さまざまな領域にクラウドサービスが進出し、日常がどんどん便利になっていく一方で、BtoBの世界にはまだまだ革新が必要な分野もあります。入退社の手続きや社会保険の申請などで大量の書類が必要となる「労務」もその一つ。株式会社KUFU(クフ)は、これらの手続きをクラウド上で簡単に進めることができ、国が進める電子政府とも連携できるソフトウェア「SmartHR」を開発しました。数々のスタートアップバトルなどで優勝していることでも知られている同社のサービスは、リリースから半年で、ユーザー企業が急拡大しています。
事業の成長とともに組織拡大を続ける同社では、人事制度の構築が急務となっていました。CEOの宮田昇始さんと執行役員の高橋昌臣さんはその課題を、リクルートやリブセンス、DeNAでの経験を持つ「ベンチャー人事のプロ」石倉秀明さんに相談。就業規則の整備や評価制度の設計、さらには採用力強化につながる取り組みへとつながっていきました。
1時間の相談で得られた知見は何だったのか。高橋さんにお話を伺います。
社員数が2ケタとなり、評価制度作りに着手
Q:「SmartHR」の顧客数が増え続けているということですが、現在はどのように展開されているのでしょうか?
高橋昌臣さん(以下、高橋):
2015年11月に正式リリースし、約半年間で1,000社以上にご活用いただいています。当初は中小・ベンチャー企業をターゲットにしていたのですが、社員数50名以上の企業からも引き合いが多く、「50名から100名」「200名以上」など規模別に対応できるよう開発を進めているところです。人数が多い企業は社員の出入りも多くなり、入社・退職に伴う手続きや労務管理が煩雑になっていきます。そうした課題に対応できるサービスとして、多くの企業に興味を持っていただけています。
Q:そんな中で、今回「Open Research」を通じて外部専門家を活用したいと考えたきっかけは何だったのでしょうか?
高橋:
もともとは就業規則を作るにあたって、サーキュレーションさんにご相談したことがきっかけでした。Open Researchを通じて石倉さんをご紹介いただくことになり、当社の社員数が増えてきていることもあって、他の人事制度についてもお話を伺うことにしたんです。ちょうど社員数が2ケタに届こうとしている頃ですね。
代表の宮田を中心に友人同士が集まって創業した会社なので、評価制度についても当初は明確な決めを作っていませんでした。しかし外部からピュアに採用を行っていくとなると、優秀な人材に活躍してもらうための制度運用も重要になっていくだろうと。なので就業規則にとどまらず、幅広い分野でアドバイスをいただける方が望ましいと考えていました。
1時間の相談がきっかけとなり、役員合宿での制度設計へ
Q:石倉さんとはどのようなお話をされたのですか?
高橋:
現在の規模感や今後の展開をお話し、いろいろと質問をさせていただきながら、ディスカッションをしていくという感じでした。
「どんな評価制度を作るべきか」という悩みに対して、石倉さんの体験を踏まえ、リブセンス時代に急拡大する組織で運用していた評価制度などのエッセンスを教えていただきました。スタートアップから上場するまで、各レイヤーでの体験談や成功例を知ることができ、とても参考になりましたね。
Q:評価制度については、具体的にどういった難しさを感じていらっしゃったのでしょうか?
高橋:
「こんな人がいいよね」「こんな人に活躍してほしいよね」という経営陣の間の共通認識はあったのですが、それまでは縁故採用が中心だったこともあり、明確な言葉にできていなかったんです。外にも発信できるよう、形にしなければいけないと感じていました。
石倉さんからは評価基準を明文化するためのアドバイスをいただきました。今年のゴールデンウイーク中に役員で合宿を開き、この作業を進めることができました。
Q:今後の運用面ではどのようにつながっていきそうですか?
高橋:
当社では役員だけでなく、全社員でも半年に一度合宿を行っています。ミッションやビジョンを皆で決める場なんですが、この機会を生かして評価基準や制度を浸透させ、有機的に変化させていきたいと考えています。
報酬面でも、「こんなことができる人を評価する」と明確に示せるようになったので、分かりやすく社員のモチベーションにつなげていけるのではないかと思います。
「発信力のある人事専任担当者」採用も動き始めた
Q:ベンチャー企業は「どのタイミングで人事担当を置くべきか」が難しいと思いますが、この点についてもご相談されましたか?
