多くの人から少しずつ資金を募ってプロジェクトを進めていくクラウドファンディングの手法は、ある面で税金の仕組みにも似ています。最近では、クラウドファンディングを活用して地域活性化に取り組む地方公共団体も現れ始めています。

地域のための資金をどこから集めるか

地域のための資金をどこから集めるかというのかは、租税の面からもひとつの課題となっています。地域内で集めた資金を地域内に還流していく従来型のシステムは、人口が東京に一極集中していく中では成り立たなくなってきているのです。これからは、いかにして地域外から資金を流入させていくかが重要なのです。

この地域外から資金を流入させるという課題を解決するためにクラウドファンディングを活用する地方公共団体が現れ始めています。その中でも最も先進的なのが愛知県です。

愛知県では、平成27年8月に「愛知県クラウドファンディング活用促進委員会」を設置し、行政機関や商工団体・地域金融機関が一緒になって、クラウドファンディングの活用方法を検討してきました。そして、委員会と並行して平成27年9月から県内中小企業向けのクラウドファンディングをスタート、これまでに18件のプロジェクトが進められました。

平成27年9月から平成28年3月にかけて実施された9件のプロジェクトについては結果の総括も行われています。この総括結果によると、9件中8件が目標金額の調達に成功しています。
9件のプロジェクトに1,494人が資金提供したわけですが、このうち地元・愛知県在住者が274人に過ぎず、その多くは県外からの資金提供でした。クラウドファンディングを通じて、地域外からの資金の呼び込みに成功したと言えるのではないでしょうか。

地方公共団体主導で政策資金を調達していくには、租税という仕組みもありますが、これは薄く広く資金を集めるという点では効率的ですが、地域外から資金を集めるのは難しいところです。なぜならば、愛知県庁が愛知県内のための政策を実施するために、他の都道府県の住民に納税を強いることはできないからです。
その点、自発的な応援を促すクラウドファンディングには、租税の限界と隙間を埋めていくような可能性が秘められていることが分かります。

まちおこしの主体は変わりつつある

これまで地域活性化・まちおこし運動の中心は、地方公共団体・地域内の住民でした。これは、自分達の街は自分達の手で元気にしていくという面からは正しいですが、地域外の存在を活動の輪の外に置くことにもつながっていました。

街を元気にしたいと考えているのは地域内の住民だけではありません。進学や就職で生まれ育った街を離れた人の中にも郷土愛を持ち続けている人もいるでしょうし、むしろ外に身を置くことによって気づく故郷の良さもあるはずです。また、アニメや漫画の聖地巡礼が観光需要として無視できない規模になっていることからも分かるとおり、外的な要因で特定の地域にスポットライトが当たり、ファンが増えることもあるのです。

例えば、昨年にテレビ放映されたアニメ「迷家-マヨイガ-」では、後援会と銘打った組織を立ち上げ、資金を提供したファンに金額に応じたヴロンズ村民・プラチナ村民といった称号が付与されます。そして、最高の称号である村議会議員となったファンは制作スタッフとともに、アニメの舞台である納鳴村のモデルとなった山梨県道志村に聖地巡礼する権利が与えられました。人口2000人足らずの村が一挙として全国のアニメファンから注目を集める場所になったのです。

これからのまちおこし運動は、いかにして地域外の存在を巻き込んでいくかが大きなポイントになりそうです。様々なコンテンツとの組み合わせ、そしてクラウドファンディングによって資金流入を促すというのは、ひとつの型として定着しつつあるのではないでしょうか。

地域外の存在を巻き込むことのもうひとつの利点

クラウドファンディングなどで地域外の存在を巻き込むという手法は、資金面以外でも地域に良い効果をもたらします。それは、運動の中に第三者的な評価が入り込むという点です。

地域活性化・まちおこし運動は、ややもすると地域内での自己満足、ひとりよがりなものになってしまいがちです。一部の成功事例だけを見て、漠然とした理想像、甘い見通しのもとに進めたことによって失敗した運動も珍しくありません。一時期流行した地方公共団体や商工会主導のアンテナショップはその典型例と言えます。

東京や大阪といった大消費地の一等地にアンテナショップを構えれば、地域内の物産の販路が広がる、地域に興味を持つ人が増える。これがいかに甘い見通しであることは、都市部に住んでいる人ほど肌感覚で分かるはずです。
東京・大阪にいる自分自身が何度アンテナショップに足を運んだことがあるか、物産を買うときにアンテナショップとネット通販のどちらを選ぶか。企画段階で地域外の存在(消費者)の目が入っていれば、アンテナショップのような採算性・効率性に劣った選択肢をとることはなかったかもしれません。

クラウドファンディングは、地域外の存在がその地域に何を望んでいるかを把握するためのツール、地域活性化・まちおこし運動を成功に導くためのガイドラインにもなります。

記事制作/ミハルリサーチ 水野春市

ノマドジャーナル編集部
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