写真提供「小豆島カメラ」。三村ひかりさんは一番右端。

 

小豆島(しょうどしま)は瀬戸内海に浮かぶ離島。人口約29000人、面積約150k㎡。瀬戸内海では淡路島に次いで2番目の大きさだ。オリーブ・醤油・そうめん・佃煮・ごま油などの生産が盛んで日本有数の名産地となっているほか、小説「二十四の瞳」の島としても知られる。近年、若者・子育て世代を中心に移住者が増加。人口の約1%に当たる、年間300人近いIターン者が移住してきている。

首都圏への人口・商業施設の集中から脱却を図る「地方創生」が叫ばれる中、人気のある離島ではどのような地域づくりが行われているのだろうか?そこで、小豆島へ6年前に移住した筆者が、小豆島で活躍する企業・事業・人について取材・発信していく。

 

第6回は小豆島を拠点に活動をしている「小豆島カメラ」の三村ひかりさんにインタビューを行いました。

カメラが好き・小豆島が好き・みんなと活動するのが好き

Q:小豆島カメラの活動内容を教えて下さい。

小豆島に暮らしているからこそ撮れる日常の小豆島の様子を写真で撮って、外に向けて発信しています。基本的には1日1枚の写真をWEBサイトで発信、他には東京や横浜、小豆島内で写真展をしたり、撮影ツアーを組んだりしています。発足は、カメラマンのMOTOKOさんとの出会い。MOTOKOさんは、地方の良さや豊かさを知って、これからはもっと地方の魅力を掘り起こしていくことが何かできないかと考えていたそうなんです。一つはカメラマンが外から来て写真を撮るのではなく、地元民が日常を撮影して発信できたら、そのほうがよほどリアリティがあるし、お金がかからないこと。もう一つは芸術祭終了後、外部アーティストが不在になると、まちが閑散となってしまうため、地元を発信できる魅力あるアーティストが必要ではと思ったこと。また当時、小豆島は東京での認知度が低く、MOTOKOさんは、東京の大企業と結びつく事が島を知ってもらうきっかけになると考えていたそうです。

 

一方、東京のメーカーは、東京で売れればそれが地方にも流れるだろうと考えていて、今のように地方の量販店が無くなっていくなんて考えてませんでした。そこにMOTOKOさんは危機感を感じていたそうです。小豆島の坂手港から若い女の子たちが首からカメラをぶら下げて降りてくる姿を見た時に、「地方×女子」の活動をすることが両者にとって将来的に良い関係を築くだろうと思い、2013年6月ごろから、写真雑誌PHaTPHOTOとともに複数のカメラ会社にアプローチをしてくださりました。それがきっかけで、オリンパスの担当の方が小豆島に一度来て下さって、私たちと話してみて「この人たちとならやれる」と思ってくれた。それで「地方×カメラ」のコンセプトで一緒に活動をはじめました。「オリンパス」としては、私たちの活動を通して若い女性にカメラを使ってもらいたい。「小豆島カメラ」は、小豆島を発信していきたい。

 

オリンパスからは年に何回か先生を派遣いただいて、人物はどう撮ったらいいのかとか、商品の撮影はどうしたらいいのかとか教えてもらったり、新しい機種になるごとにカメラを変えて使わせていただいたりしています。地方創生の波が来て、カメラのメーカーも地方を向き始めました。東京で売れたら地方で売れるという考え方から、地方発で発信するやり方へ。そういう意味で、その先駆けとなったのが、「小豆島カメラ」です。

 

メンバーは、かなりの時間、負担を背負っていて大変な部分もあります。同じスタイルをやるにしても、もしかしたら他地域で展開するのは難しい部分があるのかもしれません。私たちは別の仕事を持ちながら、「カメラが好き」だったり「小豆島が好き」だったり「みんなと活動するのが好き」だったり、それぞれが様々な想いを持って活動しています。

写真提供「小豆島カメラ」

写真提供「小豆島カメラ」

写真提供「小豆島カメラ」

魅力を再発見して、発信者が増えたらいいなと思う。

Q:撮影ツアー「生産者と暮らしに出会う旅」ではどのような事をされているのですか?

1回目の時は、私が夫婦で営んでいる「HOMEMAKERS」で行いました。山が紅葉していて、畑はじゃがいもの葉っぱが青々しげって、写真に撮るととてもきれいでした。その後は、佃煮屋さんやお醤油蔵さんを訪ねたり、塩職人が仕事をされる現場で食事をしたり、田植えを体験したり、今まで5回イベントを行いました。

 

始めは1泊2日の泊りでやっていたので島外の人が多かったのですが、現在は日帰りのイベントとしたので島内の人も増えてきました。属性としては色々な人が来ていて、移住してきた方や、地元で普通のお母さんをしている人もいます。もともと住んでいる人でも、「そこに行った事がない」、「行ってみたかった」等の理由で参加してくれるんですよね。自分の住んでいるところの魅力を知ったり再発見してもらったりして発信していけたらすごく強いなと思います。

 

当時、カメラが好きな方が、特に地方の食や暮らしに興味があるわけではありませんでした。景色を撮られることが多かったですよね。「生産者と暮らしに出会う旅」の立ち上げは、無印良品さんと一緒に行いました。立ち上げの時期には、担当の方に半分ボランティアで動いていただきました。私たちは、色々な方からのたくさんの愛情があって、今があるのだと思います。

写真提供「小豆島カメラ」

メンバー全員、写真を撮ることが好きで、想いを持って活動中。

Q:どんな事を目的に活動しているのですか?

