民泊に泊まってみた

昨年、訪日外国人300万人が利用したというAirbnb。ここ数年で一気に宿泊実績を倍増させてきた民泊の内側を、今回は少し覗いてみようということで、ある民泊に実際泊まり、ホストにお話を伺いました。
2017年3月末、東京都の閑静な住宅街。細くゆるいカーブの路地に面した白いシンプルな建物の、こじんまりとしているがセンスのいい小さなドアのベルを押します。すると中から鍵を開ける音がして、初老の男性が出てきました。予約していた旨を伝えると、「お待ちしておりました」と気持ちよく招き入れてくれました。

しばし、施設内をレポート

玄関ホールは実用的で無駄がなく、階段は地下と二階への方向に別れています。客室になっているという二階に案内されました。使い込まれた無垢の板材の廊下を歩くと、泊まる事になっている部屋が。「こちらの部屋になっています」。ホストはそう言いながらドアの鍵を開け、中に通してくれました。かばんを置いて一息つくと、今度は、施設の使い方の説明がはじまります。

民泊にはハウスルールというものがあって、門限や風呂の使い方、キッチンの使い方、ゴミの分別の仕方などの説明を受けました。「キッチンは自由に使ってください。鍋もあるものを使ってもらっていいですよ。後片付けは各自でお願いしています」とのこと。
一連の説明をすると、今度はリビングへ。あらかじめ予約時に、民泊を始めた動機や仕事内容について取材させてほしいとお願いをしていたので、こちらでお話しましょうということでした。

民泊は、この時点では新法が閣議決定したばかり。法的なしばりが不透明なため、ご迷惑をかけないように、実名表示や写真撮影はしないという約束で取材を受けていただくことになりました。

元商社マンの思いが民泊スタートにつながった

応じていただいたのはホストのKさん。民泊をはじめて1年。大学卒業後から商社マンとして海外を巡り昨年退職したそうです。

筆者)民泊を始めようと思われたのは、どういう理由からですか?
Kさん)商社マンをしていたときは、本当にいろんな国のいろんな人に助けられました。向こうからしてみれば外国人なのに、とても親切にしてもらったことが嬉しかったんです。いつか今度は自分が人に親切にしよう、とずっと思ってきました。

そうこうしているうちに退職となり、仕事からは遠ざかっていましたが、子どもたちが巣立って、妻も亡くなってしまったために、家にぽっかり穴が開いたように感じたんですね。そこで民泊の存在に気付きました。Airbnbのセミナーに参加して、今の空き部屋を有効に活用すれば収入につながるし、外国からの旅行者に恩返しができると考えたのが、一歩踏み出した理由です。

筆者)始めるのはスムーズに行きましたか?
Kさん)Airbnbに任せていればよかったですから。

筆者)なるほど。では、民泊をしていく上で必要な能力などはありますか?
Kさん)やはりコミュニケーションですね。宿泊設備をまるごとお貸しする場合はまだいいのですが、私のように管理人が住み込みでいる場合は、ゲストへの案内をする必要があります。そのときに最低限、英語で会話できるようでないとお互い困るでしょうね。これからは、中国語も話せるといいですね。ホストの中には、外国語ができる息子さんたちが実際の運営をしていることも多いようです。

ホストは人とのつながりを大事にする人でした

筆者)はじめてみて、いかがですか?
Kさん)私は、人とのつながりを大事にしたいと思っていますので、ゲストの方々とよく話をするんです。たとえば、オーストラリアから来た男性とは、今でもメールのやり取りをして、友達のようなお付き合いをしています。ゲストの人たちとのつながりができると、民泊をやってよかったと思いますね。

ここで用事があるからと、席をいったん外したKさん。ただ、自分が留守をしているとき困るだろうからと、家の鍵を手渡してくれた。こういった信頼関係が心地いいのも、民泊の良さのひとつなのかもしれません。

―3時間後。
私が食事のために外出して戻り、部屋で書き物をしていると、ノックの音がしました。「ハイ」と答えてドアを開けてみると、そこにはKさんがいました。Kさんは、民泊を運営するのにとても助かっているというタブレットを見せに来てくれたのです。

「これが、予約、スケジュール管理、売上管理からメッセージのやり取りまで全部こなしてくれるんです。ですから複雑なことは何もしなくて済みます。こういったシステムがあるから、安心して民泊を始めることができるのです。」
指を動かしながらKさんは、今ここにはたくさんの外国人ゲストの写真とメッセージが載っているのだと嬉しそうに語っていました。民泊をはじめて1年。Kさんの宝物は、少しずつ貯まっていっているようです。

泊まってみての感想

管理人が住み込みで管理するタイプの民泊は、まるごと貸しのような家族で使うものというより、個人客がルールを守りながら生活する空間。だから、お風呂が使用中のときは、少し待つ必要があったり、キッチンも同じ。しかし、ゲストの方が旅慣れていて、みんなでうまく使ってくれますとKさんは言います。
民泊は、法規制と現実との乖離を詰めながら、さらに発展していくのだろうと思った1日でした。

朝出かけるときにはKさんは不在でしたが、あとで連絡がありました。人を大事にするホストとのつながりというのも、旅行者にとってはうれしいものなのです。学生時代に自転車で日本一周した経験があるわたくしとしましても、懐かしいペアレントのぬくもりを感じるホームでした。

取材・記事制作/ナカツカサ ミチユキ

ノマドジャーナル編集部
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