宅配最大手のヤマト運輸はこのほど、運送業務に従事する社員を対象に勤務実態を調査すると発表しました。調査対象は約7万人に上り、調査の結果、従業員が認識する労働時間が会社の記録よりも多かった場合には、未払いとなった賃金を支払う方針です。

同社によると今回の勤務実態調査は働き方改革の一環に位置付けられています。宅配個数の急増により長時間労働が慢性化している現状をふまえ、労働環境の改善を目指します。企業自らがサービス残業の実態調査に乗り出し、未払い残業代を精算する取組みは極めて異例だといえるでしょう。

労基法が労働時間の上限(法定労働時間)を定め、原則として上限を超えて労働することが禁じられている一方、36協定によって労働時間の延長が実質的に無制限となり、長時間労働を助長している実態は前回お話しした通りです。政府も長時間労働の是正に向けた施策を打ち出しています。

しかしサービス残業は表面化しないため、是正されにくい性質を持っています。また、労働時間の例外的措置にはバリエーションがあり、労働者が時間外労働だと認識していても、実はそうでないこともあり得ます。今回はヤマト運輸の勤務実態調査への取組みを受け、例外として許容されている労働時間制について緊急特集します。

1.みなし労働時間制でサービス残業も合法化?

わが国は「みなし労働時間制」という他国に類のない制度を採用しています(労基法第38条の2)。みなし労働時間制とは、実際に働いた時間を算定することなく、あらかじめ決められた時間を労働時間とする制度で、事業外労働と総量労働制があります。

1-1.混在型の事業外労働は労働時間管理が重要!

業務の一部または全部を行う場所が事業場外であり、使用者の具体的な指揮監督が及ばないことで労働時間を算定することが困難な場合、所定労働時間を労働したものとみなされます(労基法第38条の2第1項)。

また、所定労働時間より長く労働していることが明らかな場合は、その労働に「通常必要とされる時間」が労働時間とみなされます。「通常必要とされる時間」は事業場ごとに異なるため、事業場の過半数組合か組合がない場合は過半数を代表する者との労使協定により決めます。労使協定の内容は労働基準監督署に届出なければなりません(労基法第38条の2第2項)。

みなし労働時間制を採用した場合でも法定労働時間を超えて労働した時間については、時間外労働として割増賃金が発生します。ところが、外回りの営業マンのように社内勤務と社外勤務が混在する場合は、社内勤務はみなし労働時間とはできないため、実労働時間が法定労働時間を超えても時間外労働とならないケースが出てきます。

たとえば所定労働時間8時間、社外勤務は6時間のみなし労働時間制とされている場合を考えてみましょう。朝から社内で2時間会議に参加し、その後外回り営業で7時間勤務すれば実労働時間は9時間となります。しかし社外勤務は、あくまで6時間としてカウントされます。これにより勤務時間の合計は8時間となり時間外労働はないことになります。

所定労働時間:8時間
みなし労働時間:6時間
社内勤務:2時間+社外勤務7時間=9時間→1時間の時間外労働?
社外勤務7時間は6時間としてカウントされるので・・・
社内勤務:2時間+社外勤務6時間=8時間→所定労働時間内に収まる!

これに対し、所定労働時間8時間、社外勤務は8時間のみなし労働時間制の場合に朝から6時間の外回り営業をし、その後帰社してデスクワークを2時間したとしましょう。この場合、実労働時間は8時間で所定内に収まっていますが6時間の外回り営業が8時間とみなされる結果、社内勤務した2時間は時間外労働として扱われます。

所定労働時間:8時間
みなし労働時間:8時間
社内勤務:2時間+社外勤務6時間=8時間→時間外労働なし?
社外勤務6時間は8時間としてカウントされるので・・・
社内勤務:2時間+社外勤務8時間=10時間→2時間の時間外労働が発生!

このように社内勤務と社外勤務が混在するケースでは、労働時間のとらえ方が複雑になり注意が必要です。

1-2.裁量労働制は時間外労働という概念がない世界

裁量労働制とは、労働者の裁量によるところが大きい業務について、実労働時間ではなく、みなし労働時間を総労働時間として扱う制度です。システムエンジニア等を対象とする「専門業務型」が平成10年に導入されました。その後、平成15年の法改正で「企画業務型」が新設され、企業の中枢部門において企画・立案・調査・分析の業務を行ういわゆるホワイトカラーにも拡充されました。

専門業務型は業務遂行の手段および時間配分につき具体的指示をすることが困難な業務に適用されます(労基法38条の3)。対象は研究開発、デザイナー、システムエンジニア等、一定の職種に限られています(労働基準法施行規則24条の2の2第2項など)。制度の導入に際しては、厚生労働大臣による指定業務を前提として労使協定で対象業務を確定する必要があります。

