ハードウェアスタートアップ企業のチケイ株式会社。第一弾のプロダクトとして、スノーボードやサバイバルゲームなどのアウトドアスポーツで活用できるウェアラブルトランシーバー「BONX」を発表し、話題となっています。激しい運動をしながらでも複数のメンバーでスムーズにコミュニケーションができる「BONX」は、BtoCのみならず、BtoBの領域にも活用シーンが広がりつつあります。

BONXの反響を受けて、さらなる生産体制、組織体制の強化が急務となっているチケイ社。同社CTOの楢崎雄太さんは、エンジニア組織や人的課題の解決のため、専門家へ相談し、起きうるリスクや、他社の事例や解決策の知見を獲得しました。

今回は、チケイ社の楢崎さんが、元ランサーズCTOで現WizpraCTOでもある田邊賢司氏に人事課題について相談を行った事例について伺いました。1時間程度の専門家への相談によってどのように課題解決がなされたのでしょうか。

(本インタビューは、専門家相談サービスOpen Researchの事例インタビューです)

クラウドファンディングの成功を受け、社内体制の整備が急務に

Q:「BONX」はさまざまなメディアに取り上げられ、品薄状態が続いていると伺いました。

楢崎雄太さん(以下、楢崎):

そうですね。当初のクラウドファンディングの段階で想定以上に数字が伸び、初期ロット分がさばけてしまいまして。初めてのモノづくりということもあり、量産段階での生産体制に課題が見えてきたんです。それで一度製造をストップしました。

本当はクラウドファンディングの後に販売まで進める予定だったんですが、社内の体制を固めることが先決だと判断しました。今年の秋頃から正式に販売できるように進めているところです。

Q:BONXは大変面白いプロダクトですが、もともとの起業アイデアやそこからの事業化まではどういった経緯だったのでしょうか?

楢崎:

CEOの宮坂貴大とは、前職のボストン・コンサルティング・グループで先輩・後輩の間柄だったんです。彼はもともとスノーボードが好きなんですが、「滑っている間は仲間と会話ができない」ということに不便さを感じていて。それが起業アイデアにつながったというのが入り口ですね。

今は当たり前のようにインフラとして皆がスマホを持っている。これを使ってスノーボードなどのアウトドアスポーツのシーンで会話ができるように、ウェアラブルデバイスと組み合わせ、新しいユーザー体験そのものを生み出そうということで始動しました。2014年11月に会社を立ち上げ、2015年4月に私も参画し、年末には「BONX」が形になっていました。

Q:着想を形にするまでのスピードが速いですね。

楢崎:

そうですね。若干焦りすぎたくらいはあるかもしれませんが(笑)。

やりたいことはクリアになっていました。「技術をどうアプリに落とし込むか」ということではなく、「ニーズがあるマーケットに対してどのように技術的なアプローチをしていくか」という観点で動いていたんです。仕様の確定は早かったですし、アプリ設計の高いスキルを持ったメンバーにも恵まれました。

さらなる成長のため、専門スキルを持った人材が不可欠に

Q:事業を動かしていく上での課題はどのようなものがありましたか?

楢崎:

生産を外注に依存している体質であったため、些細な仕様の変更や修正なども含めて生産側の柔軟性が足りず、迅速な対応が難しいという課題がありました。そこで内製化することにしたのですが、そうなるとエンジニア人材の獲得や組織づくりが重要になってきました。

ハードウェアを扱う企業として、アプリ開発者だけでなく構造設計などのスキルを持った人材も不可欠です。ただ、スキルを持ち合わせている人材の絶対数が少なく、採用難易度も高い。そのため、採用のための打ち手なども含めエンジニアの組織作りについて経験者からアドバイスがほしいと思っていました。弊社はハードウェアのエンジニアを含めた話ですが、共通したものはあるはずと思い、サーキュレーションの1時間専門家相談サービスという中で、紹介いただいたランサーズを含めたベンチャーCTOとして豊富な経験をお持ちの田邊さんに相談をしました。

Q:具体的にはどのようなことを相談したいと考えていたのでしょうか?

楢崎:

例えば、私自身がエンジニアとしての高いスキルを持っているわけではないので、「どのように面接を行うべきか」といった採用ノウハウについて。

また、スタートアップではCTOといえども、多種多様な業務が降りかかってくるという悩みもありまして……。さまざまなタスクと向き合う中でどのようにバランスを取っていくべきなのか、私と同様にベンチャーでCTOという立場で活躍されている方の話を聞いてみたいと思っていました。

目の前の業務に追われ、中長期的な課題に向き合う必要があった

Q:さらなる成長フェーズでのノウハウを必要とされていたのですね。

楢崎:

はい。ハード、アプリ、品質管理などの細分化された領域に対応できる人材が必要になっていきました。「ちゃんとしたものを作り、ちゃんとしたものを売っていく」と考えた上での課題感でしたね。

Q:楢崎さんご自身は、CTOとしてどんな業務を抱えていたのでしょうか?

楢崎:

たくさんありますね……。スタートアップならではの「会社に導入するプリンターは何がいいのか」といったレベルのことから、「知的財産権をどのように取得していくのか」といったことも。先ほど申し上げた組織作りもそうですが、非常に異なるレベル感の多様な業務がパラレルに走っている感じです。

さらに、生産拠点がある中国に急きょ飛ばなければいけない、という状況もしょっちゅうでした。「自分のリソースをどこにどの程度配分するか」という判断については、業務に追われてしっかり向き合えていなかった部分がありました。本来であれば中長期的な課題に対して動くべきなのですが、目先のことに追われている現状がありました。

CTOとしての学び。「相談する価値」の再認識

Q:田邊さんとは、1時間でどのようなお話をされましたか?

