今回は、適切な損益管理、赤字の削減方法についてです。例えば、店舗展開をしているビジネスでは店舗別に損益計算をしているため赤字店舗の撤退を考えることがあるかもしれません。ただ、単純に人員削減し、赤字店舗を閉鎖したために、かえって赤字を悪化させることもあります。ぜひビジネスの実態と会計数値を結びつけ戦略に活かしてください。

店舗ビジネスでは本社の運営費用も考えて経営をする必要がある

Q:当社は飲食店を複数店舗展開しております。残念ながら赤字の店舗がいくつかあったため、赤字店舗を閉鎖し人員も削減したのですが、さらに赤字が増えました。なぜ赤字が増えたのでしょうか?

A:単純にコストを削減しただけで赤字がなくなるわけではありません。本社経費の負担や仕入のコスト、店舗運営コストなどを考えないといけません。

 

店舗展開をしているビジネスでは店舗別に損益計算をしているため赤字店舗の撤退を考えることがあるでしょう。

ただ、赤字の店舗を閉鎖すれば問題がなくなるか、というとそうでもなく、これまで黒字だった各店舗の損益が悪化することがあるのです。なぜなら、店舗ビジネスでは各店舗の直接費用だけではなく、本社の運営費用も考えて経営をする必要があるからです。

 

赤字の店舗を閉鎖すると、残った店舗で本社の運営コストを負担することとなります。そのためこれまで多くの店舗で負担していた本社コストを、店舗閉鎖により残った店舗で負担するため、各店舗で負担する本社運営コストが増え、損益が悪化しやすくなります。

 

【間違った店舗損益の考え方】

店舗売上-店舗費用=店舗損益

 

【正しい店舗損益の考え方】

店舗売上-店舗費用-本社コスト負担分=店舗損益

 

また店舗費用について店長さん・店員さんがいろいろな店舗で働いていることもあり、各店舗での正確な人件費を集計するのが困難な時があります。原材料も本社一括で仕入れていたりする場合と臨時で各店舗が発注する場合が混在するケースなどは各店舗の本当の費用がわかりづらいことがあります。在庫を保管している倉庫料や物流費についても各店舗に正確に按分するのは難しいのですが、できるだけ実態に応じた按分が求められます。経営者の皆さんは店舗実態に応じた費用を認識することを強く意識して、本当の店舗損益を見誤らないようにしましょう。

 

次に、店舗が減ったため食材の仕入れ量が減ると仕入れ単価が上昇することがあります。飲食業界では原材料費の変動が店舗損益に大きな影響を与えますので仕入れ単価について十分留意してください。

店舗を閉鎖する前に考えるべきこと

Q:人件費と原材料費を把握していれば店舗を閉鎖しても問題ありませんか?

A:人員削減により各店舗の運営が少ない人数となり、店舗の運営が混乱してお客様が減って売上そのものが減ってしまったり、各店舗間でスタッフの融通などをすることにより運営コストが増えたり、赤字が増える傾向があります。

 

店舗の閉鎖や人員削減をする時は今の損益が正しい実態を表しているのか、リストラ後は経営にどのような影響が出るのか、しっかりと検討するようにしてください。

Q:飲食業以外ではどうでしょうか。

A:例えば、アパレルのように、男性服、女性服、子供服など複数の事業を展開している事業も、どの事業が利益をあげているのか、損失なのか適正な損益管理をすることが必要です。

 

ジュエリーショップでも、ハイエンド商材とローエンド商材でどちらが本当に利益を上げているのか広告宣伝費、入店への動機など顧客動向から考察する必要があります。

ぜひビジネスの実態と会計数値を結びつけ戦略に活かしてください。

専門家:江黒 崇史

大学卒業後、公認会計士として大手監査法人において製造業、小売業、IT企業を中心に多くの会計監査に従事。
2005年にハードウェアベンチャー企業の最高財務責任者(CFO)として、資本政策、株式公開業務、決算業務、人事業務に従事するとともに、株式上場業務を担当。
2005年より中堅監査法人に参画し、情報・通信企業、不動産業、製造業、サービス業の会計監査に従事。またM&Aにおける買収調査や企業価値評価業務、TOBやMBOの助言業務も多く担当。
2014年7月より独立し江黒公認会計士事務所を設立。
会計コンサル、経営コンサル、IPOコンサル、M&Aアドバイザリー業務の遂行に努める。