一方、企画業務型は社内の中枢部門で企画・立案・調査・分析を行う労働者を対象とします(労基法38条の4)。職種は厚生労働省令によって例示された高度な専門業務に限られます(労働基準法代38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針)。制度の導入には労使同数で構成される労使委員会の決議が必要であり、専門業務型よりハードルは高くなっています。

裁量労働制では、みなし労働時間を基準として賃金計算します。設定されたみなし労働時間が法定労働時間を超えたり深夜に及んだりする場合には割増賃金が発生しますが、みなし労働時間を超えて労働しても時間外労働手当は発生しません。

2.変形労働時間制で消える時間外労働手当

変形労働時間制とは、一定期間内の労働時間が平均して1週40時間以内に収まっていれば、その一定期間内の特定の週に40時間を超えたり、特定の日に8時間を超えたりすることを認める制度です。労基法は1日8時間、週40時間を法定労働時間としていますが、変形労働時間制はそれより長い一定期間の平均によって1日及び1週の労働時間を算定することができます。

一定期間は1ヶ月を基本類型とし、最長1年単位、1週間単位の3種類が設けられています。制度の導入は労使協定によることが必要です(労基法32条の2)。

たとえば、月末に仕事量が増えるが、それ以外は比較的余裕があるというケースを考えてみましょう。この会社では一定期間を4週間とした上で、月末の週につき所定労働時間を46時間、その他の週を38時間とします。そうすれば4週間の平均労働時間が40時間以内となるので法定労働時間の規制には違反しません。さらに月末の週の実労働時間が46時間以内なら時間外労働手当も発生しないことになります。

このように労働時間を弾力的に設定できる変形労働時間制は、活用次第で企業にとって効率のよい労務マネジメントシステムになります。

3.労働時間を貸借するフレックスタイム制には要注意!

フレックスタイム制とは、労働者が始業時刻と終業時刻を原則として自由に決められる制度です。通勤時間を遅らせることでラッシュを避けられるなどのメリットがあります。導入には労使協定が必要です。

使用者は、出退勤をなすべき時間であるフレキシブルタイムに加え、会議等の恊働作業のための時間帯としてコアタイムを設定することもできます。たとえば、7時から10時までを出勤時間帯であるフレキシブルタイムとし、10時から15時までをコアタイムとした上で、15時から20時までを退社時間帯であるフレキシブルタイムにするという形態です。

この他、対象労働者の範囲、1ヶ月以内の清算期間、清算期間の総労働時間、1日の標準労働時間などを決める必要があります。清算期間とは賃金計算するための基礎となる一定期間をいいます。労働者は毎日同じ時間働くわけではないので、労働時間を賃金計算に反映するためには清算期間を設けることが必要であり、月給制の場合は1ヶ月とするのが標準的です。フレックスタイム制にも法定労働時間の規制は及ぶので、清算期間における週の平均労働時間は原則として40時間を超えてはいけません(労基法32条)。

フレックスタイム制の問題として労働時間の「貸借制」があります。例として36協定が締結されており清算期間が1ヶ月、総労働時間が170時間とされている場合を考えてみます。

仮に清算期間における総労働時間が180時間だったとしましょう。この場合、10時間分は時間外労働となり時間外労働手当が支給されなくてはなりません。ところが、この10時間を使用者が「借りた時間」として翌月以降に持ち越し、労働時間が170時間より少なくなったときに相殺するという扱いをするのです。反対に総労働時間が170時間に満たない場合、相殺する「借りた時間」がなくても、使用者は「貸した時間」として扱い、欠勤にはしません。

このような貸借制は、時間外労働手当を退職の際に清算することになるので使用者の利便性は大きいといえます。しかし月単位で見れば時間外労働手当が支払われないことになるため、労働者にとって不利益であり問題があるといえます。

4.まとめ

今回は例外的な労働時間制を紹介しました。みなさんの働き方にあてはまる制度はあったでしょうか。労働時間は賃金計算の基礎となる重要な概念です。これまであまり深く考えたことがないという方は、一度、就業規則等を見直してみることをお勧めします。

ヤマト運輸の取組みによって、日本の労働市場の悪しき慣習ともいえるサービス残業に本格的なメスが入ろうとしています。今後ますます、こういった企業の取組みが広がることを期待しつつ、労働者としても労働時間に対する意識を高めていくことが、よりよい職場環境を実現するための働き方改革につながるのではないでしょうか。

記事制作/白井龍

ノマドジャーナル編集部
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