歯止めがきかない少子化の中で、子育てに関わる市場はどのように変化していくのか―。かつてステレオタイプに語られていた「教育ママ」の実像は今、驚くべき形で進化を遂げつつあります。0歳児からの英才教育はもとより、中には子どもが胎内にいるときから動き出しているという人も。

将来のトレンドにつながる先進的な消費者グループ「トライブ」のリサーチを行う株式会社SEEDATA は、こうした子どもの早期教育に取り組む母親を「早育ママ」と名付け、未来の市場動向に向けたレポートを発表しました。

子育て領域におけるトレンドは今後、どのように変化していくのでしょうか。リサーチを担当したSEEDATAのチーフアナリスト・林直也さんにお話を伺いました。

ママが抱く早期教育への「強い関心」と「悩み」

Q:「早育ママ」というトレンドをリサーチしようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。

林直也さん(以下、林):

当社CEOの宮井弘之が今まさに子育ての真っ只中にあり、「早期教育に関する動きが面白いよ」という話が社内で交わされていたんです。私自身は英語ができることもあって、1歳の子どもがいる友人夫婦から幼児英語教育について相談された経験がありました。

世の中では、プロゴルファー・横峯さくらさんの父親である横峯吉文さんが展開する「ヨコミネ式」が注目を集めています。その教育法を取り入れている幼稚園では、子どもたち皆が「バク転」ができるようになるという話で。そうした興味深い事例も出てきている状況なので、ぜひリサーチしたいと考えました。

Q:実際のリサーチはどのように進めていったのですか?

林:

早期教育に取り組んでいる6人のママに対面インタビューを行いました。よく「ママ友」と言われますが、実はママ同士の関係性を作るのは、簡単ではないようですね。インタビューにご協力いただいた方々も早期教育に強い興味を持っていましたが、「情報がなかなか出回っていない」という悩みを持っていました。

0歳や1歳の子どもに、勉強や運動をどうやって教えていくのか。そうした知識は、なかなか教わる機会がないのが実情です。仮に保育園や幼稚園でママ友ができたとしても、早期教育の観点ではライバル関係。「ウチの子はこうしているよ」というノウハウも、お互いに聞きづらいのではないかと思います。

「日経新聞の読み聞かせ」を実践しているママも

Q:インタビュー結果で、林さんが特に興味深いと感じた点を教えてください。

林:

なぜ早期教育に取り組むのか。その動機が明確な方はユニークな教育方針を掲げていて、興味深いと感じました。例えば「将来は世界でバリバリ活躍する優秀なビジネスパーソンになってほしい」と思っているママの場合は、毎日子どもに日経新聞や経済誌の読み聞かせをしていました。

Q:「日経新聞の読み聞かせ」とは、かなり尖った取り組みですね……。

林:

そうですね。他には、「創造性やクリエイティビティを小さな頃から育てたい」と考えている方もいました。このママの場合は、完成品のおもちゃを与えず、段ボールやレゴブロックで遊ばせるということを徹底していましたね。ランダムに置かれた未完成のおもちゃから、「どうやって遊ぶか」を考えさせることが狙いです。将来は、建築家になってほしいと考えているそうです。

Q:早期教育に取り組むママは、子どもの将来に対する考え方が明確なのですね。

林:

いえ、必ずしもそうとは言えません。「○○になってほしい」といったように子どもの将来に対するビジョンが明確な方も、そうでない方もいました。リサーチを進めていく中で、大きく2つの傾向があると感じています。

1つは、「ママ自身が自分の生い立ちを肯定」しているパターン。勉強やスポーツ、芸術分野などで自分ができたことを、子どもにもできるようになってほしいという考え方ですね。もう一つは「ママ自身が自分の生い立ちを否定」しているパターンです。自分が苦労したからこそ子どもには頑張ってほしい。そんな思いで早期教育に取り組んでいる方もいました。

「尖ったママ」の活動が早期教育市場を活性化させる

Q:早期教育にはそれなりにコストもかかると思いますが、このあたりはいかがでしたか?

林:

実際のところ、早期教育にはかなりお金を使っている様子でした。通常の幼稚園に加えてフリースクールに通わせたり、タブレットなどを活用して継続的に教材を入手していたりと、やはりコストはかかっているようです。

中には、「教育費を巡って夫とケンカになってしまった」というママもいました。早期教育に対して夫婦間で意見の食い違うというケースも多いのではないでしょうか。これはあくまでもリサーチ対象者から感じたことですが、「教育熱心なママと、子どもに自由を与えたいパパ」という構図もあるように思いました。

Q:今後、早期教育に関わる市場はどのように変化していくのでしょうか?

林:

少子化が続く中で、子ども一人あたりにかける教育費は伸びでいくのではないかと思います。特に英語教育を重視する親が多いですね。「ネイティブスピーカーの発音に触れるのは0〜1歳が最適」とも言われているので、早期教育と相性の良い領域なのだと思います。

生まれる前から早期教育に取り組む方も出てきています。胎教として音楽を聞かせたり、上の子どもに話しかけさせたり。その効果が明確になっているわけではありませんが、「何かを始めなければ不安」と感じる方がそうした取り組みを始めているようです。

早期教育に対する意識が高い「尖ったママ」が増えていけば、それに引きずられて「何かやらなきゃ」と思うママも増えていくでしょうね。

Q:SEEDATAのトライブレポートでは、将来的な市場の可能性を探る「機会領域」も提示されています。林さんは今後、どのような領域にビジネスチャンスが広がっていくとお考えですか?

林:

先ほどお話したように、 「ママ友を作る」ことは簡単ではないという事情もあるので、先輩ママと後輩ママを「メンター/メンティー」としてつなぐようなコミュニティやウェブサービスに需要があると思います。うまくサービス化できれば、幼稚園や保育園などで活用することもできそうです。

一方で、早期教育には科学的・定量的な根拠が示されていない部分も多々あります。アカデミックな分野での研究や、実証された情報を発信していく動きが今後は求められていきそうです。

早期教育への不安を取り除き、ママ同士の関係性にフォーカスする。そうしたサービスが求められていると感じました。

(編集部より)

同社ではサーキュレーションの「Open Research」サービスと連携し、アナリストによるレポートの解説やミニセミナーの提供を開始しています。企業の経営企画部や新規事業担当者の方々に対して、新規事業アイデアを生み出す機会を提供します。興味を持った方は、ぜひお問い合わせください。

専門家:林直也氏
株式会社SEEDATA アナリスト。
同志社大学商学部卒。マーケティング、サービスデザインを学ぶ。
2015年よりアナリストとしてSEEDATAに参画。
主にトライブ調査やレポート作成などの業務に従事。

ノマドジャーナル編集部
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。