社員の健康を維持することが企業の永続的な発展につながる。そうした「健康経営」の考え方が広がっています。メンタルヘルスケアの強化を目的として、2015年からは常時50名以上を雇用する事業者にストレスチェックが義務化されました。

こうした時代のニーズに応え、株式会社iCAREでは健康経営を実践するためのサービス「carely」(ケアリー)を提供しています。「クラウドホスピタル」を掲げ、契約企業の社員が、医師や保健師といったメディカルスタッフといつでもチャットで健康に関して相談できるサービスです。

 

「carely」の展開に向け、同社では広報・PR活動の強化が急務となっていました。取締役・CMOの片岡和也さんはその課題を、約20社の顧問・社外取締役として事業戦略策定やブランドマーケティングに携わる「PRのプロフェッショナル」飯野司さんに相談。企業自らがニュースを作り、メディアへ展開していくプロセスの構築に生かしています。

 

健康経営を推進する企業のCMOが、専門家とのPR戦略のディスカッションで得られた知見について、片岡さんにお話を伺いました。

個人と企業に寄り添う「パーソナルメディカルアドバイザー」

Q:始めに、貴社のこれまでの事業展開について教えてください。

片岡和也さん(以下、片岡):

「carely」(ケアリー)というサービスを2016年3月にリリースしました。企業向けのサービスで、大きく分けて二つの機能があります。一つは、社員の健康情報をクラウドで管理できる機能です。健康診断や、昨年から義務化されたストレスチェックなど、社員の健康に関する企業内の情報は散在しがちです。これらを一括管理できるようにしました。もう一つは、従業員の方がチャットで当社のメディカルスタッフとコミュニケーションできる機能。病院に行かなくても、気軽に健康について相談できるようにしました。

 

この二つを一体化させたことで、個人ごとの健康に関する情報を集め、健康情報をもとに総合的にアドバイスができる状態を実現しています。

Q:個人・会社で、自分たちの健康管理ができる新たなプラットフォームができたということですね。

片岡:

はい。これまでにも「おくすり手帳」や「レセプト」を通じて健康情報は部分的に管理されていましたが、個人の健康情報をより一元的に集め、それを企業経営に生かし、先々の健康創出につなげていく事業ができないかと考えたんです。

 

健康診断で気になる結果が出た場合には、当社のメディカルスタッフからヒアリングを行い、改善に向けたアドバイスをします。日々の生活習慣や行動を変えることは思った以上に難しいので、身近に寄り添い、継続的にアドバイスをしていく「パーソナルメディカルアドバイザー」として存在感を発揮していきたいと思っています。

Q:ユーザーの反応はいかがでしょうか?

片岡:

チャットサービスについては、想定していた以上に高い頻度で使っていただいています。内容も多岐にわたり、「健康診断の受け方」や「結果についての相談」、「不眠の症状について」「メンタルの不安について」「肩こり・腰痛」など、さまざまなご相談が寄せられています。なかなか人には言えないような「痔の症状」といった相談もありました。

 

自分の体で少しでも気になることがあれば、気軽にチャットで専門家に相談できるという形態は、想像以上に支持されていると感じています。ユーザー数も着実に増え続けています。

メディア戦略に欠かせない「三種の神器」

Q:そうした中、どのような背景からPR専門家にご相談をいただいたのでしょうか?

片岡:

サービスの正式リリースを経て、「広報をどのように進めていくか」が課題になっていました。「健康経営に関心があり、投資が必要だ」と考える企業が増えているとはいえ、そういった企業にどのようにアプローチしていくかということについてはまだまだ苦労しています。「carely」を効率的に広報・PRしていく方法を考えたいと思い、飯野さんのお力を借りることにしました。

Q:飯野さんとはどんなお話をされましたか?

片岡:

メディアに取り上げてもらうために企業として準備しておくべきことは何か、どのような観点で情報を提供すればメディアに取り上げてもらいやすくなるか、といったノウハウを教えていただきました。

特に私たちにとって目からウロコだったのは、「PRには三種の神器が必要」ということでしたね。

Q:「三種の神器」ですか?

片岡:

はい。「ニュースレター」「ファクトブック」「PR誌」の3つです。サービスを開始したばかりということもあり、どれもまだ準備できていません。メディアの方々に注目してもらうためには、これらをそろえていくことが重要だと。

それぞれのツールを作っていくための具体的な方法論や、成功している企業の事例もあわせて伺うことができ、非常に参考になりました。

Q:特に参考になった事例はありましたか?

片岡:

とある大手飲食チェーンでの事例です。実際にメディアに取り上げてもらうために工夫している「数字の見せ方」や、「クイズに使えるような情報発信の仕方」を知りました。PRにも成功している知名度の高い企業ですが、「ああ、だからテレビでもよく見かけるんだ」と納得がいきましたね。「ニュースを作る」という観点で、具体的な手法を学べました。

 

後編に続きます。

《編集後記》

サービスの正式リリースを経て、「広報をどのように進めていくか」が課題になっていたiCAREのCMO片岡氏。「carely」を効率的に広報・PRしていく方法を考えるため、専門家に様々な具体的な事例やノウハウをOpen Researchを通して獲得されています。このように生の事例やベストプラクティスをヒアリングし、改めて自社の戦略を振り返り、整理するよい機会として専門家相談を活用いただいた事例です。

 

取材・記事作成:多田 慎介・畠山 和也

相談者:片岡 和也

株式会社iCARE 取締役・CMO。
京都大学農学研究科修了後、2004年NTT西日本に入社し、新規事業企画、採用人事、法人営業を経験。
新規事業企画では、幅広い分野のアライアンス事業をプロデュース。日本流のオープンイノベーションを目的とした、大企業とベンチャー企業の共創プラットフォーム「コトの共創ラボ」の設立や、通信会社とテレビ局の日本初コラボレーションとなる「NTT西日本×TBS TV HACK DAY」に携わる。
2012年3月、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。

専門家:飯野 司

広報プロフェッショナル
学生時代より、父が経営していた飲食業に携わる。
クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパンにて営業支援活動に従事した後、美容サービス会社を設立し、全国に21店舗を展開。
その後、REVAMPでの事業再生、新業態開発、チャネル開発、全国認知拡大支援を経て、Win-Win・Partnersを設立。
事業戦略にマッチする企業の紹介、異業種間によるリレーション構築によるチャネル開拓・企業認知拡大・Win-Winモデルの発案、実行支援に取り組んでいる。
現在は、大手やベンチャーなど約20社の顧問や社外取締役、アドバイザーを務める。