会計講座の第10回は値引きと利益確保についてです。

値引き戦略は、導入が比較的容易なことから多くの経営者が採用します。一方、マクドナルドは値引き戦略を導入して結果として不振につながりました。安さの追求ばかりだけでは競争は激化し顧客も離れてしまいます。値引き戦略を考える上で重要な論点とは何でしょうか?

値引きが利益に与えるインパクトを知る

Q:売り上げが不振なので値引きを考えていますが、問題ないでしょうか?

A:値引きをすると売上1件あたりの利益確保が相当難しくなりますよ!

売上は以下の式から生まれます。

 

売上高=販売数量×販売単価×購入回数

 

売上を伸ばすために販売単価を下げるとすると、売上高を維持するためには、その値下げした分だけ販売数量や購入回数を上げる必要があります。

競争が厳しいから値下げすれば売上が伸びるのでは、、、という気持ちはわかりますが、値下げをしたら、以前と同額の利益を確保することが相当困難になることは覚えておいてください。

Q:極端な値引きをしなければ問題ないと思うのですが。

A:例えば一杯300円の牛丼があります。原価を120円としましょう。

そうすると一杯あたりの利益は、

販売価格300円△原価120円=利益180円

 

です。

 

この牛丼を3割値下げして販売すると、

販売価格210円△売上原価120円=利益90円

 

となります。

 

そうすると一杯あたり利益は半分ですので、売上を倍増しなければ、値引前と同じ利益水準を確保することができません売価は3割引きでも利益に与えるインパクトはそれ以上なのです。

 

 値引き前  値引き後  影響  販売価格 300円  販売価格 210円  30%値引き↓  原価 120円  原価 120円  同じ  利益 180円  利益 90円  50%減益↓

このように売上の値引が与える利益への影響は大きいため、値引き戦略を採用するのであれば、売数量がどれだけ増加する見込みがあるのか、慎重に見極めてから値引き戦略をする必要があります。ソフトバンクが携帯事業に参入した時には、どれくらいのシェアを獲得すれば黒字化が見込めるのか、価格設定の際に相当なプランをシミュレーションしたといわれております。

安易な値引きはブランドを傷つける

また、安易に値引きをすることはブランドの棄損にもつながります。一時期マクドナルドは値引き戦略を多く提供したものの、本来売りたい高額セットの販売にはつながらず、全体の不振につながりました。原価の見直しを行い、利益率を上げることも有効でしょう。もちろん、それで提供する品やサービスの質が悪くなってはどんどんお客さんは離れていくことでしょう。

 

ユニクロが苦戦しながらもブランド力をつけ業績を伸ばしてきた背景には安さだけではなく高い品質を維持し、常にヒット商品を作り上げてきたからです。安さの追求ばかりだけでは競争は激化し顧客も離れてしまいます。

経営者が、自社のサービスの本質を改めて見直し、その本質を高めていくことが、結果として他社との競争に勝ち、値引き戦略に巻き込まれないことになるのではないでしょうか。

 

値引き自体は導入が容易な戦略で、多くの経営者が採りますが、値引をすることで単価あたり利益の確保が困難になることに注意をしてください。

専門家:江黒 崇史

大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。