自治体営業コンサルタント「古田 智子」さんに聞く
数多くの講師・コンサルタントをみてきた、研修・セミナープロデューサーの原 佳弘氏による「選ばれるコンサルタント」連載。
今回のリアルトークに登場していただくのは「自治体営業コンサルタント」株式会社LGブレイクスルーの古田 智子さん。独立前も、官公庁や自治体への入札・プロポーザル案件を多く取り扱う企業で、様々なご経験を積まれた後、2013年独立起業されました。
コンサルタント多し、と言えども、この「自治体向けの営業支援のコンサルタント」は、私も聞いたことがないカテゴリーのコンサルタントでした。どのような起業~起業後のストーリーがあったのでしょうか。
「地方の優れた技術力やサービスを持った会社が、なぜ自治体の仕事が取れないの?」コンサルタントを目指したキッカケ
Q:そもそもコンサルタントを目指された経緯・キッカケは何だったのでしょう
古田智子さん(以下、古田):
以前から、国や地方自治体の方とお仕事を長年させて頂きました。そこでは、東京に本社がある、大手企業が国や地方自治体の仕事を多く獲得することを見てきました。彼らは、それこそ長年の業務経験から、国や自治体とのお付き合いの仕方を熟知していました。一方、目を転じると、中小企業、特に地方の中小企業は、国や自治体とのお付き合いを諦めている会社が多かったのです。諦めている以上に全く知らない、というような状態も多く見受けられました。そんな中小企業であっても、よく見てみると、地元の方々が熱心に開発した素晴らしい技術・商品・サービスがあり、決して東京に本社がある大企業に負けない力をもった会社も多くありました。
そのような企業に対して、「なんだか、もったいないな」と感じたのです。更に申し上げると、地方の住民・企業から集めた税金が、自治体を通じて東京にある大企業へ仕事が発注されているのは、「東京にお金が吸い取られている」ことに他なりません。まさに東京一極集中を招いている、と感じたのです。
そこで、この状態を産んでいる原因は何だ!? と考えてみたのです。すると、それは単純なことでした。「どうせ・・・うちの会社なんて」「どうせ・・・東京の大企業が」「どうせ・・・うちの商品なんて」という、自治体との付き合いに対する企業の”諦め感”が最大のブレーキだったのです。
「自治体側は欲しているのに、企業側が手を挙げない。」業界への恩返しのために46歳で独立起業
古田:
地元で頑張っている企業・会社が、そうした心理的な要因だけで諦めていたら、それこそ「東京にお金が流れ続ける」ことは変わらない。国が今行っている地方創生は、東京から地方へという流れ、ですが、逆にこの根本を変えていかなければ!とビビビっときたんです。
Q:なるほど、中小企業や地方企業の大きな課題に気付かれたのですね。
古田:
はい、そうです!気持ちだけの問題で諦めていたら、国にとっても大きな損失!と感じたのですね。
一方、自治体側にも地元企業に対するニーズがありました。定数削減により、自治体も職員が10%も減りました。また、住民のニーズはますます多様化・細分化・高度化するばかり。自治体の先輩や上司でも誰も知らない、経験したことがない事案が山のように溢れてきている。そこで今進んでいるのが、民間企業の参入促進、開放の流れです。民間の知恵・力を借りたい、と自治体は思っているのです。
しかし、地方の中小企業は参入に対して後ろ向き、ブレーキを感じている。これも問題だな、と。
Q:なるほど、需要、つまりニーズとマッチしていないと。
古田:
そうです、自治体側は欲しているのに、企業側が手を挙げないのです。これでは、益々住民サービスは低下し、地方の企業も衰退してしまう、そう危機感を感じたのです。
そこで、今までサラリーマンとしてお世話になってきた、この業界に恩返しをしよう、そんな気持ちで、46歳の時に独立起業いたしました。
「独立コンサルタントは、運転資金はいらない?」起業しての大きな失敗
古田:
「独立する時は、国や自治体に恩返しするんだ!」という想いは、人一倍ありました。しかし、独立の準備をしっかりしていたかと言うと、全く準備不足で起業してしまいました。特に、お金の面がすっかり抜けていたのです。コンサルタントだから、仕入れも工場などの設備投資も必要ないから、あまり事業資金はいらないだろう、とたかをくくっていたのです。
これが、大失敗! 当初は仕事もあまり獲得できず、取れた仕事でも入金は随分先・・・。運転資金がなくなり、しまいには家計をかなり切り詰めて生活していました。1日1食で乗り切ったり、色々なものをリサイクル屋さんに売ったりして凌いでいました。
その他にも、「役所に対する営業がしにくいイメージを壊すんだ!」という意気込みで取り組んでみたものの、その壁は想像以上に高かった。先ほどお話した「どうせ・・・」が、本当に根深かった。まるで、「荒れた畑を、根っこを取り除き、土を掘り起こし、土から耕していく」そんなイメージでした。
この荒れた畑に、変化をもたらず一つの肥料となったのが、初めての自身の出版でした。「地方自治体へ営業行こう!(実業之日本社)」。この出版を機に、「自治体さんへの営業をやってみたいのですが・・・」「なんとかチャンスがあるならば挑戦してみたい!」といった声が少しずつ挙がり始めました。私は喜んで、そういった企業さんのお手伝いを少しずつはじめました。本を出版させていただく、という力を感じました。
そして、3つ目のハードルだった事は、「役所へのイメージ」の問題でした。どうも最近のマスコミ報道が、「役所は税金泥棒」という論調が多いためか、役所で働く方が怠けている、無能である、というイメージが浸透してきてしまっています。しかし、前述した通り、今の自治体職員は今までにない難局に立ち向かっています。それどころか、彼らは「ありがとう」と言われることがない、つまり出来て当たり前、と言われる仕事を丹念に遂行しています。外の風当たりは厳しく、かつ出来て当たり前・・・これでは、いくら優秀な役所の職員でも、モチベーションが下がってしまいます。これが、非常に辛かった。
この壁を壊していくために、今新しい非営利の取り組みを立ち上げました。「勝手に応援組」と言いまして、見えにくい役所の仕事を可能な範囲で開示していきながら、「ありがとう」と言われるような仕組みです。「見える化」ではなく、「見せる化」です。単純に相手から「見える」ようにするだけでなく、積極的に伝えて理解してもらうことまでを考えています。この「勝手に応援組」というスタンスは、役所で働く方々の心の支え、やる気に少しでもなれば、と思って実施しています。
Q:それは、新しい角度のアプローチですね。確かに、役所の方の仕事って見えないですよね。とても参考になります!
