す責任」という意味では、経営者とマネージャーで違いはありません。ただし異なるのは、後者の場合、会社が認めた範囲に権限と責任が限定されているという点です。マネージャーは、会社から委譲された権限と預けられたリソース(人員、予算等)を用いて、求められた成果を挙げ、会社に貢献しなければいけません。
ここで注意すべきは、会社が求め、かつマネージャーが追求すべき「貢献」とは、単に一定期間の売上や利益などの定量的・短期的なものに限らないということです。長期的な企業の発展・存続に繋がる部下の成長・育成という「貢献」が同時に求められます。預かった「人材」というリソースに対して、「成長」という利子を付けて最終的に会社に渡すのもマネージャーの大事な役割なのです。
マネージャーの最も重要な仕事とは「動機づけ」である
このような形で会社に貢献するのが「目標」であるなら、それを実現するための「手段」として、マネージャーが行うべきことは何でしょうか?
法政大学ビジネススクール(前:慶應ビジネススクール)の髙木晴夫先生は、著書の「プロフェッショナルマネージャーの仕事はたった1つ」の中で、マネージャーの仕事を「部門目標の達成」に加えて「部下への仕事の割り振り(リソース管理)」「部下の教育育成」「部下の動機付け」と位置付けました。
そして、その中でも「動機づけ」が最も重要な仕事であるとしました。というのも、目標の達成、部下の成長のいずれも本人の自発性・主体性が必要だからです。自発性・主体性が無くても、脅して仕事をさせ、短期的な数字は作れるかもしれませんが、それは再現性のない「焼畑農業」であり、「長期的な企業の発展・存続」にはむしろマイナスになります。
上司は、部下と「認識」をそろえるために、「ストーリー」を自身の言葉で伝えなければならない
さらに、部下が主体性を持つためには上司が部下に適切に情報を配り、部下に正しい「認識」を持ってもらうことが必要であるとしています。「認識」とは、「なぜその仕事を(あなたが)担当するのか」、「その仕事がどう評価されるのか」、「上司は何を考えているのか(上司の「認識」)」といった事柄です。これらの情報は部下が自身で得ることが難しいため、上司が情報を配ることで、上司と部下で「認識」を合わせなくてはいけないのです。
では上司が配る「上司の認識」とは何でしょうか?これは会社の経営理念・価値観であり、それに基づく経営戦略であり、これをブレイクダウンした部署の戦略です。
これらを達成・実現するために、それぞれの仕事や目標があるのだという、綺麗に繋がった「ストーリー」をマネージャーが自身の言葉で伝えることにより、部下は自分の仕事の意味と、それを達成した時にどんな良いこと(評価・賞賛等のフィードバック)があるのかを理解し、それが自発的・主体的に行動をするための「動機付け」となるのです。
新卒入社の大手ホテル業で給与・労務等人事の基礎を学び、急成長ベンチャー2社で管理部門全般(財務/経理/人事/総務)を担当。そこで感じた問題意識から慶應MBAに進む。在学中にCanadaのTop MBA, Richard Iveyに交換留学。2006年に楽天に入社し、人事評価・報酬制度の全面刷新(人材戦略室長)、買収した赤字通信子会社のPMI/事業再生(経営管理/人事部長)、二子玉川への本社移転PJ立ち上げ、CSR推進、Asia地域の人事統括(Singapore駐在)等を歴任。「ベンチャー・成長企業」「組織・人事・経営管理」をキーワードに、「成長の痛み」を未然に防ぎ、企業の健全な成長を加速させることを使命とし、2014年より独立し、複数企業の人事アドバイザリーとして活動中。
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