井上誠耕園 本社にて 代表取締役社長であり3代目園主の井上智博さん

 

小豆島(しょうどしま)は瀬戸内海に浮かぶ離島。人口約29000人、面積約150k㎡。瀬戸内海では淡路島に次いで2番目の大きさだ。オリーブ・醤油・そうめん・佃煮・ごま油などの生産が盛んで日本有数の名産地となっているほか、小説「二十四の瞳」の島としても知られる。近年、若者・子育て世代を中心に移住者が増加。人口の約1%に当たる、年間300人近いIターン者が移住してきている。

 

首都圏への人口・商業施設の集中から脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、人気のある離島ではどのような地域づくりが行われているのだろうか?そこで、小豆島へ6年前に移住した筆者が、小豆島で活躍する企業・事業・人について取材・発信していく。

 

第9回は、オリーブとみかんを栽培しながら、世界の第一次産業の活性化を担うことを目標とする「井上誠耕園」の井上智博社長にお話しを伺いました。

前編では、井上社長の日本の農業に対する想いを中心にお聞きしています。

Q:事業内容をお聞かせください。

農作物を作って事業展開する、法人格を持った組織の「農業法人」です。「オリーブ」と「みかん」を作って新しい農業ビジネスモデルを模索しながらやっています。もともとは生産だけでしたが、販売、通信販売、カフェ・ショップ運営、海外展開、農育施設まで広げました。

Q:農業に対する想いは?

うちを創業した自分のじいさんが、農業を持って地域を豊かにしたいというのが始まりです。斜面は多いが日当たりが良いこの集落で、集団の農業で未来の仕事を作ろうと思ったそう。僕は「地方創生」や「地域活性」は、第一次産業が豊かにならずして、地域の財産を活かす事はできないと思っています。社内では「日本の地方創生、地域活性化の一助になれるような農業になりたい」と言っている。政府が、日本の農業が大変なことになると言って数十年。そうではなく、農業もやり方によれば、非常に百花繚乱でいろんな人材を活かせる産業ですよ、物心両面の幸せをきちんと享受できる産業になれますよ、ということを実証してみせたいです。

Q:想いの背景には何があったのですか?

大学を卒業してすぐ、神戸の中央市場に勤めました。その時、小豆島の農作物が、味は他地域に劣らないのに、生産量が少ないというだけで弱小産地とみなされ、非常に価値が低く市場でやり取りされている姿を目の当たりにしました。僕は子どもの頃、家の手伝いはそんなにしなかったけれど、親父やおふくろが、一生懸命はたらく姿を背中で見ていました。当時は段々畑で道路も整っていなくて、道も細くて、収穫なら一輪車にかご積んで、大変な目をして仕事をしていました。そんなふうに丹精込めて作られたみかんが雑に扱われるのを見て、やるせなかったです。

 

どうして農業って中々従事者が少ないんだろう?稼ぎが少ないんだろう?3K(きつい、汚い、危険)と呼ばれるし、物の豊かさもない。精魂込めて作ったものが、価値高く評価されない事に憤りを感じ、その時「人に値段を付けられるのではなく、自分で値段を付けないといけない」と誓って島に帰ってきました。

日がよく当たる、傾斜の続く段々畑でオリーブやみかんを栽培している。

 

Q:海外展開を始めたきっかけは?

この数年で挑戦しはじめた海外展開の背景には、地球規模でのグローバル化の流れと、TTP(環太平洋パートナーシップ協定)締結の2つの話が関係してます。農業が世界競争になっていくのが目に見える中で、日本は国土の80%が山で平坦地が少ない。量で世界にかなわなくなった時に、日本の農業はどうなっていくのか?僕は、世界に自由競争としての門戸が開ける追い風に変えたいなと思っています。

グローバル化の時代の中で、一方から見たら脅威かもしれないが、一方では間違えなく追い風。そのひとつの足掛かりとして、シンガポールにショップを進出しました。ゆくゆくは、経済発展のスピードにもよりますが、日本の農家が近隣のASEAN諸国(東南アジア諸国連合)に行けるように。一筋の光も見えていないですが、頑張っていこうと思っています。

 

シンガポールはすごい経済発展の中、世界中から名立たるブランドが来ていて競争が激しいんです。その中で成功例を作ることができれば、日本の農業の自信になると思います。僕は、高校卒業してから島外に出て仕事をして、30年前に小豆島に帰ってきました。その当時はオリーブが世の中に認知されていなかったから、オリーブを売るのに苦労しました。15年前に、日本にオリーブブームが来て、オリーブの認知が高まりましたが、シンガポールでは(オリーブの認知度は)そこまで行っていない。しかし今は、すごい経済発展を起こしていて、富裕層が多く、彼らはみんな健康に気を使っている。食品や化粧品ブームが来ているのでチャンスがあると思っています。

専門家:城石 果純

株式会社DaRETO代表取締役。1984年愛知県生まれ。小豆島在住、リクルート出身の3児の母。
24歳で母親になり「自然がある場所で子育てしたい」と思うようになり、2011年に小豆島に家族で移住。3年間高松への船通勤を経て、2016年個人事業主として独立。2017年株式会社DaRETOを起業。現在は、しまの塾・企業研修・各種ワークショップ開催を通し、地域の課題を地域で解決するスキーム作り「知の地産地消」に取り組んでいる。