前回ローソンパナソニックが共同開発を進めているレジロボ®(ICタグによる精算)の話をしたが、実はコンビニ大手5社ではすでに、2025年までに共通のICタグを使ったセルフレジを全店舗で導入することを取り決めている(2017年4月18日付 日本経済新聞)。

レジ台に置くだけで会計が可能なため、レジ待ちの時間が削減や人件費を抑えられることはもちろん、共通ICタグにすることで、メーカーでは生産の効率化、配送の負担を減少させられるとあって、効果への期待が高い。だが、どこにでも上には上がいるものだ。それが、昨年12月に米シアトルでオープンした、Amazonのリアル店舗「Amazon Go」だ。

今回は、Amazon Goの仕組みと日本のコンビニで導入が進むセルフレジとの違い、またメリット・デメリットについても考えてみたい。

■クラウドに人工知能、次世代技術でビジネス界の覇権を握る

「地球上で最も豊富な品揃え」を目指し、全世界でECサイトを展開するAmazon。米Amazonの2016年における連結総売上高は前期比20.7%増の1359億8700万ドル、そのうち日本事業の売上高が占める割合は7.9%。ちなみに、2016年の売上高は前期比30.6%増の107億9700万ドルで、日本円にすると約1.1兆円。日本の国家予算約100兆円(歳出)の、実に1割にも匹敵する数字を、たったひとつの企業、それも一エリアが稼いでいるのである。

下世話な話になってしまうが、Amazonの創業者ジェフ・ベゾスの資産についても調べてみた。世界長者番付によると、1位のビル・ゲイツに続く2位で、保有資産は8.4兆円(https://forbesjapan.com/articles/detail/15752)。もはや小国が買えてしまうレベルだ。

ECサイト、AWS(Amazon Web Service)に続き、近年注力しているのが、人工知能(AI)技術を活用したサービスだ。Amazon AIではすべての開発者が、文章からリアルな音声への変換、音声や文章を使用した会話、画像分析による顔、物体、シーンの認識といったアプリケーションを簡単に構築することができ(Amazon AIサービスより抜粋 https://aws.amazon.com/jp/amazon-ai/)、自社のビジネスにも応用が可能だ。

■Just Walk Out技術が実現するまったく新しいショッピング体験

Amazon Goではコンピュータビジョン(ユーザーが入店してバーコードを読み取る)、ディープラーニングアルゴリズム、センサ融合(ユーザーが何の商品を取ったかを認識する)など、自律走行車に採用されているものと似た技術が採用されており、Amazonではこの特定の機能セットを「Just Walk Out」技術と呼んでいる。

Amazon Goの仕組みは、以下の通りだ。
①入店したらスマホで「Amazon Go」アプリを立ち上げて、QRコードでチェックイン
②商品を自分のバックに入れる

(商品棚に戻せば、課金がキャンセルされる)
③お店を退出すると、Amazonのアカウントに自動課金される
※レシートは、eレシートが顧客のアプリに送付される

これが実現すれば、お店には商品を陳列するスタッフのみがいればいい、ということになる。いや、将来的には、自動運転車が店舗まで商品を運び、Amazon Roboticsで導入している自走式ロボット「ドライブ」が商品管理や品出しを行うようになり、物流から販売までまったく人の手を介さないという未来が実現する可能性もあるのだ。受け取り方はさまざまだろうが、人材不足に悲鳴を挙げる物流・サービス業界にとっては、まさにバラ色の未来だろう。

■一般向け店舗のオープン延期の理由は”技術的な理由”

だが、課題も山積している。その証拠に、2017年初頭に予定されていた一般向けの店舗(2016年12月にシアトルでオープンしたのは従業員向けのテスト用店舗)のオープンは延期されたままになっている。

米Wall Street Journalが3月27日に報じたところによると、「Amazon Goでは、一度に約20人の顧客が店に入ると、システムが顧客の動きを追えなくなるほか、棚の所定の場所から動かされた商品は、追跡が困難になる」という技術上の問題に直面しているという。

Amazon Goが広まるには今しばらくの時間がかかるだろうが、実現するかしないか、といえば、確実に実現する。そうなったときに気になるのが、日本のコンビニ業界が進めているセルフレジとAmazon Go、いったいどっちが優れているのか?という点である。

