小豆島(しょうどしま)は瀬戸内海に浮かぶ離島。人口約29000人、面積約150k㎡。瀬戸内海では淡路島に次いで2番目の大きさだ。オリーブ・醤油・そうめん・佃煮・ごま油などの生産が盛んで日本有数の名産地となっているほか、小説「二十四の瞳」の島としても知られる。近年、若者・子育て世代を中心に移住者が増加。年間300人という人口の約1%に当たる数が移住してきている。

 

首都圏への人口・商業施設の集中から脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、人気のある離島ではどのような地域づくりが行われているのだろうか?そこで、小豆島へ6年前に移住した筆者が、小豆島で活躍する企業・事業・人について取材・発信していく。

 

第7回は小豆島のひしおの郷で1泊1人30,000円ながら高稼働を続ける「島宿真里」の代表取締役社長・眞渡康之さんにインタビューを行いました。前編では、「島宿真里」が民宿から高級宿へと変貌を遂げてきた経緯と、眞渡社長の宿に対するこだわりをお伝えいたします。

「宿」で過ごす、ゆったりとした時間。

Q:事業内容を教えてください。

「宿」で過ごす時間を提供しています。「泊まる」中には「食べる」と「過ごす」があります。物であれば、百貨店にもスーパーにもネットにもないもの、宿泊であれば、他のどこにもなくてここにしかないものがあれば、お客様はお越しくださいます。小豆島のポジションで、食であればどんなものだろう。うちだけしか手に入らない食材はないので、どう加工したらお客様は喜んでくださるだろう。重たい腰を上げていただき、大切な時間を1人じゃなく家族や友人と合わせるという手間をかけ、それなりのお金を持ってお越しいただく。商品づくりだけでなく、どう知っていただくかという事も同じだと思います。

Q:「島宿真里」を始めたきっかけは?

2歳の時に父親が亡くなって、母親が父親の退職金をもとに民宿を始めました。常に宿泊のお客様が近くにいて、夕食はお客様と一緒でしたし、生活の一部として育ちました。お客様との距離が近い形が今流行りだしていますが、当時は当たり前で、リーズナブルで利用しやすく家庭的な雰囲気でした。

 

高校卒業後、島外に出て添乗員の仕事をして、42歳で生んでもらった長男というのもあり板場になるしかないと思い、25年位前に調理師の修行を終えて帰島しました。自分の母親と一緒に民宿を営んでいくうちに、宿泊されたお子さんが「ママ、今日本当にこの部屋に泊まるの?」と言っていたのを聞いて、すごくショックで胸に刺さりました。自分にとっては、そういう宿で商いをするのが日常でしたし、安い値段であれば、このくらいの部屋で、それなりの料理を出すと思っていたんです。日常生活のレベルが高い子どもからしてみたら、「お金を払ってこんな部屋に泊まるの?」というのが正直な気持ちだったのだと思います。

こだわりを持ち続けてできた「醤油会席」

Q:どのように宿を変えていかれたのですか?

当時、鉄板にオリーブオイルをかけた「オリーブ焼き」というのを小豆島の大きなホテルが出していました。フグやカニやタコは、全国どこでも取れます。島宿真里は「ひしおの郷」という醤油蔵が集まる場所にあり、「お醤油」を活かせないかと思いました。ただの調味料としてではなく、お醤油を一番高いポジションに置くとすると、どんな料理ができるか。当時は、もろみと醤油とわさびを合わせた「もろみだれ」という付けダレと、普通のお醤油とを、2種類出しました。(日常的にもろみや醤油がある)地元民には不評も不評でしたが、ずっと出し続けました。もろみを大切にしていくことを決めて、全体の会席としてお醤油をちりばめて、つゆやタレや味噌の展開を創り、コースを成り立たせる。「醤油会席」は、和食の調味料としてお醤油があり、小豆島風にお醤油を考えるとこれが定義というコンセプトでできあがりました。

 

そしてお部屋は、1回目が2000年、30歳の時に銀行から借入してリニューアルしました。そのころは9割が地元の宴会、1割が宿泊客。宴会場が空いた時だけ、布団を敷いて泊まってもらうようにしていました。お風呂もちゃんとしてなかったから値段を安くして、当時1泊2食を7000円くらいでした。8年間そんなスタイルが続いていました。それで、銀行から「よくやっているから、なんかやりたいことないのか?」と聞かれ、「宿がやりたい」と言ったんです。1部屋28,000円、安い部屋で10000円。38歳の時、今の設計士・デザイナーと知り合って、「こんな宿があるといいよね」というのを出し合って、建物のどこを残そうとか、そんな話をしながら、進めていきました。

 

部屋数は7部屋で、それは変えずに、その後2回大きなリニューアルをしました。今はおひとり30,000円いただいています。おふたりで60,000円、滞在時間が21時間。もし自分なら、部屋でゆっくり過ごしたいと思うので、お部屋もお風呂も、お食事も、造りこんでいます。

専門家:城石 果純

株式会社DaRETO代表取締役。1984年愛知県生まれ。小豆島在住、リクルート出身の3児の母。
24歳で母親になり「自然がある場所で子育てしたい」と思うようになり、2011年に小豆島に家族で移住。3年間高松への船通勤を経て、2016年個人事業主として独立。2017年株式会社DaRETOを起業。現在は、しまの塾・企業研修・各種ワークショップ開催を通し、地域の課題を地域で解決するスキーム作り「知の地産地消」に取り組んでいる。