首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長に「地方創生」について伺っていきます。

北海道最大の都市、札幌。その中心地・札幌駅の周辺はシティホテルがひしめく「ホテル激戦区」。その中で、地場資本のホテルとして地産地消を目指しているのがセンチュリーロイヤルホテル(札幌市中央区)。同ホテルを運営している札幌国際観光株式会社(同)の桶川昌幸社長は、2010(平成22)年にホテル業界の外部からやって来ました。その桶川氏に、業界の常識を知らないことを逆手に取った戦略について伺いました。

全部門で利益を出す必要はない。業界の常識にとらわれない改革を

Q:桶川社長が札幌国際観光株式会社の社長に就任されたのは、センチュリーロイヤルホテルが建て直しを図っているタイミングでした。

桶川 昌幸氏(以下、桶川):

「2007(平成19)年に民事再生法の適用を受けて、2010(平成20)年に今の親会社であるマルセンクリーニング(釧路市)が経営権を取得した年ですね。私はいわゆるホテル業界生え抜きではないのですが、マルセンとは前の会社にいたときに取引があり、その縁で社長を任されることになりました。社員はそのまま引き継いで、文字通り単身でやって来たという感じでした」

Q:違う業界からやってきて、いきなり社長ですから苦労も多かったと思うのですが。

桶川:

「以前から残っていた社員と一緒にやって来られたからこそ、今の会社があると思います。最初は、この業界独特の常識には戸惑いました。例えば、原価率ひとつとってもそうです。ホテル業界は、宿泊・飲食・宴会など、どの部門においても平均的に利益を出すのが当たり前と考えられています。ということは、飲食部門で利益を上げるために自ずと原価率は低く設定しなければなりません。「業界の常識」を知らない私からしたら、それが「何で?」となるわけです。そこで私は、それぞれの部門が平均的に利益を出すのではなく、ある部門で広告宣伝費につながる支出が多くなったとしてもほかの部門でその分の利益が上がれば良しとするトータルでの利益を出す考え方に変えました」


「業界の常識を知らないことを逆手に取った」と話す桶川社長

北海道産にこだわった朝食で賞を多数獲得

Q:それが「朝食」の改革につながるんですね。

桶川:

朝食に注力するのは今やホテル業界の常識になりましたが、朝食に北海道産の素材を出来る限り多く使うなど、地場資本ならではの戦略にシフトしたのは市内の競合他社よりも早かったですね。もともとセンチュリーロイヤルホテルは1973(昭和48)年から続いているホテルですので、レストランの”伝統の味”には自信がありましたので、その味を生かしつつも旬の新鮮な素材を多く使うことで差別化が図れたと思います」

Q:実際、朝食に注力した結果どのようになりましたか?

桶川:

「今のホテルは、口コミの力が絶大です。トリップアドバイザーやOTA(Online Travel Agent)をはじめ、宿泊されたさまざまなお客様からどれだけ良い評価をコメントしてもらえるかが集客に大きく影響しています。朝食に注力したことで、お客様が最後にホテルで受けるサービスを強烈に印象付けることができました。シティホテルの場合、多くのお客様が1泊朝食付きのプランでご宿泊されますが、最後にホテルで体験するサービスが朝食になります。北海道産の素材を使った美味しい料理がずらりと並んだ残像が、私たちのホテルの評価にそのままつながったことで、”朝食の美味しいホテル”というイメージ作りができました
※センチュリーロイヤルホテルは、宿泊WEBサービスで実施されている朝食ランキングでは全国的に見ても常に上位にランクインしている

社員が自主的にサービスを取り入れるようになってきた

Q:ホテルに良いイメージができると、従業員の姿勢にも変化がありましたか?

桶川:

従業員の意識は大きく変わりました。常に”何か取り入れられるものはないか”という意識で、商品・サービスに生かしてくれています。例えば、朝食バイキングのメニューポップですね。ここまでにぎやかなポップが並んでいるホテルは、他にはないと思います。しかし、このポップも多言語表記にするなどまだまだ改革の余地がありますので、どんなに細かいことでも徹底してやっていかないといけないなと思いますね」

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

桶川 昌幸
札幌国際観光株式会社代表取締役社長
1958(昭和33)年、札幌出身。
コンピュータシステム会社を経て、2010年8月に札幌国際観光株式会社社長に就任。
【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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