QOL(Quality of Life)という言葉が広く一般化し、企業経営においても従業員の健康に対する配慮が強く求められる時代。ヘルスケア市場は堅調に拡大を続け、従来のサプリメントに加えて、1食分の栄養価をすべて補える「完全栄養食品」への需要も高まっている。

将来のトレンドにつながる先進的な消費者グループ「トライブ」のリサーチを行う株式会社SEEDATAは、成長を続けるヘルスケア市場を占うべく、健康・美容の分野で最先端のアイテムを取り入れて生活する消費者群を分析。「ドクターシューマー」と名付け、レポートを発表した。

ヘルスケア領域における消費活動は今後、どのように変化していくのだろうか。リサーチを担当したSEEDATAのチーフアナリスト・小尻恭平さんからお話を伺った。

きっかけは、「ソイレント」。国内でも注目が高まる完全食

Q:はじめに、「ドクターシューマー」をリサーチしようと考えたきっかけを教えてください。

小尻恭平さん(以下、小尻):

アメリカで販売されている「ソイレント」という完全栄養飲料に注目したのがきっかけです。粉末を水に溶かして飲み、必要な栄養素1食分を摂取できるとされています。「30日間これだけを飲んで過ごしたらどうなるのか」というテーマのドキュメンタリー映像が公開されているのですが、実験台となった男性は結果的に、健康診断で何の異常も見られなかったそうです。

国内でも「COMP」(コンプ)という完全食が登場し、注目を集めています。これらのトレンドが将来的にヘルスケア市場を変える可能性もあるのではないかと考え、リサーチを開始しました。

Q:単に「健康に気を遣っている」という人だけを対象にしたリサーチではないということですね。

小尻:

はい。完全栄養飲料や完全食を実際に活用している人、もしくは今後活用する意向のある健康意欲の高い消費者を対象にして、インタビューを進めていきました。

「多忙族」と「健康オタク」、それぞれの完全食を活用する動機

Q:完全栄養飲料や完全食を活用している人には、どのような特徴があるのでしょうか?

小尻:

リサーチ結果から、2つのユニークな消費者の傾向が見えてきました。

1つは私たちが「多忙族」と名付けた消費者群。このカテゴリーに分類した人は、完全栄養飲料や完全食に頼っている動機が「時間」であるという点で共通していました。夕食に何を食べようかと考える時間や、食材を購入する時間を節約したいと考える人たちです。食事に割かなければいけない時間を少しでも削って、仕事に振り向けたいという理由ですね。

Q:食事そのものに関心がないということですか?

小尻:

いえ、必ずしもそうとは言えません。多忙族の人たちも、「食べる喜び」は感じているんです。忙しい朝と夜は完全栄養飲料などで済ませるものの、仕事の合間に時間が取れるランチタイムには奮発しておいしいものを食べる、といった回答もありました。朝と夜の食事は摂らざるを得ない「義務食」、昼のそれは楽しむための「娯楽食」として切り分けているという印象ですね。

Q:時間を優先して、完全に割り切っているのですね。もう1つの傾向はどういった内容でしょうか?

小尻:

自身の体を第一に考える「健康オタク」です。健康にプラスになることを追求し、生活の中に積極的に取り入れていく人たちですね。完全栄養飲料や完全食のことを「確実に栄養素を摂取できる食品」ととらえていました。

完全栄養飲料などはあくまでも健康のための「ベース」。これに加えて別のサプリなども活用し、自身が必要だと思う栄養素を摂取するんです。追加で購入するサプリについては、特定の栄養素に特化したものを求める傾向があると感じました。

広がるビジネスチャンス。アスリートのメンタルケアにも

Q:健康を守ることに対して、非常に高いモチベーションを持っているのですね。

小尻:

そうですね。従来のヘルスケア領域では、○○を摂らないと体に悪影響が出るといった「課題発見型」のメッセージが主だったと思います。それに対して健康オタクに当てはまる人たちは、いわば「美点発見型」。体の悪いところを探すのではなく良いところを探して、数値などを見て確認し、満足感を得ているようです。DNA検査を受けて自分の体を把握しているという人もいました。

こうした方々には、専門家のレコメンドを求める傾向もあります。ネットだけでは得られない情報を求めて、ヘルスケア関連アイテムを扱うリアル店舗へも頻繁に訪れています。

Q:貴社では、こうした消費特性を事業展開に生かせそうな業界や業種を「機会領域」として紹介していますね。小尻さんが特に注目している領域は何ですか?

小尻:

私が可能性を感じているのはスポーツ業界です。トップレベルのアスリートは心身ともに充実した状態を作って本番に臨みますよね。一方、減量などの理由で、食事を制限しなければならないときもあります。この際にアスリートは「体に必要な栄養素が不足していたらどうしよう」と考え、不安を感じてしまうことをあるようです。完全栄養飲料や完全食は、そうしたアスリートのメンタルケアにも役立つのではないでしょうか。

飲食業界では新たな「お1人さま食事」がトレンドになるかもしれません。多忙族にとっては、時間をかけずに必要な栄養を摂れることが大切。手早く、健康的なメニューを提供できる飲食店に可能性を感じます。「健康系ファストフード」のような分野が、今後は増えていくのかもしれませんね。

《編集部より》

同社ではサーキュレーションの「Open Research」サービスと連携し、アナリストによるレポートの解説やミニセミナーの提供を開始しています。企業の経営企画部や新規事業担当者の方々に対して、新規事業アイデアを生み出す機会を提供します。興味を持った方は、ぜひお問い合わせください。

取材・記事作成:多田 慎介

専門家:小尻 恭平氏 
株式会社SEEDATAチーフアナリスト。
早稲田大学商学部卒。現代広告研究の研究室にて、マーケティング・コミュニケーション戦略を学び、大学生を対象にした大手出版社、自動車メーカーのプロモーション戦略に従事。
2015年よりアナリストとしてSEEDATAに参画。現在はチーフアナリストとしてトライブ調査、レポート作成及び経営企画の業務に従事。
ノマドジャーナル編集部
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