これまで数多くの講師・コンサルタントをみてきた、研修・セミナープロデューサーの原佳弘氏による「選ばれるコンサルタント」についての連載です。

原氏は、12年間で500人以上の講師・コンサルタントと面談してきました。現在も300名以上の講師・コンサルタントとパートナーを組んで、企業のコンサルティング、研修、法人向けセミナーのサービスを提供しています。

今回の連載では、「独立して、売れているコンサルタント」になるために、独立する前に、知っておきたいこと、準備しておきたいこと、について、実際の事例を含めてご紹介していただきます。

選ばれるコンサルタント、選ばれないコンサルタントは何が違うのか?

多くの企業にコンサルティングや研修を提案する活動を続けていると、どういった講師コンサルタントが、企業から選ばれるか、またリピートがあるのか、よく見えてきます。つまり「選ばれるコンサルタントとは何か?」といったポイントを感じとれるようになります。そして、その逆もまたしかり。「あまり仕事が依頼されないコンサルタントとは?」という点も、明確に感じる部分があります。

連載の初回は、ノマド的働き方の1つの選択肢として、「独立コンサルタント」を目指すメリットと、独立コンサルタントをめざす場合に、何を一番大事にして欲しいか、と言った点をお伝えして参ります。次回からは、「選ばれるコンサルタント」を目指す際に、特に重要と感じる点についてお伝えしていきます。その後の回では、実際の講師コンサルタントに登場いただき、より具体的な実例をお伝えしてまいります。

独立コンサルタントの3つのメリット

「なぜ、独立コンサルタントを目指すのか?」、という点をまずクリアにしておきたいと思います。

独立コンサルタント=フリーのコンサルタント(ビジネスノマドのコンサルタント)には、いくつもメリットがある、と感じています。

1つ目は、「専門性を磨き続ける環境があるから」です。

独立コンサルタントの方が、ご依頼頂く仕事を通じて、自身の専門性をより磨き続けていくことができると感じます。企業勤務のコンサルタントの場合、担当業界の変更や部門人員バランスの変更による異動、さらに社内での昇進などにより、自身が目指す領域だけを担当することができないことがあります。これは、多様な業界、領域を学ぶことができる有り難い機会となる一方、自分が極めるべき道(専門分野)を決めたコンサルタントには、時間やクライアント接点の面で、遠回りとなってしまいます。その点、独立コンサルタントは、自分が選択した領域を真っ直ぐに、より深みを増して、極めていくことができるからです。

2つ目は、「ワーク・ライフ・バランス」の視点です。

独立しているからこそ、仕事とプライベートのバランスが取りやすいはずです。子育て、介護、その他趣味の時間とのバランスのとりやすさは間違いなく高いでしょう。

そして、建設的な意味において趣味教養の時間に当てることができます。弊社のお付き合いある講師コンサルタントで、活躍している方を見ると、趣味や余暇を十分に堪能している方が多くいます。しかも、単純に遊びとして没頭するだけでなく、その時間・活動から得た知見・人脈・スキルを、本業に転用・昇華させているようにも感じるのです。

まさに、ワークとライフの境目を良い意味で無くして、前向きに活用されているのです。クライアントとも話に華が咲きます。仕事一本槍のコンサルタントより、人間味がある、心に余裕がある、信頼感がある、というクライアントの声さえもあるそうです。独立コンサルタントは、こうしたワーク・ライフ・バランスを前向きに活用することができるのです。

3つ目は、「環境変化への対応のしやすさ」です。

環境変化は予期せぬところから発生します。自然災害や政治経済といった大きな変化から、結婚・出産・育児・介護といった生活面の変化まで、環境変化はそれこそ多種多様です。一見、独立コンサルタントは、仕事がゼロになるリスクがある、とも捉えられますが、実はこうした変化への対応が、比較的しやすいのでは、と感じるのです。

勤務コンサルタントの場合、時には会社を辞めるという重い選択肢が迫られこともあるでしょう。それこそ環境変化のダメージをモロにかぶってしまいます。

また事業会社を経営している立場ならば、自分の代わりに安々と事業を部下や他人に委ねたいところですが、簡単にはいかないでしょう。仕事が減った環境において、固定費を回収するためにあくせくしなくてはならないかもしれません。

その点、ノマドコンサルタントは、仕事が減った際は無理に仕事を取りに行かない、インプットや交流、視野を広げる活動に重点をシフトすることも出来ます。あるコンサルタント曰く、「そうなったら学びや自分に変化が迫られている」と捉える機会としていると聞きました。自由度が大きいからこそ変化に柔軟に対応しやすく、ハードルが高くないからこそ焦り過ぎずに苦しい時を乗り越える術を身につけられるのです。

このように、ビジネスノマドとしてのコンサルタント起業には、不安も大きい点もありますが、その一方でメリットがしっかりあると感じます。

重要なことは資格ではない。独立するために何を準備しておくべきか?

では、今後そうした、ビジネスノマドとしてのコンサルタントを目指していくあたり、今準備しておくべきことは何でしょうか?

