小豆島(しょうどしま)は瀬戸内海に浮かぶ離島。人口約29000人、面積約150k㎡。瀬戸内海では淡路島に次いで2番目の大きさだ。オリーブ・醤油・そうめん・佃煮・ごま油などの生産が盛んで日本有数の名産地となっているほか、小説「二十四の瞳」の島としても知られる。近年、若者・子育て世代を中心に移住者が増加。年間300人という人口の約1%に当たる数が移住してきている。

 

首都圏への人口・商業施設の集中から脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、人気のある離島ではどのような地域づくりが行われているのだろうか?そこで、小豆島へ6年前に移住した筆者が、小豆島で活躍する企業・事業・人について取材・発信していく。

 

第7回は小豆島のひしおの郷で1泊1人30,000円ながら高稼働を続ける「島宿真里」の代表取締役社長・眞渡康之さんにインタビューを行いました。後編では、現在進めている新しい挑戦と、従業員に対する想いと働きやすい環境づくりについて、お聞きしました。

海に関わる、ものづくりの場を。宿以外で過ごす時間を。

Q:今後の取り組みは?

現在、部屋の稼働率は92%~93%です。その前の10年間、稼働率98%が続きました。台風で船が止まった時だけ空く。空いてもキャンセル待ちの香川県や岡山県の方たちが最後に動く便に乗ってお越しくださる。それで、ずっとキャンセル待ちで並んで待っていてくださるお客様に何かしたい、新しい商品作りをと思い続けていました。

 

小豆島内で色々な場所を検討しながら何年も過ごしましたが、小豆島の海に近い堀越地区に決めました。地区の総代が何十人もいる土地の地権者と話をしてくれて、1000坪の場所を契約する事ができました。そこを中心に滞在型宿泊施設と、ものづくりの拠点としてファクトリー作りを進めています。

 

堀越地区は、自分にとって生まれ育った場所から近く、海もあり、気持ちの根っこの部分で「いいよね」と思えた土地。集落が小さくて懐かしさがあり、南向きで、海の距離がなく、ここ以上のものはないと思えました。堀越で大事にしたいテーマは、「宿以外で過ごす時間」。心から来て良かったと思える場を作り、世界中からゲストを呼ぶ。国土交通省の旅行業免許も取得しました。宿の外も、既存商品ではなく、自分たちの目線で「これって面白い」「いい」を掘り起こし、商品化して、販売していきたいです。また、ものづくりの場を通し、一般的に弱者と呼ばれる高齢者や障がい者の方も含めた、地域の雇用を生み出したいと思っています。

 

瀬戸内国際芸術祭もそうですが、「本当にいいもの」は自分たちではなく、外から言われて気付きます。自分はずっと宿泊に携わってきて、ものづくりは本業ではありません。うまくいくかもわからないので、逃げ出したくなっても諦めないために、国や県からもファクトリーの支援を受けました。漁師さんの平均年齢は70歳。地魚は自分たちにとって武器ですが、漁業者が減っていって水揚げ量も減っています。農業はオリーブで光が見えました。だから漁業の人が喜んでくれるものづくりの場として、ファクトリーを創りたいと思っています。上澄みの部分は宿で利用し、加工して、付加価値をつけて通信販売で高く売る。魚は、生で食べたり、干したり、味噌につけたり、色々な食べ方があります。

 

100円で買って120円で売るのではなく、加工する事によって150円で買って300円で売れるかもしれない。漁師さんが値段を決め、言い値全量で買ってあげられるようになりたいと思っています。偉そうな事を言っていますが、釣りもしませんし、船も乗らないので、まずは船舶免許を取って、船を買って体感しようと思っています。今55歳。ひとに対して何ができるかというふうに考え方が変わりました。

「過ごす」を構成する5つの要素

堀越地区への計画は、段階的に進める5つの要素から成ります。

①宿

・真里別邸としての宿泊施設

・長期滞在や若年層の利用を見据えた泊食分離のシステム

・高齢者、子ども、ペット同伴のニーズを考えた設備

 

②ファクトリー

・独自商品の企画開発・加工

・物販(通信販売および直売)

・加工見学や加工体験のできるワークショップの開催

・体験型ツアーの企画・実施

 

③レストラン

・地の素材をシンプルに味わう

・食からの美しさと健やかさ

・自家製食品の提供

・地元のお客様の受け入れ

 

④リラクゼーション

・フィリピン式の施術技術、ヒロットを中心としたエステ

・オリーブを核とした島産オイルの開発と活用

・滞在型の複合的セラピー

 

⑤温泉

・堀越地域への温泉掘削

・地域の方への利用開放

 

Q:働く環境づくりはどうされていますか?

何年か前に、社員が一気にやめて20人から14人まで減ってしまいました。残った人にも不安があって。だからそれからは、「人本経営」。働く人が1番、働く人の家族が2番、真里に関わる仕入れ先、協力してくれる企業が3番。働く人がいかに幸せになれるかだと思っています。今は、宿を月1日休業して、先生を呼んで、働き方などの勉強会やメンテナンスをきちんとして、年に1度長期休暇を取っています。これを3年くらいしています。

 

人を大切にすることは難しいですね。休みは付録のようなもので、制度がなかったら風土ができないし、風土づくりは一生の目標で限りなく続いていく。働く人にとって一生ここで働きたいと思ってもらえるような条件や風土があると思うので、まずは就業規則を働く人目線で作りなおしました。何のために働いていて、どんな事を大事にしているのか。今は年に2回、皆で食事会をしています。

 

いい会社と言われる所は、50年前から、自分のためでなく周りのためにという事を何世代も重ねています。真里に入りたいと思ってもらえるような会社を目指したい。「そこにいくんや」と社員には話しています。一度にはできないので、人を増やして、給与を増やして、休みを増やして。一歩ずつ取り組んでいます。会社の理念に合う人が来てくれる事が、離職率を下げる一番の要因です。新卒採用を始めて3年、一昨年2人、去年は1人、今年は4人入社してくれました。続けて、先輩、後輩を作っていく。働く人にとって刺激になる。お金もかかりますが、入るときにお互いしっかりお見合いをして、きちんとわかりあうことで、その後安心して働けますよね。そんな繰り返しです。

 

女性も多い職場ですし、子育て中の人が2人いるので、「あなたたちが働きやすいと思う事は言ってほしい。できる事とできない事があると思うが、どうしたら働きやすくなるか、教えてほしい」というのを皆に伝えて意見を吸い上げて、そういうのを積み重ねています。

 

<取材をしてみて>

私にとって「島宿真里」のイメージは、有名誌に載っている高級宿。仲居さんのホスピタリティが高く、落ち着いた雰囲気の宿。しかしその背景には民宿時代の母子の物語や、社長の想いがありました。特に漁業に光を当てた今後のものづくりの場は、島宿真里だからこそできる地域の課題解決法が多くありそうで、とても楽しみです。

専門家:城石 果純

株式会社DaRETO代表取締役。1984年愛知県生まれ。小豆島在住、リクルート出身の3児の母。
24歳で母親になり「自然がある場所で子育てしたい」と思うようになり、2011年に小豆島に家族で移住。3年間高松への船通勤を経て、2016年個人事業主として独立。2017年株式会社DaRETOを起業。現在は、しまの塾・企業研修・各種ワークショップ開催を通し、地域の課題を地域で解決するスキーム作り「知の地産地消」に取り組んでいる。