ヤマロク醤油五代目社長・山本康夫さん。自ら制作した新桶の前にて。

 

小豆島(しょうどしま)は瀬戸内海に浮かぶ離島。人口約29000人、面積約150k㎡。瀬戸内海では淡路島に次いで2番目の大きさだ。オリーブ・醤油・そうめん・佃煮・ごま油などの生産が盛んで日本有数の名産地となっているほか、小説「二十四の瞳」の島としても知られる。近年、若者・子育て世代を中心に移住者が増加。瀬戸内国際芸術祭が開催されたり、小豆島高校野球部が甲子園出場を果たしたりと明るいニュースが多い。

 

首都圏への人口・商業施設の集中から脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、人気のある離島ではどのような地域づくりが行われているのだろうか?そこで、小豆島へ5年前に移住した筆者が、小豆島で活躍する企業・事業・人について取材・発信していく。

 

第3回は、小豆島で昔ながらの天然醸造と杉樽仕込みの醤油にこだわる、ヤマロク醤油の五代目社長・山本康夫さんにお話しをお伺いした。前編では、醤油業界の現状も含めて、醤油づくり全般についてお聞きしています。

子や孫の世代に美味しい木桶仕込みの醤油を残すために

Q:現在の事業について教えてください

うちは醤油を醸造して販売する醤油屋で、事業ミッションは子や孫の世代に、本物の木桶仕込みの醤油を残し伝える事です。全ての行動の基軸がここにあります。年間の醸造量はとても少なくて年間5万リットル。日本の醤油屋は1400~1500軒あって、年間の全体の生産量は80万キロリットルなので、うちは1万数千分の1の醸造量です。平均的な醤油屋の10分の1程度ですが、木桶で作っているので桶の量しか造れず、今のところその量がうちのMAXです。

現在の桶は約150年前から使われているもの。

 

Q:桶で造られている醤油は全国でどれぐらいあるのですか?

桶で造られている醤油は、醤油生産量全体の1%を切っていて、醤油業界で使われる木桶の3分の1から半分弱が小豆島にあると言われています。木桶保有数のトップ4社が小豆島にある。単純においしいからみんな残しているのだと思います。

 

Q:木桶仕込みにこだわっている理由は?

美味しいから(笑)ストレートに桶で作ったほうがおいしいんですよ。それで桶でしか造る気がない。

 

Q:大量生産型の醤油と木桶仕込みの醤油は、どれぐらい儲けが違うのですか?

かなり違います。たとえば、最近出た空気に触れないボトルの醤油は、単価でみると5倍ほど高いんですよ。今まで1リットルのペットボトルを大手さんは158円とか198円とかで特売していましたよね。ですが、あの空気に触れないボトルは、200ミリリットルで250円から300円くらいで売っています。1リットルにすると1250円〜1500円くらい。つまり5倍以上の値上げをした事になるんです。うちの木桶仕込みの鶴醤(つるびしお)は500ミリリットル・1000円で売っているので、リッター単価を出すと大手メーカーさんの倍もしません。

 

でも、うちの鶴醤は大手さんの醤油に比べて、原材料単価で7~8倍、熟成期間で16倍かけています。それでも料金は2倍もしないんです。これでは儲からないのが当たり前ですね。

 

Q:それでも木桶仕込みの醤油を残すと決めて、桶まで作られた理由は?

美味しいから(笑)美味しいから残すんです。特に結婚して子どもが生まれてからは、この桶が無くなったら、うちの子どもとか孫とかは、うちの美味い醤油が食べられないのだなとの思いが一層強くなりました。醤油の木桶の大桶が作れる桶屋は全国で1軒しかなくて、桶屋が無くなったら醤油が造れなくなる。困りますよね。

 

ちなみに木桶は100年使えるんです。だから1回作ると次の仕事は100年後。こちらも儲からないんです(笑)。木桶で作っている醤油が全体の1%以下って言いましたけど、昔は醤油・みそ・お酢・みりん・お酒の発酵調味料は全部木桶で作っていたんです。一番、木桶を使っているのは圧倒的に醤油で、それでも全体の1%以下で、1回作ると次は100年後です。商売として成り立たないですよね。1軒でも桶だけで生計立てていないです。今ヤマロク醤油にある一番古い桶は、おそらく150年前くらい前のものです。

 

乳酸菌と酵母菌がつくことで醤油の発酵が進む。

桶屋の廃業を前に、自ら桶を作ることを決意

Q:今までは木桶はどうされていたのでしょうか?

なぜ醤油業界に桶がたくさん残っているかというと、醤油は塩分があるので、木が腐らないんです。その次に長く使えるのは味噌、その次がお酢です。昔は桶をリユースしていて、酒蔵がお金を持っていたので、新品は酒蔵から始まる。20~30年経つとアルコールが抜けやすくなるので、この桶を中古で醤油屋や味噌屋に売るんです。そうすると菌が違うので、箍(たが)を切って、内外削って、組み直します。そこから50年とか100年使って、さらにまた別の醤油屋に売られていったり、お酢屋さんに売られていったりしていました。だんだん厚さが薄くなってくるので半分になっても持つように最初から倍の厚さで作っていたんですね。

 

ですが今では、お酒の業界では木桶をほとんど使いません。その理由ですが、例えばワインやウイスキーだと木樽が飲む(水分が木桶に吸収される)んですよね。この場合、欠減率が大体11%程度あって、できあがりが11%減るので、国税局は税金が取れない。そこで欠減に対して酒税をかけるようになったんです。そうすると酒屋は成り立たないのでホーロータンクに一気に変わり、リユースに出回る桶が無くなり、だんだんと減ってきたんです。あと何十年かで醤油業界の木桶の寿命が来ると言われています。

専門家:城石 果純

早稲田大学人間科学部卒業後、株式会社リクルートに入社。
入社2年目に第1子を出産した事で、時間あたり生産性の概念に興味を持つ。
第2子出産時に小豆島に移住。それ以後、時間と場所に制約を抱えながら
MVP・通期表彰などの事業表彰を獲得し続けた事で、
リクルートグループがリモートワークに取り組むきっかけを作った。
現在は、「地域と組織のサポーター」としてフリーランスで活動。小豆島在住の3児の母。
地域の良いものを掘り起こしてコーディネートする事と「ひとのチカラ」を活かす事を大切にしている。