日常の買い物はスマートフォンで決済し、クレジットカードやキャッシュカードの情報をアプリに取り込んで家計簿管理を行う。投資アプリやツールを用いて利益を得る。そんな「フィンテック」(金融「Finance」と技術「Technology」を組み合わせた造語)に支えられ、ほとんど現金のやり取りをすることなく暮らす人が増えている。「フィンテック」は昨今メディアでも盛んに取り上げられ、バズワードにもなりつつある。

 

将来のトレンドを探るための先進的な消費者グループ「トライブ」のリサーチを行う株式会社SEEDATAは、今後フィンテックの利用が拡大し、より高度に電子化していくと考えられる消費社会をリサーチしたトライブ「フィンテッカー」を発表した。

 

調査対象としたのは、投資や資産、家計に関わるフィンテックを活用している一般消費者。その中でも特に利用者の多い領域である「支出管理」に注目し、詳細なインタビューを行っている。フィンテックは、これからの消費活動をどのように変えていくのだろうか。リサーチを担当したSEEDATAのCEO・宮井弘之さんに、その実像と調査結果についての考察を伺った。

「フィンテック」は未来のライフスタイルを変えるか

Q:今回「フィンテッカー」をリサーチしようと考えたきっかけを教えてください。

宮井弘之さん(以下、宮井):

「フィンテック」そのものは幅広い概念で、何をもってフィンテックというのか、その定義が曖昧だと感じていました。家計簿代わりにアプリを使う主婦もいれば、税務サービスなどを使うプロフェッショナルもいるわけです。

 

特に前者のような一般消費者について、「生活者の先進的な行動」という側面からリサーチすることで、フィンテックが未来のライフスタイルをどのように変えていくのか洞察できるのではないかと考えました。

Q:具体的にはどのような対象にリサーチを行っているのでしょうか?

宮井:

「マネーフォワード」や「kakeibon」、「マネールック」、「Zaim」といった家計簿管理アプリを使っているユーザーを念頭に置きました。その中でも利用年数によって「ベテランユーザー」と「ビギナーユーザー」に分けています。さらに比較対象として、アプリではなく「紙の家計簿など他の管理手段を持っているユーザー」や、「ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談しているユーザー」についてもリサーチしています。

家計簿アプリによって、衝動買いが消滅する?

Q:リサーチを通して、どのような発見がありましたか?

宮井:

家計簿アプリを使い始めたきっかけは、「定期収入がなくなった」「住宅ローンを組んだ」「子どもが生まれた」などさまざまでした。ただ、今回は20代・30代にも多くインタビューしたのですが、その世代ですでに老後対策への意識が拡大していることを感じましたね。一方で定年を目前に控えた世代でも、「不労所得を増やしたい」という意図から小口投資を始め、その過程でフィンテックを活用し始めたという声がありました。

 

社会保障制度への不安を感じている人は多いでしょうし、老後のための資金準備が長期化し続けることを考えれば、フィンテックの活用がより進んでいくのではないかと思います。

Q:特に驚きを感じたリサーチ結果は何でしたか?

宮井:

個人的には、「衝動買いが消滅するのではないか」というメガトレンドを感じました。

 

賢く家計簿アプリを使っていけば、「自分がどれだけ無駄遣いをしているのか」が次々と可視化されていきます。すると一つひとつの消費に理由を求めるようになる。物やサービスを購入する際に、消費者はどんどん合理性を追求するようになっていくのです。

 

こういった消費者は「衝動買い」という行為にかなりネガティブな印象を持っていました。家計簿アプリをチェックし、過去の消費行動を振り返りながら、本当に必要なものだけにお金を使うようになる。今後、フィンテックを利用する消費者が増えていけば、衝動買いはどんどん減っていくのではないかと感じています。

家計簿を押さえることで、ファイナンシャル・プランニングの入り口に

Q:貴社では、トライブのリサーチ結果が生かせるビジネス分野を「機会領域」として提案されています。「フィンテッカー」にまつわる機会領域の中で、特に可能性を感じる事業や領域があれば教えてください。

宮井:

基本的に消費者は、家計や資産の「現状把握をしたい」という動機から家計簿アプリを使い始めます。その後、現状の課題を発見することで、「無駄遣いを減らそう」「資産を増やそう」という考えになっていきます。

 

ということは、今後は消費者の「家計簿」を押さえることで、その家族の「投資・資産管理」をコンサルティングする入り口にできるのではないでしょうか。日々の家計簿サービスを通じて、全体的なファイナンシャル・プランニングにつなげていく。そんなビジネスの流れが起きる可能性が高いと思います。銀行や証券会社、保険会社などのリテール部門の人に、ぜひチャレンジしていただきたい機会領域ですね。

 

他には、「衝動買いの消滅」に伴う新しい消費の形態も想定しています。

 

取材・記事作成:多田 慎介・畠山 和也

専門家:宮井 弘之

CEO(Chief Executive Officer)としてSEEDATAの全体構想・統括、
ならびに生活者調査技術開発、ビジネスモデル開発を担当。
慶応大学商学部卒業後、2002年博報堂入社。経営学博士(筑波大学)。
情報システム部門を経て、博報堂ブランドイノベーションデザイン局へ参画。
新商品・新サービス・新事業の開発支援に従事。
流通、ヘアケア、食品、飲料、ホテル、行政、教育、電力など幅広い業界の
リーディングカンパニーと300を超えるプロジェクトを経験。
得意分野は、消費者調査(定性・定量)、成長戦略立案、ファシリテーション、
コミュニティデザイン、イノベーション共創支援。
研究の専門分野は消費者行動。経営学博士(筑波大学)。
【著書】
だから最強チームは「キャンプ」を使う。
──「創造性」と「働きがい」を生み出すビジネス合宿術──(2010)共著、インプレス
書くスキルUP すぐできる! 企画書の書き方・つくり方 相手を動かす企画書をつくる6つのステップ(2013)単著、日本能率協会マネジメントセンター
2回以上、起業して成功している人たちのセオリー(2013)単著、アスキー・メディアワークス