プロ野球選手のセカンドキャリア、ビジネスマンの転職とは一味違う、非常に大きなキャリアチェンジです。今回は、元横浜ベイスターズからビジネスの世界へ転身された高森氏のお話を伺いました。プロ野球選手のセカンドキャリア、ビジネスマンの転職とは一味違う、非常に大きなキャリアチェンジです。

後編では、現在やられているお仕事の一つ、経営者向けコーチングについて、そして独立に迷っている方々へ、「自分の根源的な喜びを知る」ということについてお話しいただきました。

自分のスタンスを言葉に出して、言い切る。

Q:「人をサポートしていきたい、応援していきたい」この働く目的に気づいたきっかけは何だったのでしょうか?

高森 勇旗 氏(以下、高森):

「すごい会議」の講師として、経営者向けのコーチングを始めてからですね。いろいろな人との出会いの中で磨かれながら考え、気づきました。

Q:コーチングは、経営の実行支援というかたちの応援ですが、ライターとしての書くお仕事も、ある意味、記事として取り上げた野球選手へのエールというか、応援に繋がりますね。

高森:

そうなんです。僕は、その人の人生を輝かせることにワクワクします。ワクワクが僕を動かすんです。そして、その人にもワクワクしてもらうのが、僕の喜びです。目の前にいる人を応援する、という文脈ですね。だから、自分が誰なのかというのと、すべての人間の志を応援する応援団長。I am supporter.です。僕は、そういう文脈で生きてるんです。だから、ゴシップは書かないし、その選手の価値を下げるようなことやテーマは、絶対に書かない。

Q:そのような自分のスタンスを口に出すということは、大事なことかもしれませんね。

高森:

ああ。それ、すごく大事ですね。コーチングの考え方にもありますが、結局、行動が変わらないと何も変わらないんです。すると、本を読んで「大変勉強になりました」という言葉自体には何の価値もない。でも、「大変勉強になったので、私はこれやります」という行動には価値がありますね。

僕が「ポルシェに乗りたいんです」と、ひたすら言い続けていたら、ポルシェに興味を持っている人は「お前、車の良さわかってるな」みたいな話になるじゃないですか。ちょっとポルシェ仲間集めようぜという行動を起こして、そこにポルシェ仲間が集まって、そこにポルシェディーラーが来て、みたいな。で、試乗してみたら本当に欲しくなっちゃって。これいくらするの?1600万円?たかっ!みたいな。すると意識が「1600万円なんてどうしたら稼げるのかな」という方向に変わりますよね。そこから人生が変わり始める。人生ってちょっとずつ変わることはないんですよ。自分が口に出して動いた瞬間に変わるものだと思います。

もっと言うと、プロ野球選手になりたいって言う人はたくさんいるわけですよ。でも、「なる」と、決めている人は少ないわけです。おもしろいのが、プロ野球選手に「プロ野球選手になりたいと思ってました?」って聞くと、「いや、なれると思っていたから」と、みんな答えるんです。「なりたい」じゃないんですよ。「なる」「なれる」と思っていたって、ほぼみんなが答えます。たまに、野球教室に呼ばれて行くことがあるんですけど、「野球選手になりたい人―!」って聞くと、ばーっとみんな手を挙げるんですよ。「よし、お前たちみんななれないからな」って言ってやります(笑)。

Q:なるほど(笑)。

高森:

質問をちょっと変えて、「じゃあ、プロ野球選手になる人―!」って聞き直すと、「え?」って不穏な空気が流れるわけですよ。みんな戸惑います。「俺は、絶対プロ野球選手になるって決めているひとー!」と、更に聞くと、もう手を上げられないですね。それを宣言すると、コミットメントが生まれるから。本気であれば、言ってしまえばいいんです。そして、その言葉を尊重して生きていけばいいですね。なれたか、なれなかったかは結果だから大きな問題ではない。言ってしまえばいいんです。僕は、世界で最高のビジネスマンになります、とかね。

Q:ところで、このお名刺の裏にある「心が体を動かす。」という言葉は、なぜここに入れたのでしょうか?

高森:

これは、プロ野球選手の時に、僕のトレーニングコーチが、ひたすら言っていた言葉です。僕は、どうしてプロ野球選手になれたんだと言われたくらい、とにかく身体能力が低かった。そのトレーニングコーチが、僕をひたすらトレーニングさせたわけです。本当に嫌でした。結果、この人のおかげで僕はプロ野球選手っぽくなったんですけど、「なんなんだ、この人は。俺をここまでトレーニングさせるフォースは何なんだ?」って、ずっと思いながらやっていました。

Q:なるほど(笑)。

高森:

3ヶ月くらいひたすらトレーニングさせられて、トレーニング中に何度もコーチに「高森、何が体を動かすんだ?」と、聞かれて「心です!」と、答えるわけです。「うざいな!」って心の中で叫びながら(笑)。

ある日、コーチに聞かれたんです。「高森、コーチの仕事とは、何をすることか、わかるか?」と。わかりません、と答えると、「コーチの仕事とは、同じことを言い続けることだ。」と、言われました。同じことを毎日言い続けることが、コーチの仕事だと。

