数多くの講師・コンサルタントをみてきた、研修・セミナープロデューサーの原佳弘氏による「選ばれるコンサルタント」連載。
前回のコラムでは、「無理に資格取得やスクールに通うことよりも、目の前の仕事で徹底的にプロフェッショナルを目指そう」という内容でお伝えいたしました。
どんな仕事でも、まずその仕事を極める事が大事であり、極めることで誰か困っている人の問題解決に今後つながっていく。ひいては、それがコンサルタントとしての土台やスキルとなっていく、とお伝えいたしました。
では、自分の仕事を極めていきながら、その後に行うべき事は何でしょうか?
昔できなかったことが、コンサルタントの資産になる!
今回お伝えしたいことは、「自身の”正しい”棚卸し」です。
なんだ、就職でも転職の時にも言われる「自分の棚卸し」か、と思うかもしれません。コンサルタントをめざす場合に必要な棚卸しの”やり方”があるのです。
それは、2つのポイントがあります。「昔の自分と今の自分を比較して定量的・定性的に差(ギャップ)を捉えること」とです。1つは、昔は出来なかったことが、今ではできるようになった事は何か、そしてそこにはどんなステップがあって、提供できる価値は何か?という点です。単に棚卸しして、「こんな事があった」「これを経験した」という羅列程度の棚卸しではないのです。
もう1つは、できるようになった結果、「どんなお困りごとを持った方に、どんな価値を提供できるようになったか」を明示してみることです。
昔⇒今 : 身についたもの、できることは何か?(知識・スキル・ステップ)
提供できる価値(成果)は何か?(誰に、何を、どのように)
これを丁寧に拾い上げていくのです。さらに言えば、数字や言葉で明示していくのです。
クライアントに共感・理解される「価値」と「ステップ」を
例えば、ある方の具体例でみていきましょう。
その方は、昔は上司から「話が分かりにくい」、「何が言いたいか分からない」、「会議でも話が長い」と言われていたそうです。その時に、どうやったら伝わりやすくなるか、上司に認めてもらえるか、を工夫したそうです。本を読んだり、セミナーに出たり、同僚に実践してみたりと・・・
(こう書くと簡単に出来たように感じられますが、ご本人は相当な苦労をなさったとお聞きしています。)
その結果、”手書きで図解する”、”強制的に結論を先に言わなくてはならない伝え方をする”、などのオリジナルな手法を編み出していったそうです。その結果、上司にも「簡潔明快で分かりやすい!」や「こじれた話も整理できる」という評判が立ったそうです。さらに、社内でそのノウハウを使って会議の効果的な運用に活用したい、といったお声もかかったそうです。こうした経験と編み出した手法をもとに、今はでは組開発のコンサルタントとして活躍されています。
このように、「昔、出来なかった事実」と「今、できるようになった事実」をもとに、「簡潔明快に伝えられる」スキルを習得し「組織内の課題を解決する」という価値を提供できるようになりました。
さらに、そのギャップ(差)を定量的・定性的に捉えてみると
上司に報告するのに5分かかっていた ⇒ 1分でまとめられる
起承転結のようなダラダラ話だった ⇒ 結論から要点を絞って伝えられる
外国人とは語学力の点から伝達力が低かった ⇒ 図解でほぼ100%伝えられる
結果、提供価値として
「話が分かりづらいと困っている人に、伝達力を上げる価値を提供できる」
というように、そのギャップと価値をしっかりと明示してみるのです。
すると、前回の記事でお伝えした事が、ここで活きてきます。「目の前の仕事を全力で取り組み、プロフェッショナルをめざす」事で、その後、昔と比較することでその成果とギャップが見える状態になっているはずです。
さらに、この昔と今を正しく棚卸しすることには、もう1つ別のメリットがあります。
それは講師のプロフィールに、しっかりとその苦難の道筋を示せることで、「昔は私も同じように、上手く出来ない一人だった」とクライアントに共感・理解をして頂ける、からです。
現場で苦労した経験、実践の中で編み出したノウハウ、情報にこそ価値がある
クライアントがコンサルタントを選ぶ基準は、それこそケースバイケースかもしれません。しかし、間違いなく共通する基準としては、「どんな価値を提供してくれるのか=効果」と、もう一つ大事な視点「このコンサルタント自身が獲得したオリジナルなノウハウなのかどうか」という点でしょう。
つまり、他人の受け売りや勉強で得た情報・ノウハウではなく、このコンサルタントが現場で苦労した経験や試行錯誤した結果、苦心して編み出したノウハウ、スキル、情報であるかどうか、が重要なのです。
完全なるオリジナルのノウハウというものは難しいかもしれません。しかし、そのコンサルタントが、しっかりと自らの言葉で、自身の経験を語れることは、そのコンサルタントオリジナルの価値となっていくのではないでしょうか。なぜならばクライアント側も、自社の課題に対してもしっかりと「自分事として」コンサルティングに取り組んでくれるか、という判断基準になるからです。
この「自身の棚卸し」をロジカルに明確にしていくこと、これがコンサルタントとして営業活動をする際、つまりクライアントから”選ばれる理由”=判断材料となっていくはずです。
ロジカルに理解され(自身の成果を論理的に説明できて、クライアントにも提供できる)、かつ感覚的にも共感される(同じ苦労を味わった仲間のような感覚)という2点で重要なのです。
自分との苦闘、ビジネスの現場の匂い。コンサルタントの本質とは
私は、過去に数百人の講師コンサルタントを見てきました。この自身の棚卸しをしっかりして、その成果とギャップを正しく伝えている講師コンサルタントは、その分野で第一人者として活躍している方が多数いるように感じます。
一見コンサルタントというと、華々しい経歴や、実績、肩書などに目が行きがちです。しかし、その裏にある経歴の間からにじみ出てくる、出来なかった自分との苦闘、ビジネスの世界で揉まれてきた現場の匂い、これがコンサルタントの本質なのではないか、と常に考えています。
独立コンサルタントをめざすにあたり、”正しい棚卸し”
まずは、取り組んでみてはいかがでしょうか。
Brew(株) 代表取締役 セミナー/研修プロデューサー
1973年生まれ。中小企業診断士。横浜市立大学卒業後、建設市場のシンクタンクにて経営企画を担当。その後、法人向けセミナー・企業研修を行う会社へ転職。階層別研修から営業、マーケティングなど専門領域の研修設計、セミナー企画実施を10年以上行う。 2014年、Brew(株)設立。300人以上の講師・コンサルタントネットワークから「最適講師の提案」、顧客の課題解決につながる研修やコンサルティングを「ゼロから設計」して提供している。東洋経済オンライン、ハーバービジネスオンラインなどでも執筆。 著書には、「研修・セミナー講師が企業・研修会社から”選ばれる力”」(同文館出版)がある。
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