首都圏への人口・商業施設の集中からの脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、地方の企業はどのように先代からの伝統を引き継ぎながら、新たな事業展開を図っているのでしょうか?そこで、北海道札幌市に住む筆者が北海道の企業の社長に「地方創生」について伺っていきます。

北海道最大の都市、札幌。その中心地・札幌駅の周辺はシティホテルがひしめく「ホテル激戦区」。その中で、地場資本のホテルとして地産地消を目指しているのがセンチュリーロイヤルホテル(札幌市中央区)。同ホテルを運営している札幌国際観光株式会社(同)の桶川昌幸社長に前編に続き、インバウンド景気、地域への貢献について伺いました。

今のホテルの伸び率はインバウンドが要因

Q:前編でお伺いした朝食改革が軌道に乗る前は大変な時期もあったそうですね。

桶川 昌幸氏(以下、桶川):

「私が社長に就任したのが2010(平成22)年8月でした。その翌年に東日本大震災が起こり、一気に宿泊客が減りました。2か月ほどはほとんどお客さんがいませんでした。そのような中、その年の6月くらいからお客様の客足が戻ってきました。ちなみに当時のインバウンド比率は宿泊客全体の5~6%でしたが、今では25%まで伸びています。ブライダル・宴会・レストランはどのホテルも伸び悩んでいて、良くて横ばいです。今ホテル業界で伸びているのは、インバウンド効果が要因ですね」

Q:インバウンド対策として外国人従業員の雇用はどのようにしていますか?

桶川:

「私たちの場合は、留学生がアルバイトで入りそのまま社員になるというパターンが多いですね。ただ、これだけインバウンドが増えてくると、特に中国語を話せる人材の確保が難しくなってきます。業界内だけではなく、他業界、他地域との競争が発生していますので、今後良い人材を確保することは大きな課題になっていますね」

Q:人材でいうと、ホテル業界は離職率が高いという話も耳にします。

桶川:

「他業界と比較すると、ホテル業界の給与水準は良いとはいえません。給与水準のベースアップも含め、雇用条件の見直しを検討しなければいけない時期に来ていると思います」

地元の大学との連携や施設とのつながりを大切に

Q:センチュリーロイヤルホテルは北海道では珍しい地場資本のホテルですが、地域への貢献についてはどのようにお考えですか?

桶川:

ホテルの地域貢献というと、レストラン・宴会・ブライダルになるのですが、実をいうとこれが一番難しいです(苦笑)。社員がいろいろとアイディアを出してくれているので、それらを大切にしながらさまざまな施策を行っているところです。藤女子大学(札幌市北区)や札幌国際大学(札幌市清田区)、大通高校(札幌市中央区)など教育機関との連携や、北海道近代美術館(札幌市中央区)とのコラボレーションなど、ほかのホテルにはない事業が増えてきていますね。また、現在は日高・胆振地方の名産品をアピールする企画を展開していますが、札幌以外の地域との協働も積極的に行っています。夏休み期間には、中川町(稚内市と旭川市の中間地点)からクビナガリュウやアンモナイトなどの化石を持ってきてロビーに展示するなど、子どもたちが楽しめるイベントも開催しています」

Q:ホテルならではの事業を地域に還元しているんですね。

桶川:

「そうですね。また、毎年7月に障がい者支援施設へケータリングに伺っているのですが、これは当ホテルを利用してくださった縁から始まったものです。入居者が家族と会食する場として使ってくださっているのですが、ある時、体調の面から半分くらいの入居者しか外出できないという話を聞いたんです。そこで、施設から外出できない入居者の方々にもホテルのレストランの料理を味わってほしいと思い、こちらから出掛けていく形のスタイルを提案し、毎年実施しています。」


23階のスカイレストラン「ロンド」にて

函館の新ホテルにも注力

Q:最後に、これからのセンチュリーロイヤルホテルの目指す場所はどこですか?

桶川:

「施設・設備については、いくらリニューアルしたとしても新しいホテルには敵いません。しかし、居心地良い空間を追求していくことはいくらでもできると考えています。レストランの味もそうですし、日々の清掃もそうです。基本的なことをしっかりやる。そして、当ホテルの売りである朝食をさらに進化させていきたいと思います。2018年には函館に新ホテルのオープンも予定していますので、センチュリーロイヤルホテルのノウハウを函館の新しいホテルにも注力していきます」

取材・撮影/橋場了吾(株式会社アールアンドアール)

桶川 昌幸
札幌国際観光株式会社代表取締役社長
1958(昭和33)年、札幌出身。
コンピュータシステム会社を経て、2010年8月に札幌国際観光株式会社社長に就任。
【専門家】橋場 了吾
同志社大学法学部政治学科卒業後、札幌テレビ放送株式会社へ入社。
STVラジオのディレクターを経て株式会社アールアンドアールを創立、SAPPORO MUSIC NAKED(現 REAL MUSIC NAKED)を開設。
現在までに500組以上のミュージシャンにインタビューを実施。
北海道観光マスター資格保持者、ニュース・観光サイトやコンテンツマーケティングのライティングも行う。

ノマドジャーナル編集部
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