■気軽に使うならセルフレジ、継続して使うならAmazon Go

Amazon Goは事前にアカウントやクレジットカードの登録が必要ではあるものの、一度手続きをすれば済むものなので、煩わしいというほどのものではない。クレジットカードをつくれない20歳以下の利用が見込めないというところが、唯一のデメリットといえるだろう。

これに対してコンビニ各社が導入を予定しているセルフレジは、現金や電子マネーの利用が可能という点で、日本社会との馴染みがいい。事前の登録なども必要ないので、子どもからお年寄りまで誰でも、説明なども受けずに利用ができることも魅力だ。
一方で、レジでの精算が必要なため、現状よりは待ち時間が減ると考えられているものの、待ち時間をゼロにすることはできない。また、セルフレジの導入費用に加えて、ICタグのコストがいまだ高いこと、購入後の廃棄問題など、一企業だけでは解決できない課題が多い。

各項目を比べてみると、人件費の削減、低コスト、消費者利益(待ち時間の減少)という点で、一歩リード。さらに、スーパー型の店舗展開やプラットフォームのライセンス提供まで想定しているということを踏まえると、現状ではAmazon Goに軍配が上がる。

■実店舗における購買行動データは宝の山

しかもAmazon Goが優れている点は、上記に挙げたものだけではない。メリットとしては、以下の3点が考えられるだろう。

①人件費の削減

正確なデータは見つからなかったが、コンビニの運営には20名ほどが必要だという。同一のシフト(時間帯)に入るのは2〜4名で、そのうち1名〜2名がほぼレジ業務に専従していると考えると、レジがなくなることで1/4の業務が削減、つまり人件費の削減に繋がる。ちなみに、ローソンが実証実験を行っている「レジロボ®」では業務の1割程度の削減を見込んでいる。

では具体的に、どのくらいの人件費削減が見込めるのだろうか。株式会社TKCが公表しているBAST(経営指標)の速報版によると(※)、コンビニの平均売上高は4億3597万1000円で、人件費の平均は4467万2000円。売上高の約10%を人件費が占めていることがわかる。
レジなし店舗にしたとすると、4467万2000円のうち1/4の約1,000万円が削減できることになる。これは無視できないほど、大きな数字ではないだろうか。
※BAST速報版(206業種12分析項目)/平成28年11月決算~平成29年1月決算
http://www.tkc.jp/tkcnf/bast/sample/

②発注・補充業務の効率化

店内にある無数のカメラと棚に設置された赤外線、圧力、重量センサーで、商品の数や移動などをトラッキング(追跡)が可能。商品が減ったときにアラームを鳴らすことで補充作業を開始できる、商品がなくなれば自動発注してくれるなど、業務の効率化に役立つ。

③マーケティングデータの取得

どの商品を選択したのか、視線や手の動き、店内での動きをカメラとマイクで詳細に把握することで、購買行動や顧客データを得ることができる。
こうしたマーケティングデータはオンラインサイトでは収集が容易だが、実店舗では技術・コスト面での課題があり導入が難しかった。それを初めて実現したのがAmazon Goというわけだ。

収集した膨大なデータは、実店舗・オンラインサイトでの顧客体験のさらなる向上へと活かされ、進化を続けていく。

④万引き防止

国内の万引被害額は年間4,000億円以上と言われており、小売業の売上のうち0.5%にもなると言われている。
Amazon Goは、入店時に専用のアプリで発行されるバーコードをスキャンすることで入店を特定し、クレジットカードでの決済をするという仕組みにしたことで、高い万引き防止効果が期待できる。また、釣り銭間違いなどミスも大幅に軽減できる。

⑤ICタグを使わない

日本のコンビニ業界が推し進めるセルフレジでは、商品にICタグをつけることが必要となる。実はこのICタグが曲者で、1個当たり10円前後とかなり高価なものだ(2017年5月現在)。日本では政府主導で、1個当たりの価格を5円前後まで下げようとしているが、実現にはまだまだ時間がかかるし、廃棄の問題を考えると、ICタグがなくてもいいのであれば、それに越したことはない。

Amazon Goでは、カメラとセンサーで商品の識別を行うためICタグは不要。導入時のコストは高いが、運用コストを低く抑えることができる。

■無人店舗で小売業は人手不足から労働力過剰に?