高橋:
はい。石倉さんからはご自身の具体的な経験も踏まえて「なるべく早めに人事専任担当を置いたほうがいい」というアドバイスもいただきました。それを聞いて、すぐに動いたんです。誰かが兼任するのではなく、専任の人事担当を採用する予定で動いています。
Q:そうなんですね。予定としては、社員数何名の時点で人事担当を置くことになるのでしょうか?
高橋:
年内には採用する予定なので、おそらく20名未満の段階で専任の人事担当を置けると思います。
エンジニアを1人採用するにしても難しい状況なので、「外に向けて発信できる人を置くべき」というお話も伺いました。そんな人を見極められるよう、ちょうど今、選考を進めているところです。決まれば、その人事担当者が今後の採用活動に100パーセントの力を発揮できるようになるので、他メンバーのリソースを主業務に振り向けられるはずです。逆に言うと、人事の専任担当というリソースもそれだけ重要なことなのだと思いますね。
Q:採用活動そのものは、今後変わっていきそうですか?
高橋:
そうですね。引き続き縁故採用は続けていくと思いますが、より優秀な人を確保していくために幅広い手法を取っていくと思います。エンジニアはもちろんですが、クライアント企業をこまめにフォローできるようカスタマーサクセス部門も充実させていきます。提供しているサービスの特性上、「労務管理」などの専門知識が必要となるポジションもあるので、それだけ採用難易度は上がっていく可能性もありますね。
Q:石倉さんと話す前から、人事担当をこのタイミングで置くことを考えていたのでしょうか?
高橋:
「欲しいよね」という話は社内でしていたのですが、そこまで本腰を入れて考えていたわけではなく、実際に採用することは考えていませんでした。良いタイミングでアドバイスをいただけたと思います。
急拡大したベンチャー企業の「生の事例」を聞ける場
Q:人材や組織についての悩みは同業内のネットワークで相談することも多いと思うのですが、今回のようにあえてサービスを介して外部専門家に相談することには、どんな意義があるとお感じでしょうか?
高橋:
何より、考にすべき会社の人事や採用、組織づくりの現場にいた方から直接学べることが意義深いと感じました。今回は石倉さんのリブセンス時代の話が大変参考になりましたし、本では学べない情報もたくさんありました。
また、同業や友人とのつながりの中では、「よく知っているからこそズバッと指摘できない」こともあると思うんです。現在進行形の成功体験を共有することも難しい。でも外部専門家であれば、普段人から言われないようなことも指摘してもらえますし、中立な立場でアドバイスをいただけるので、ありがたいですね。
Q:他のテーマでも外部人材を活用できそうなイメージはありますか?
高橋:
例えば広報の専門家であったり、SaaS分野での知見を持っていたり……。特定の領域に特化して成功体験を持っている方の話には興味がありますね。普通はなかなか聞けない内容を短時間で聞けることがOpen Researchの魅力だと感じました。
Q:ありがとうございます。最後に、今後の貴社の展望をお聞かせいただけますでしょうか?
高橋:
今後はユーザーの声をさらに聞きながら、「労務担当者が必要な手続き」にすべて対応していけるようなサービス展開を進めていきます。労務関連の手続きには、まだまだ便利にしていける領域があります。
具体的な開発予定としては、「産休・育休に入る際の手続き」などですね。産育休についてはいくつもの書類提出が必要ということもあって、煩雑さを感じている労務担当者が多いようです。また、社会保険関連へのサポート拡充も大切だと感じています。これらの分野は行政もどんどん力を入れていくはずなので、企業側の対応スピードや対応レベルを上げることで、社会全体に貢献していきたいと思っています。
取材・記事作成:多田 慎介・畠山 和也
相談者:高橋 昌臣
株式会社KUFU執行役員。
中学時代からHTMLを独学で学び、高校時代には人気掲示板の運営を行うなどウェブに慣れ親しんで育つ。
2005年からモバイル業界に入り、2009年には株式会社MDパートナーズに取締役として参画。オフショアを使用した小〜中規模システム開発や、自社サービスの企画・設計・インフラ構築など多岐にわたる領域を担当。
2016年に株式会社KUFUに参加。