大手監査法人からベンチャーCFOを経て財務アドバイザーとして独立されている江黒氏による「経営に必要な会計講座」連載です。第2回目は経営における会計力の基本公式についてご解説いただきました。

会計について意識するべきこととは?

Q:難しいことは苦手です。会計について最低限何を意識すればよいでしょうか。

A:まずは、「会社の数字=単価×数量」ということを意識してみてください。

会計を勉強するぞ!と思った方が挫折する原因、それは「簿記」でしょう。

私自身、「借り方」、「貸し方」や「仕訳」といった用語が好きな経営者にはお会いしたことがありません。

 

そこで経営者の方は何よりもまず、

「会社の数字=単価×数量」

ということを意識してください。

売上であれば、売上高=販売単価×販売数量です。この式一つ意識するだけでも、自社の売上をみる目が変わると思います。

Q:この式は、売上以外の項目にも応用できるでしょうか?

A:この式は、売上のみならず色々な勘定科目に適用できます。

在庫であれば、在庫=在庫単価×在庫数量、

人件費であれば人件費=平均給与×従業員数、

地代家賃であれば地代家賃=坪単価×坪数、

といったように、会社の数字=数量×単価で会社の数字を分解する意識を持ってみてください。

会社の数字を分解し、次の戦略に活かす

例えば、自動車メーカーの決算書上の在庫が1億円とします。

ここで1億円をみて「当社の単価は1台100万円だから在庫台数が100台か。予算よりも販売できずに在庫が残ったな。」などと瞬時で判断ができます。

またオフィスの賃料も1坪3万円/月で、30坪借りていれば3万円×30坪=90万円となります。1坪3万円とわかることで自分が使っているスペースにいくらの賃料が発生しているのかわかるとともに、無駄なオフィススペースが無いかも検討できます。

 

このように会社の数字を分解することで、実は会社の数字がすべて積み上げでできていることが意識できるでしょう。

この式を意識することで、売上が伸びたのであれば、販売単価が上がったのか、販売数が伸びたのか、次の戦略に活かすことができます。

 

例えば100万円の商材を50人に販売した会社の売上は100万円×50人=5千万円です。

翌期において売上高を販売数量と販売単価にわけると売上が分析できるのです。

【前期】
 単価(千円)   販売量  売上高(千円)
1,000 50 50,000
 

【販売量が伸び、売り上げが伸びた成功例】

 単価(千円)   販売量  売上高(千円)  分析結果
1,000 70 70,000  販路拡大に成功。翌期は単価UPかさらなる販路拡大へ。
 

【販売量が減り、売り上げが減少した失敗例】

  単価(千円)   販売量  売上高(千円)  分析結果
1,000 30 30,000  販売量回復に向け営業強化か製品価値を上げて販売単価の上昇へ。

 

このように「販売単価×販売数量」をみることで売上分析ができるのです。

どんな大きな売上も小さな数字の積み上がりでしかない

重要なことは、ただ売上が増えた・減ったで一喜一憂するのではなく、しっかりと会計を意識して売上を分析していくことです。

1万円の売り上げでも100億円の売り上げでも、その背景は「売上高=販売単価×販売数量」です。どんなに大きな売上高であっても小さな数字が積み上がってできていることを意識しましょう。意識をすることが皆さんの会計力を上げていきます。

 

まずは全社員で会社の数字=数量×単価を意識してみましょう。目の前の事象すべてが実は決算書に反映されているとわかると面白いと思いますよ。

専門家:江黒 崇史

大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。