次に、デメリットについても見てみたい。「無人」の店舗のため、「人がいない」ことが要因になると考えられる。

①販促活動がしづらい

Amazon Goの運営に必要なのは、究極的には在庫管理や品出しといったバックヤード業務に携わるスタッフのみ。つまり接客要員がひとりもいないということになる。
人件費の削減にはなるが、試食や実演販売ができる人員がおらず、少なからず売上の減少に繋がると考えられる。

②ユニークな購買体験が生まれない

「モノ」消費から「コト」消費の流れを受けて、小売店ではスタッフと顧客との関係性(この人がいる店だから買いたい)を構築したり、この店だからこそできる購買体験(サービスがユニーク)に力を入れている。

しかし、店内が完全に無人になってしまえば、商品の品揃え・価格で勝負するしかなくなる。他店との差別化もしづらくなり、ひいては独自性が失われていく。

③技術的失業を引き起こしかねない

技術的失業とは、技術進歩による労働生産性の上昇に伴う失業のこと。たとえば、産業革命期(1770~1830年)のイギリスでは、それまで人びとの手作業で営まれていた織物業に紡績機や紡織機が導入されたことで、織り手が不要となり、失業者が増加した。

これと同じことが、将来的に小売業界にも起こりうる可能性が高い。セルフレジの導入を目指す日本のコンビニ業界では、削減できた労働力を別の業務に回す、人材不足の解消に繋がるなど今のところポジティブな側面が強調されている。しかし、Amazon Goのように店舗が無人で運営できるようになってしまえば、失業者が出るのは必至だ。

■技術的失業を救う秘策になるか?―キャリア・チョイス・プログラム

前述の産業革命時には、一時的に技術的失業が起きたものの、機械の導入により必要な労働力が節約される→綿布が低コストで供給される→下着を身につける習慣が広まり需要が増加することで、新たに工場労働者の需要が増大。比較的スムーズな労働移動が実現した。同じようなことは、第二次産業革命時にも起こっている。

しかし今回も、労働移動がスムーズにいくという保証はどこにもない。人工知能やロボットなど最新技術を理解し、使いこなすには高度な知識や技術が必要で、それについていけない人も一定数出てくるだろう。

そこで一石を投じたのが、他でもないAmazonなのである。Amazon Goの構想は今から4年ほど前からあったというが、それと前後する2012年7月に発表されたのが「アマゾン・キャリア・チョイス・プログラム」の導入だ。
米国内の拠点でフルタイムで働く時間給制適用の社員のうち、勤続3年以上が対象。職業訓練の費用の最大95%を支給する仕組みで、年間の上限は2000ドル。4年間にわたって支援を受けることが可能だという。

特徴的なのが、①賃金が高く需要が高い職種であればアマゾンの事業に関係なくても構わず、②得たスキルを、将来Amazonで使っても使わなくてもいい、という点だ。つまり、従業員側は給与とスキルアップに必要なコストを支払ってもらった上で、転職してしまっても構わないのである。

導入した背景については語られていないが、倉庫内での仕分けなど単純作業に従事する社員の多いAmazonでは、遅かれ早かれ自動化・機械化によって「人」が不要になっていく。その時に一斉に解雇するという手段もあるが、数万もの人を解雇するのは「グローバル企業としてあまりにも無責任だ」という非難が噴出するのは目に見えている。その前に対策を講じておこう、という思惑があるのではないだろうか。

■すばらしい制度も、働き方改革も。与えられるのを待っているだけでは上手くいかない

裏でどのような思惑があったとしても、10万人の雇用者に対する施策としての社会的意義が高いのは間違いないし、労働者自身にとっては、何らデメリットはない。たとえば歯科衛生士など専門資格を取得すれば、新たなキャリアや、人生の選択肢が見えてくるだろう。

ただ、この制度は全員に自動的に付与されるわけではない。申請も必要だし、どんなキャリアを選ぶのかは自分次第、つまり「待っていててはダメ」なのである。

日本の働き方改革にも、これと同じことが当てはまるのではないか。お上(=政府や企業)が制度をつくってくれるのを待つのではなく、まずは自らが動いてみる。自分たちの働き方を決めるのに、自分たち以上の適任はいないはずなのだから。

記事制作/宮本 雪

ノマドジャーナル編集部
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