専門性、問題解決力、プレゼン力など、スキル面など「学ぶこと」「やるべきこと」は多々あると思います。コンサルタントとして、専門知識、問題解決能力を磨くことは重要でしょう。そして、スキルや能力だけでなく、明確な指標として各種資格やMBAなどの取得を一つの目標として挑戦する事もあるかと思います。クライアントから見て「分かりやすい」称号、肩書であることは間違いないでしょう。こうしたスキルアップや資格取得は、ないよりはあった方が良いことは間違いありません。

しかし、あえて筆者は「一番大事なことは、資格じゃない!」と感じます。

これは3つの面から感じます。

1つは、「その他大勢の同業に埋没しがち」だからです。

資格を目指す人が増えているそうです。しかし、資格を取得しても仕事が取れずに困っている方も少なくないと聞きます。資格によりますが、資格保持者の増加に対して、クライアントがそれほど増えていないことも一因です。つまり資格をとっても、競争が激しい状態なのです。

さらに、なぜか資格を取得すると、周囲の同じ資格ホルダーと同じようなサービスを開発・提供していくパターンが多いように感じます。「この資格で提供する(できる)商品サービスはこれしかありません」、などとマニュアル化されているかのように同じ商品サービスを開発提供しがちなのです。すると、同じ資格保持者同士の価格競争に陥ってしまうように思えます。つまり、資格を持っているという点だけにフォーカスされて、その他同業に埋没しがちなのです。

2つ目は「企業側の選ぶ目線・視点」です。

クライアントは、社内でできない問題解決を「あなたしか出来ない」からこそ、高いフィーを支払って、依頼しています。より専門性の高い「オンリーワン」のスキル・問題解決力が、クライアントに期待されているのです。言い換えるならば、コンサルタントに仕事を依頼するクライアントは、資格だけでは選んでいないのです。本人が、苦労して編み出したもの、出来なかったことを苦節の末得たスキル、なんともしがたい難局を乗り越えてきた経験、血の滲むような汗と苦労の想いのこもったストーリー。

これこそがクライアントが欲していることです。資格をとることで得た知識・情報を「知っている」「学んだ」だけでは、大きな仕事などの依頼はしないはずです。

3つ目は「紹介する側が、紹介しにくい」からです。

研修会社やコンサルティング紹介会社は、クライアントから様々な案件を相談されます。

その中には、資格保持者であることを条件にした案件もありますが、「専門的なその方オリジナルのスキル」を頼みにコンサルタントを探しています。資格だけで選択していませんし、選択できないのです。資格より、その方が苦労して取得された経験や実績、そしてスキルを元にクライアントに紹介するからです。つまり、クライアント向けの明確な「提案する材料・理由」を用意したいのです。

このように、資格を取ることだけに集中するのは、ノマドコンサルタントとして近道ではない、と感じるのです。

本業の目の前の仕事で圧倒的なプロになること!

では、一番、何に集中しておくべきか!?

「目の前の仕事で、圧倒的なプロになる」ことをお勧めします。

自分の担当業務において、その分野・業務・業界にかけては、誰よりも詳しく知っていて、もちろん圧倒的な成果を出せる、そして誰かにも教えられるレベル、ここを目指すのです。先輩社員が舌を巻く、取引先が驚愕する、そんなレベルです。

大企業にお勤めの方は、細分化された細切れの仕事をしている場合もあるでしょう。中小企業で働いている方は、何から何まで担当しているかもしれません。状況や立場は異なれど、圧倒的な「知っている」「出来る」から「成果を出せる」「教えられる」レベルを目指すのです。

どんなことでも良いと思います。「私のこんなちっぽけな仕事」「くだらない仕事」と思わないことです。極めてみることです。

例えば、銀行に行って釣り銭両替を準備すること、早く正確な見積書を作ること、取引先が感謝するようなお礼ハガキを作ること、社内の会議要資料を、誰が見ても分かりやすい完結明快な資料にすること・・・そんなくだらない作業、と思えるようなことでもまずは良いのです。逆に、「くだらない」と思うような誰もが専門家を目指していないことの方が、チャンスとなる可能性さえ感じます。

資格取得などは、カッコよく見えます。評価されるものでありますし、そして、誰からも分かりやすい基準です。しかし、それは後付けでも良いと思います。目の前の仕事でプロになる段階で、独立起業する際に、必要となったら取得すれば良いのです。資格をとってから専門家になるのではなく、専門家として知識や経験を整理したい、明確な称号を取得したいならば資格をとる、のが早道でしょう。順番が違うのです。

まずは、目の前の仕事で「圧倒的なプロになる」

これを目指してみてはいかがでしょうか。それこそが、ビジネスノマドとしてのコンサルタントへの近道でしょう。

【専門家】原 佳弘
Brew(株) 代表取締役  セミナー/研修プロデューサー

1973年生まれ。中小企業診断士。横浜市立大学卒業後、建設市場のシンクタンクにて経営企画を担当。その後、法人向けセミナー・企業研修を行う会社へ転職。階層別研修から営業、マーケティングなど専門領域の研修設計、セミナー企画実施を10年以上行う。
 2014年、Brew(株)設立。300人以上の講師・コンサルタントネットワークから「最適講師の提案」、顧客の課題解決につながる研修やコンサルティングを「ゼロから設計」して提供している。東洋経済オンライン、ハーバービジネスオンラインなどでも執筆。
著書には、「研修・セミナー講師が企業・研修会社から”選ばれる力”」(同文館出版)がある。
ノマドジャーナル編集部
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