「らしく園」本館1階のオリーブ専門店。「日常にもっとオリーブを!」をコンセプトに、オリーブや柑橘の化粧品、食品をはじめ雑貨や苗木などに加え、オリーブを使ったスムージーやパン、スイーツなども販売。

 

小豆島(しょうどしま)は瀬戸内海に浮かぶ離島。人口約29000人、面積約150k㎡。瀬戸内海では淡路島に次いで2番目の大きさだ。オリーブ・醤油・そうめん・佃煮・ごま油などの生産が盛んで日本有数の名産地となっているほか、小説「二十四の瞳」の島としても知られる。近年、若者・子育て世代を中心に移住者が増加。年間300人という人口の約1%に当たる数が移住してきている。

 

首都圏への人口・商業施設の集中から脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、人気のある離島ではどのような地域づくりが行われているのだろうか?そこで、小豆島へ6年前に移住した筆者が、小豆島で活躍する企業・事業・人について取材・発信していく。

 

前編で、日本の農業が海外に行くきっかけをつくりたいと熱く語った井上誠耕園の井上社長。後編では、農家なのになぜ「観光」に力をいれているのか―その理由を教えていただきました。

Q:「らしく園」をオープンした背景は?

2017年4月に、「大人の農育現場」をテーマにした、ショップ・カフェ・レストラン・畑の複合施設「らしく園」を小豆島でオープンしました。想いは「世界の視野に小豆島を」です。オリーブやみかんなど農作物を作る姿を見てもらって、できたてや採り立てを食べてもらって、「食べてよし、塗ってよし」の肌で感じてもらう場所です。

海へ続くオリーブ畑。現在は新芽だが、オリーブは成長が早い。10年後20年後、生い茂るオリーブ畑を見るのが楽しみ。

瀬戸内海とオリーブ畑を見渡せるテラス席でも、オリーブを使用した料理を食べることができる。

オリーブ農家が考えたオリーブオイル三昧の楽しいパエリア。「白のパエリア」「緑のパエリア」「赤のパエリア」「黄色のパエリア」があり、それぞれのパエリアにぴったりなオリーブオイルを用意している。

マイオリーブ作りは、オリーブの品種や実の熟度の違いをテイスティングで確かめることから。さまざまなオリーブオイルをブレンドすることで、お好みのオリジナルオリーブオイルができあがる。ブレンドしたオリーブオイルは持ち帰ることが可能。

 

自然はありがたいですよね。その大自然のありがたさと、人間の叡智、知恵のコラボレーションを感じてもらう。農業は大事で、やりがいがあるものです。最終的には、宿泊施設まで手掛けたいと思っています。海が見えるオリーブに囲まれた場所で泊って、カフェやレストランで食事をし、そこを起点に小豆島を観光してもらいたい。風光明媚な地形の場で、我々の日々の仕事、「日常」を見て、感じてもらいたい。小豆島を世界の観光立島にしようとした小豆島バス創業者の故・堀本文次さんが残した孔雀園の跡地を引き継ぎました。

Q:農業のほかに、観光にも力を入れている理由は?

今のように通販が成功したきっかけは、小豆島が観光地であったというのが大きかったんです。子どもの頃、お遍路さんにみかんを差し上げるとすごく喜ばれたのを思い出して、はじめはみかんを詰めて送りました。そして、お客様が増えて、みかんからオリーブに横展開していきました。

そうしているうちに、東京の百貨店から声がかかりました。しかし百貨店では、日本中から色々な生産者さんや加工業者さんが集まって大コンペが始まって、店頭に並びます。原理は中央市場の時と同じで、大産地から集まった時に小豆島は量が少ない事から、その時点で弱小産地で価値が低いとみなされる。商品の背景が伝わっていないと思いました。

 

だから、小豆島にお越しいただいて、その商品がどんな現場でどんな風に作っているかを見ていただきたい。商品の背景を知ってもらいたい。小豆島のお醤油屋さんや佃煮屋さんは、家内工業の延長として、家族やご近所さんが集まって作っている所が数多く残されています。この過程を見て感じてもらう事が、この小豆島の、大量生産でない家内工業製品の素晴らしさを知っていただくことにつながる。そのためには、小豆島にお越しいただくことが一番なんです。それが、観光に力を入れる理由です。

冬場に収穫される小豆島のみかん。

Q:やり遂げたい事は?

日本の第一次産業、農業の活性化を通して、地域活性化の一助を担いたい。そして、世界の第一次産業の活性化の一助を担いたいです。

Q:地域全体の課題と解決法は?

各種産業の衰退、これを何とかせなあかんと思っています。

その根底の所に、諦めムードがあったらいけない。特に若い子たちに伝えたいのは、そんな偉そうに言えたものじゃないけれど、地域に誇りを持って、常識をいっぱい知って、非常識に挑んでほしい。

 

「なんとかするんや」とやんちゃな人たちが、情熱を持って取り組んでほしい。我々おっさんやおばちゃんは、内心むずかしいと思ったとしても、能天気でいいから「大丈夫やで、できるで」と言って、若い人に刷り込んでいく。世界中の色々な情報が入ってくるから、みんな変に頭が良くて、やる前から「無理やろうな」と自分で無理な条件を作ってしまっているんじゃないかな。だから、「なんとかなる。どうしたらなんとかなる?わからんけどなんとかするんじゃ」という気持ちを持つことが大事。なんか手はあると思っています。

本社横のオリーブ畑。10月に収穫期を迎える。

井上社長の強みは、困難があってもめげない「強い信念」。その背景には、大阪で経験した「生産量が少ないから、故郷が弱小産地とみなされる」という悔しい経験がありました。井上誠耕園は、この揺るぎない社長の壮大なビジョンと、インタビューには出てきませんが、専務である妻・千代さんの現実的な思考の両方が掛け合わさってできているように思います。

 

日本の農業は、今まで守られすぎていて、世界に誇る技術力を持ちながらもどうやって収益化するかを考える人が極端に少なかった事が問題だと指摘されています。井上誠耕園は、まさにその収益化に成功した事例で、現在は、農業関係者、行政関係者、企業経営者・幹部が全国から視察に訪れています。今後も、まだまだ挑戦をし続ける井上誠耕園の未来が、とても楽しみです。

専門家:城石 果純

株式会社DaRETO代表取締役。1984年愛知県生まれ。小豆島在住、リクルート出身の3児の母。
24歳で母親になり「自然がある場所で子育てしたい」と思うようになり、2011年に小豆島に家族で移住。3年間高松への船通勤を経て、2016年個人事業主として独立。2017年株式会社DaRETOを起業。現在は、しまの塾・企業研修・各種ワークショップ開催を通し、地域の課題を地域で解決するスキーム作り「知の地産地消」に取り組んでいる。