今、自分もビジネス「コーチ」という仕事をしていて、今更ながら、その言葉の価値に感動しています。気づけば、実際に、僕も同じことを毎回毎回、その会社で言っているわけです。言葉が世界を変えます、と。問題があった時には、どうやったら対処ができるかを考えて、そこに対して事実のデータを集めて、解決策を提案して、コミットメントして、やる。行動を起こすと、何かが生まれます。うまくいくことと、いかないことがあります。うまくいかないことは、どうやったらうまくいくのかをまた考えて、行動を起こします、と。僕はね、これを2万回くらい言い続けているはずなんです。不思議なもので、言い続けていると、いつか相手の脳にアクセスするんです。僕が、プロ野球選手だった時、そうだったように。

Q:心を決めたら体がついて行って、結果、実現する。プロ野球選手として、先にそれを体感されていらっしゃったのですね。

高森:

そうですね。だから、もし、自分が誰よりも美しい所作を身につけ、美しい言葉を遣い、美しい服を着て、美しい空間で時間を使うという在り方を決めたら、Doはそっちに行きますね。例えば、ちょっと打ち合わせしましょうという時に、近くのカフェに行かないわけです。ペニンシュラ行きましょう。リッツカールトンでお茶しましょう、となるわけです。なぜならBeが決まっているから。そのBeにふさわしい場所を決めると、結果Doが変わるわけですよ。「心が体を動かす」というのは、Beが Doを決めていくということなのです。

例えば、今、独立しようか、今の会社に残ろうか迷っている人がいるとしたら。

Q:そんな30代ビジネスパーソンがいるとしたら、今の考えから、何をアドバイスしますか。

高森:

コーチングのポイントとして、アセスメントをして、チャレンジをして、サポートをするという手順がある。まず、アセスメントが非常にポイントだと思うんです。現状を測定するということですね。

「独立したいけど迷っている」。迷うという行為が起きているということは、今の場所に、何か「得」が発生しているわけです。定期的な給与もらうことによって安心が手に入るとか、今のポジションは居心地が良いとか、ある程度の承認がもらえて満足している、とか。今そこにいることによる「得」が色々あるはずなんです。

とはいえ、迷うということは逆側にも「得」があるはずです。独立すれば、もっと稼ぐことができるかもしれないとか、もっと自分のやりたいことを表現できるかもしれない、とか。

だから、どちらを手に入れたいか、その「得」のイメージから決めればいいですね。でも、独立を取ると「不安」が生まれたりもするじゃないですか。稼げるのか心配だ、とか初期投資がかかるけど大丈夫かな、とか。いろいろありますよね。ま、初期投資がかかるのは事実なんですけど、将来的に不安があるというのは「まだ起きていないこと」ですよね。まだ起きていない妄想に惑わされ、そこに自分がどれだけエネルギーを割いているのかということに気づくと、いろいろアホらしく見えてくるんですよね。何故、まだ起きていないことにリソースを割いているのか。大事な心のリソースを、と。

起きたことだけにフォーカスしていけばいいです。独立してみたらいいじゃないですか。うまくいかなければ会社員に戻ればいいじゃないですか。ただ、それだけの話なんです。「すでに手に入れている自分の立場」これが事実じゃないという立場に立つ。全部解釈ですよね。部長職というものが仮にあったとします。今、自分が手に入れている自分の立場が、部長。でもこれ、その会社が相対的に部長と決めただけですから。

そういう小さな解釈でしかない立場を捨てて、自分が自分の人生をより豊かにする。自分の力で。豊かさの基準はもちろん人により様々です。経済力という人もいれば、家族との時間という人もいるでしょうし。まぁ、僕からは、「それ全部手に入れませんか?」というのが提案ですよね。どっちかが手に入れば、どっちかが手に入らない、という買い物なんてないです。全部手に入れればいいじゃないですか。

Q:そのためにはまず、自分自身をしっかり知ることが大事ということですね。

高森:

そうですね。自分を知るというのは、自分の根源的な喜びを知るということじゃないですかね。自分の心が、何に一番興味があって、何に一番震えるのか。

うまくいかないことなんてないんですよ。それは自分の解釈だから。ただ、はっきりしていることは、自分の感情は事実、ということですね。だから、僕の場合、「どうしたらもっとワクワクできるか」なんて考えちゃうわけですね。それを満たしながら、「この喜びに人をどうやって巻き込んでいくか」とか考えるわけです。まあ、何を言いたいかというと、とにかく今、人生が充実しているってことです(笑)。

Q:ありがとうございました(笑)。

取材・記事作成:伊藤 梓

写真:加藤 静

高森 勇旗
富山県出身。
中京高校卒業後、2006年、横浜ベイスターズ(現DeNA)よりドラフト4位指名を受け入団。
プロ野球史上最年少サイクル安打達成、2軍では最多安打、ビッグホープ賞、技能賞を獲得。2012年、24歳で引退。
引退後は、ライター、データアナリスト、イベントプランナー、大学講師など、様々な分野で活動。
特に、スポーツライターとしての活躍は目覚ましく、執筆したインターネット記事が1200万PVを記録。各媒体からの執筆依頼は絶えることなく、現在もライター業を継続。2014年11月、すごい会議に参画。自身の経験から、目標を達成するモチベーションのあり方や、チームとして前進する価値を世の中に浸透させるべく、コンサルタントとして多くの企業経営者をサポート。
ノマドジャーナル編集部
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