楢崎:

「どうやって人材採用を進めるか」という点をご相談させていただきました。回答としては例えば「採用力を高めるためには会社の技術力や取り組みをもっと発信しなければいけない」といったアドバイスをもらいましたね。技術ブログの開設など、具体的な方法論についてもアイデアを出していただきました。

田邊さんは複数の組織に関わってきた方なので、「100人のエンジニア組織を作る際の手法」「小規模なスタートアップでの手法」「外注依存を脱却するための手法」など、幅広い知見を持っていました。会社のフェーズによって打つべき手が違うということが分かり、相談してよかったと感じましたね。

そのアドバイスをもとに新たな媒体へ出稿したり、ヘッドハンティングを活用したり、エンジニア向けイベントを開催したりといった具体的なアクションプランを決めることもできました。

Q:他に得られたものはありますか?

楢崎:

初めて外部の方に相談をできた、ということですね。今までは人に話しても仕方がない、自分で解決策を見つけるべき悩みだと思っていたんですが、外部の方も同じような課題を感じているんだな、と。いろいろな場所に顔を出して、外部の方ともっと交流しなければいけないと思うようになりました。後日、サーキュレーションさん主催のCTOイベントにも参加してみたりもしました。

事前に課題を予測する、成功体験を基に施策を打てる。専門家相談のメリット

Q:外部の人に相談してみて得るものがあるといったところに発見があったということですね。
意外と相談しても得るものがないと考えていたり、相談をするタイミングや相談の仕方がわからなかったりと、その第一歩が踏めない方も多いようです。

楢崎:

相談して得られることとして、CTOとして一つひとつのシーンでは考えて決断していく必要があるんですが、前もって課題を予測しておくことも大切なんですよね。ハードウェアを扱っていれば、ロジスティックに関わる問題も出てきます。それにぶつかってから調べ始めると大変な労力と時間がかかりますが、前もって知見を持つ人に聞いておけば効果的な対策を打てる。

また、たくさんのミッションと向き合う中でも「ゆっくり立ち止まって振り返る」ことが大切だと実感しました。先ほどの技術ブログ開設がいい例ですが、中長期的な採用強化を考えればすぐにでも着手しなければいけないことも、目先の忙しさに追われてつい後回しになってしまうんですよね。そんなときに、冷静にアドバイスをくれる外部パートナーがいることは、忙しさの中に埋没することなく、一歩立ち止まって、自分の中でも考えを整理することもできました。

「やったほうがいいのかな」とぼんやり考えていたことを、仮説のまま終わらせるのではなく実行に移す。自社内だけでは「時間」「コスト」を考えて尻込みしてしまうことも、外部の成功体験を知ることで安心して実行することができるんだと実感しました。

「BONX」はBtoBマーケットへも拡大していく

Q:今後、新たに相談したいと考えているテーマはありますか?

楢崎:

いくつかありますね。

当社も、よりアンテナを広げて技術力を尖らせていく必要があると思っています。スタートアップはイノベーションを起こさないとスケールしないので。その効率的な方法についてご相談したいですね。

実務レベルでは、メーカーに対してのバリューチェーンを作る必要もあります。そうした領域でも、外部のノウハウを得たいと感じています。

Q:専門家相談を通じて、「外部人材をより活用したい」という思いを持っていただけましたか?

楢崎:

そうですね。「何もかもを自分たちで完遂することはできない」ということに気付きました(笑)。特に人材の部分は大きくて、採用したい人材に効果的にアプローチするためには、外部の力を借りたほうが圧倒的にコストパフォーマンスに優れている。非常に有意義なアドバイスを得られました。

Q:ありがとうございます。最後に、貴社の今後の展開についてもぜひ教えてください。

楢崎:

近々、アメリカでキックスターターを開始します。正式な販売は秋頃になると思います。そのためにアプリの改善を重ね、量産時の品質担保についても手を打ってきました。ユーザーが初めて使ったときに、大きな感動を与えられるようなクオリティで提供していきます。

組織の拡大も続けていく予定です。もともと海外で勝負していきたいと思って立ち上げているので、グローバルで活躍できるチーム体制を年内には整えていきたいですね。

「BONX」はアウトドアスポーツのシーンだけでなく、製造業の現場や消防活動などにも活用できそうだということで注目されています。業務用のトランシーバーは長い間イノベーションが起きておらず、そうした現場で活躍されている方々の役に立てる可能性が高いんです。今後はBtoBのマーケットにも、積極的に進出していきたいと考えています。

 

取材・記事作成:多田 慎介

相談者:楢崎 雄太

株式会社チケイCTO
東京大学工学部システム創成学科、同大学院学際情報学府卒。
株式会社ボストン・コンサルティング・グループを経て、チケイ社Co-Founder兼CTO。
大学では立体音響、AR/MR、音声処理などの研究に従事。ボストン・コンサルティング・グループでは主に日本の大手製造業をクライアントとして、3年間にわたりR&D、SCM、販売戦略構築、中期戦略立案など多様なプロジェクトに参画。
もともとあったプロダクトへの思いと”小さな組織”への思いが強くなり、2015年よりスタートアップに飛び出す。