「見たい・食べたい・会いたい」というコンセプトで、私たちの日常の暮らしを外に向けて発信しています。小豆島の美しい景色などの魅力を伝えることで、「行ってみたい」と思ってもらいたいし、「何度も来てもらいたい」し、「住んでみたい」と思ってもらえたら嬉しい。だけれども、そこは正直あまり深く考えてはなくて、メンバーそれぞれが写真を撮ることが好きという気持ちを大切にできればいいな、と思ってます。「島の醤油を伝えたい」、「産業を未来に伝えたい」、「うまく写真が撮れるようになりたい」、「活動をきっかけにしたい」などそれぞれの想いはバラバラでもいいんです。私は、商売の写真を「オリンパス」のカメラで撮っている。それぞれが、自分の仕事とつながっていたり、カメラが好きでやっていたり、趣味でやっていたり、想いは違うけれど、みんな楽しんで活動している事は共通していると思います。

写真提供「小豆島カメラ」

写真は切り取る事ができる。でも、この風景はどうなっていくのかなと思う

Q:小豆島の地域の課題は、どんな事だと感じますか?

一番はやはり人口減少による影響ですかね。カメラで写真を撮ろうとした時は顕著に感じることがあります。例えば、中山の千枚田の写真を撮ろうとした時に、フレームにすごく荒れている田んぼが入る。「この田んぼは放棄されちゃったのだな」と思いながら、写真を撮る時に、そこを入れるか外すか迷う。キレイな写真を撮りたい時には、そこを外して撮ったりカットしたりするのだけれど、写真は切り取る事ができてしまうから、それって本当じゃないなと思うこともあります。

 

もちろん自然の海や山はそれで美しいのだけれど、人の手が入っている里山は人の手が入ってこその景色。この風景はどうなっていくのだろうとは思いますよね。他の景色もすべて同じで、例えばいちごのビニールハウスを撮るのにも、手入れされているかしていないかでビニールハウスまでキレイに写るのか写らないのかが全く違います。人が減っているから、お醤油蔵も素麺屋も続いていかないかもしれないし、畑も少しずつ手放されている。私たちが行っている「生産者と暮らしに出会う旅」では、生産者に出会って、その営みに触れて知ってもらうことでファンになってもらう。そして、「買う」という行為が定期的につながっていけば、リアルな話だけれどお金になって持続していく。そういう事をしていきたいと思っています。

写真提供「小豆島カメラ」

写真好きな仲間が集って、共に活動していること自体が「小豆島カメラ」の魅力

Q:今後の活動はどのようにされていくのでしょうか?

写真を撮るのがすべての軸にあって、撮影ツアーは定期的にやりたいなと思っています。だんだん知名度が上がってきて、実は面白い仕事を島内外の人からいただくようになってきたんです。もともと「写真提供してほしい」という話は多いのですが、最近ではスポーツ雑誌の撮影の依頼や、文具メーカーから新発売する写真アルバムのキャンペーンサンプル作りの依頼もありました。基本そういうお金は、「小豆島カメラ」として利益を上げるのではなく、メンバーで仕事を受けた人にお金が入って、売上の一部を小豆島カメラに入れて、備品を買ったり写真展をしたりする資金源に充てています。そのお金で写真展をしたりしています。

写真提供「小豆島カメラ」

Q:今後の最終形はどのようなものを目指されていますか?

この活動を通じて知り合ったメンバーが、プライベートで会ったり、お互いの情報源だったり、仕事につながったり、その仲間としてのつながりは今後も続けていきたいと思っています。そもそも共に活動していること自体が「小豆島カメラ」の魅力で、素晴らしき財産。欲を言えば、かけている時間に対しての収入として考えるとすごく少ない。写真撮影は、本当はその後の編集などの事も考えると、結構いただかないと採算が合わなかったりします。

 

活動に対してきちんと見合った金額が入ってくるようになれば、今よりもっと時間を割けて、よりパワフルな活動ができる。「小豆島カメラ」の写真の感じで撮ってほしいと言われるようになれれば、活動としてやってよかったなと感じると思います。発足時に、こういう活動を生業としてやっていけるようになったら、ひとつのモデルケースとなれるのではと話していました。少しずつ、そこに近づいていけたらいいなと思います。

写真提供「小豆島カメラ」

写真提供「小豆島カメラ」

写真提供「小豆島カメラ」

 

三村さんと私は同じ「肥土山(ひとやま)」という集落(すぐ上の3枚の写真)に住んでいて、そこでは農村歌舞伎や虫送りなどの伝統行事が何百年も続いている。地域の良さがしっかり残る集落だが、写真を通して、その良さを再認識する事ができる。「小豆島カメラ」の写真は、暮らし手だからこそ撮れるものが多い事が特徴だ。その写真をきっかけに、小豆島と人との出会いが生まれる。また自分の住む島を、写真を通してより深く知る、好きになる。「共に活動していること自体が小豆島カメラの魅力」という三村さんの言葉に、活動の全てが表れている。今後も、私は楽しみに「小豆島カメラ」の写真を見て、行きたい場所を増やすことだろう。

専門家:城石 果純

株式会社DaRETO代表取締役。1984年愛知県生まれ。小豆島在住、リクルート出身の3児の母。
24歳で母親になり「自然がある場所で子育てしたい」と思うようになり、2011年に小豆島に家族で移住。3年間高松への船通勤を経て、2016年個人事業主として独立。2017年株式会社DaRETOを起業。現在は、しまの塾・企業研修・各種ワークショップ開催を通し、地域の課題を地域で解決するスキーム作り「知の地産地消」に取り組んでいる。