古田:
そうなんです。今、地方と中央(東京)、そして官と民なんて、分けて言っていても始まらない。壁を壊すことを使命に取り組んでいます。
コンサルタント起業するにあたっては、「群れるな!」「リスクを取れ!」
Q:これから、独立コンサルタントを目指す方へのメッセージはありますか?
古田:
まず、どうしても言いたいことがあります。「1人になることを恐れない」で欲しいです。せっかく、サラリーマン時代の(ややこしい)人間関係やしがらみ、そういったものから抜け出して、独立コンサルタントになったはずなのに、起業するとまた、群れている方が沢山いらっしゃる。
私は起業から2年後に、乳がんを告知され、暫くは治療のため、ビジネスに費やす時間が自ずと限られてしまった。こうした状況のため、異業種交流会やビジネスに直結しない交流は参加しなかった。しかし、それでも、コンサルタントとして独立できた。ここまでやってこられている。つまり、何か群れていることでビジネスが加速するのではないな、と今あらためて思います。
大事なことは、「マーケットに向き合って、自分に何ができるかをしっかり目定め、お金と時間をフォーカスすること」これしかない。起業してまで、群れる必要はゼロ、そう思うのです。
もう1つのメッセージは、「リスクを取ることを恐れないで」ということ。色々な成功者の本やインタビューを読みました。彼らに共通することは、「何かのリスクを必ず取って挑戦してきたこと」。リスクを恐れて、何もチャレンジしなければ何も手に入らない。そのリスクを取る、という手段は私は次の3つがあると考えています。
①やめる・・・過去の実績・経験を捨てて、未来を見ること
②手放す・・・資源は限られている、自分にとって不必要なものは必ず手放す
③刺し違える・・・何か自分が持っているものと引き換えに、リターンを獲る
これらに挑戦できなければ、起業は合っていないかもしれません。手放すことで手に入るものがある、やめることで見えてくるものがある、刺し違える覚悟があることで、新しいチャンスが転がり込む、そんな経験を、私はしてきました。ですので、独立コンサルタントになるために、リスクを取りに行く癖・経験をしておくこと、必ず通る路なのでは、と思っています。
慶応義塾大学卒業後、流通業を経て、建設ならびに総合コンサルタント会社に約20年間在籍。
トップ営業兼シニアコンサルタントとして、
官公庁からの受託事業を予算化から案件獲得までの一連の業務に長年携わる。
その領域は、建設・土木、観光・産業振興、教育、福祉、環境、人材育成、
上下水道、交通事業など多岐にわたる。
2013年株式会社LGブレイクスルーを設立。
官公庁分野の案件獲得ソリューションを提供する国内唯一の会社として、
特にプロポーザルの勝率を高めることに徹底的にこだわる支援を展開している。
15年には、勝率を高める提案活動のプロフェッショナルが集う国際機関
APMP(Association of Proposal Management Professionals)の日本支部設立に参画。
プロポーザルの勝率を高めるノウハウを体系化・標準化した「BOK」の
日本語版・自治体案件版の編集に取り組んでいる。
一方プライベートでは、頑張る地方公務員を応援する「自治体職員勝手に応援組」を立ち上げ、
初代姐(あね)に勝手に就任。
ときに炎上しながらも地方公務員バッシングに敢然と立ち向かっている。
Brew(株) 代表取締役 セミナー/研修プロデューサー
1973年生まれ。中小企業診断士。
横浜市立大学卒業後、建設市場のシンクタンクにて経営企画を担当。
その後、法人向けセミナー・企業研修を行う会社へ転職。
階層別研修から営業、マーケティングなど専門領域の研修設計、
セミナー企画実施を10年以上行う。
2014年、Brew(株)設立。
300人以上の講師・コンサルタントネットワークから「最適講師の提案」、
顧客の課題解決につながる研修やコンサルティングを「ゼロから設計」して提供している。
東洋経済オンライン、ハーバービジネスオンラインなどでも執筆。
著書には、「研修・セミナー講師が企業・研修会社から”選ばれる力”」(同文館出版)がある
専門家と1時間相談できるサービスOpen Researchを介して、企業の課題を手軽に解決します。業界リサーチから経営相談、新規事業のブレストまで幅広い形の事例を情報発信していきます。